かもめ録 #2:AIと文学賞

初めにちょっとだけ。

現在、葦沢は転職活動中です。今までは本業でAIエンジニア的なことをしていましたが、このタイミングでクリエイティブ方面に軸足を移して、テクニカルアーティストのようなAI技術に理解のあるシナリオライター、いわばシナリオエンジニアみたいな仕事ができたらいいなと思っています。

AIを活用したゲーム開発や映像制作でのディレクションにも興味があり、幅広く可能性を視野に入れて考えております。私が最重要視するポイントは、世の中にAIを活用したアートを普及することに貢献できるかどうかです。

転職サイトへの登録も進めておりますが、私に直接オファーをいただいてもOKです。お問い合わせは下記から。ご興味があればぜひ。

他にも色々立て込んでいて、2月はあまり動けなさそうなのですが、お仕事関連のお話をいただけると大変うれしいです。何卒よろしくお願いいたします。


ニュース

AIと文学賞

第170回芥川賞は、文学史上において歴史的な一歩となりました。受賞した九段理江氏の『東京都同情塔』は、生成AIを用いて執筆されていることが明らかになったのです。

内容が難解だとか、生成AIが普及した社会を描いているといった感想が多い印象ですが、私は異なる解釈をしています。本作は、暗喩を通して、生成AIを用いて執筆した小説で世界を支配したいという欲望と、それに伴う迷いや後悔、誹謗中傷の怖さとの間で葛藤する心を描いた作品だと、私は感じました。詳細は下記の記事で解説しております。

AI利用小説が芥川賞を受賞するのは史上始めて、国内で文学賞を受賞するのは2022年2月に私の『あなたはそこにいますか?』が第9回日経『星新一賞』にて優秀賞をいただいて以来、2度目となります。

『あなたはそこにいますか?』はhontoにて電子版が無料配布されているので、そちらから読むことができます。

制作過程は下記の記事に詳しく記載しています。AIの文章比率は、全体の10%程度です。(※ただし作品としてAIが何%貢献しているかは単純に言えるものではないので、数字が一人歩きすることは本意ではありません)

その他、参考までに2022年10月の第1回AIのべりすと文学賞にてSF作家の高島雄哉氏などが受賞されています。高島雄哉氏は第1回日経「星新一賞」に入選(私の大先輩!)された後、第5回創元SF短編賞を受賞されています。SF考証家としても活躍されており、昨年話題となった『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のSF考証も担当されています。

また2023年10月には、中国・清華大学の研究者が中国の地方文学賞にて二等に入賞しています。約200篇の応募のうち特別賞6件、一等賞14件、二等賞18件なので、約200作品中38作品に入った形。作品のほとんどはAIによって生成された文章と思われますが、大量に生成した中から人間が編集しているようです。

これまでの小説執筆とAIの歴史についてまとめたスライドもあるので、近いうちに公開できればと思います。2020年には私のAI利用小説が第1回かぐやSFコンテストの最終候補になっているなど、下記には記載できていないものもたくさんあります。

AIと文学の歩みはまだまだきちんと記録として残されておらず、Web上の小説投稿プラットフォームから排除されたり、文学研究者から無視されている現状があるので、文化的に価値のある貴重な記録を残すという意味でこうした活動は継続して行っていきたいです。しかし私一人で達成できるものではないので、ぜひ同じ思いの方々と協力して取り組めればと思います。

月面着陸

JAXAの小型月着陸実証機(SLIM)が、日本で初めて月面着陸に成功しました。世界では5カ国目。素晴らしい成果です。

特に下記記事にある坂井マネージャの言葉が印象的。

「(他の研究者は)あんなところに行けるわけないと思ったかもしれないが、SLIMは実際に着陸できた。スポーツの世界でも、ある人が記録をやぶると他の人が続くことがある。それと同様、これまでは行けないと思っていたところに着陸して新しい探査を行う人が出てくるのではないか。個人的には、そうしたところに意義があると考えている」

「SLIM」、スラスターが1つ脱落しながらも100m精度の着陸に成功していた 運用再開の可能性も【追記あり】(https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2401/25/news155.html)

AIを利用した小説執筆も、私が始めた5年前には「AIには小説なんて書けるわけがない」という人が大半でした。そこから私がAI利用小説で2020年に第1回かぐやSFコンテストの最終候補、第9回日経「星新一賞」優秀賞と結果を出し、そしてついには九段氏が芥川賞を受賞するまでになりました。

