女性とトランスジェンダーの権利を、一緒に向上させよう