今後も月探査機のように新しい着陸地点を目指して、全てをAIで執筆した小説で受賞を目指したり、あるいはAIと人間の究極的な融合を目指すなど、様々な使い方をする人たちが続いていくでしょう。そういう未来を思い描いている人たちが一歩を歩みだすきっかけになれたらうれしいです。

トピックス

「創造性」という神話の解体

最近、「神絵師」ってオカルトなのかもしれないと考えています。

歴史を振り返れば、大昔には「神様が雨を降らせている」とか「太陽が地球を回っている」のような人間の想像した「物語」が世の中の理として大真面目に信じられていました。それが今では「科学」に置き換えられています。反ワクチンのような疑似科学や陰謀論は残っていますけれどね。

であれば、人間が創造してきた小説やマンガにおける三平方の定理やDNAといった原理が解明され、制作が工業化される、さらにはAIに置き換えられることもないとはいえないでしょう。実際、創作指南書を読むと、根性論とか適当なホラを吹いているものも多いですが、まともなものには三幕構成であったり面白いキャラクターの機械的な作り方が紹介されています。

でも先日、とある創作理論の本を読んで本質的なことが書いてあると感じ、ふとレビューを見てみたら「創作とはこんな理論で語られるものではない」と書かれていて笑ってしまいました。きっと「本体がよく分からないけれど恩恵を与えてくれるもの」に対して、ある種の人間は「崇拝」という応答をするのでしょう。この辺は人類学に通じる部分なのかなと思って、私も最近色々勉強しています。

そういった「クリエイター神話」は積極的に解体して、「人間の創造性は機械で代替できる」ことを一つの学問的な理論として体系的に整理するべきです。今は生成AIという便利なツールもありますからね。

その後に人間の創作がどうなるのか、正確なことは分かりませんが、宗教は科学が普及した現代においても残っていますから、人間の創作行為はそういう崇拝対象に純化されていくのではないでしょうか。現代日本においては「推し」という概念が浸透してきていますし、神クリエイターは支援サイトのメンバーシップで上納金を巻き上げていますから、形としてはすでに大して変わらないような気もします。

書評

『コンピュータ画家アーロンの誕生―芸術創造のプログラミング』

1960年代から絵を描くコンピュータを自らプログラミングして作品を制作していたハロルド・コーエンについて解説する書籍。自らの絵を描くアルゴリズムを機械に落とし込もうとしたコーエンは、自分の小説執筆技術をAIに落とし込もうとしている私にとっては偉大なる先人であり、勝手にシンパシーを抱いています。ここしばらく画像生成AIが話題ですが、こうした先人の先見の明と芸術における未開の地を開拓した偉業をないがしろにした議論はしたくないですね。ただし本書は入手がやや難しめかも。本書よりは短いですが、コーエンについては『創るためのAI 機械と創造性のはてしない物語』でも触れられているので、まずはそちらから入るとよいかもしれません。

『大規模言語モデルは新たな知能か――ChatGPTが変えた世界』

AIに詳しくない一般の方向けに、大規模言語モデルについて解説しています。情報が分かりやすく簡潔にまとまっている良書。興味のある中学生や高校生におすすめ。もちろん科学にあまり詳しくない大人の方にも。『ChatGPTの頭の中』も似たような解説書だけど、内容はちょっと難しいので理系の大学生向けかな。

『filmmaker's eye 第2版』

私が映画監督になるためのお勉強。表紙のキアヌがかっこいい。内容は構図の意図や使い方の解説。言わば「映像言語」の入門書。最近は動画生成AIが高精度な映像を作れるようになってきましたが、結局学習データの中にはその映像をどういう意図で撮影したかが入っていないので、AIだけで良い映画を作るのは無理だろうなと思っています。それをタグ付けしようとしても一人の映画監督が生涯に作れる映画の本数なんてせいぜい10本とか20本だから、制作者本人による均質なタグ付けには限界があります。別の人がアノテーションしたとしても、正確にはできません。だから私は、おそらく人間が監督としてやらなければいけない領域が残りそうだなと見込んでいます。私が時間をかけて勉強という投資orギャンブルをしているのは、そういう理由ですね。

映画レビュー

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』

セルジオ・レオーネ監督作品。最近観て、エンリコ・モリオーネ氏のサントラを買い、ずっと聴いています。良い曲です。映画も良かったですね。過去と現在を行き来するストーリーの構成、シーンを繋げる巧みな映像美から不意に現れる露骨な違和感と、それら全てを溶け合わせて煙に巻くエンディング。令和の時代だとコンプラ警察が乗り込んできそうなアウトローな映画なので子供向けではありませんが、また観ようと思います。

『荒野の用心棒』

セルジオ・レオーネ監督作品その2。マカロニ・ウェスタンの傑作。エンリコ・モリオーネ氏の音楽を背景に、クリント・イーストウッド氏演じる無頼のカウボーイが大活躍。拳銃の早撃ちで敵をバッタバッタとなぎ倒していきます。

本作は、黒澤明監督の『用心棒』を勝手に西部劇にリメイクしたことで有名です。後に盗作で訴えられ、裁判で負けています。実は、この著作権問題について気になったので観てみることにしました。配信がないのは著作権周りのアレだろうと思ったので、円盤を購入。映画や漫画のネタバレ記事の事例によれば、大まかなあらすじであれば著作権侵害にはならないようですが、詳細なあらすじを載せるとダメらしいです。本作は西部劇にアレンジされていて、主人公は拳銃を使っているし、ストーリーに細かい違いもあります。しかし全体的なストーリーや画作り、キャラクターの行動に似ている部分が多いように感じました。クリエイターであれば、好きな作品に影響されてものづくりをしている人は多いと思います。もちろん創意工夫を加えていると思いますが、このレベルだと盗作と判断されるのだということは頭に入れておいた方がよいでしょう。しかし、こうした盗作と「ロボットアニメの第一話で何も知らない主人公がロボットに乗ってしまう」みたいな「お決まり」との区分はあいまいだなとも思います。もし本作のあらすじが変わらずに演出や画作りが原作と違っていたならば、盗作とは判断されなかったのでしょうか。

音楽レビュー

『Pessimist』

『Pessimist』と特典のアクリルキーホルダー

ユトレヒトさんの1stアルバム。『ぼくたちのおはなし』から『生き止まり』まで8曲を収録。いい曲ばかりです。ぜひ。ジャケットイラストは米山舞さん。

個人的には「空白描写」が好き。作詞・作曲はHoneyWorksさん。ユルーカ研究所の秋鷲さんが監督したMVも、ストーリー性があっていいですね。

落書き

なんとなく書いた新作掌編小説です。

『寓話の本能』

 寓話とは、しとしと降るものです。ざぁざぁでもバシャバシャでもなく、しとしと、しとしと、畦の土に滲み入るように降るのです。
 私は旅行鞄を握って旅に出る時に母からそう教えられましたが、納得はしていませんでした。私は私らしい寓話として、ぶるんぶるん降りたいと、小さな時からずうっと考えていました。
 ですから、道の向こうから荷車を引いた擬人男《バイオモルフ・マン》がとぼとぼと歩いてきた時、これはぶるんぶるん降る良い機会だと思いました。
 だって、この男にしとしと寓話を降らせても、面白くないからです。「擬人男《バイオモルフ・マン》は立ち止まると、寓話がしとしと降ってくる空を見上げてから、のそのそと抗言《アンチワード》仕様のコートを羽織り、それからまた荷車を引き始めました。」となるに決まっています。
 私は、確率論が規定する探索空間から開口放出《エクソサイトーシス》されて、あらゆる探索空間の外側へと旅をしなければなりません。そこに私《ミーム》がいるし、それが私《ミーム》なのです。
 私はぶるんぶるんと降りました。擬人男《バイオモルフ・マン》を頭の上から撫で回し、全身に寓話をすり込んでやったのです。
 するとどうでしょう。擬人男《バイオモルフ・マン》は擬蜻蛉《バイオモルフ・ドラゴンフライ》に形を変え、高い高い空へと舞い上がりました。世界の理《プロップ・アルゴリズム》が系統樹に分岐点《ノード》を追加し、荷車を引いた男の物語を、ヤゴから羽化した蜻蛉の物語へ変えたのです。
 ここが新しい探索空間なのでしょうか。私がそこに立ち止まり続ける限り私は私であり、旅に出ようと思い立って旅行鞄を握った時、私はすでに私ではないのでしょう。
 ぶるんぶるんと降る私は、まだ旅行鞄を手放しておりません。

あとがき

初めに書いたように転職活動を進めており、ゲーム『クロニクラ』の開発は手が止まっています。『あしざわ法典 第2版(仮)』は、執筆作業と技術発展の速度が釣り合っておらず困っていますが、本記録のエッセイが溜まっていけば、それを『あしざわ法典 第2版』と呼んでもいいのかなと思っています。同人誌とかにできたらいいですね。


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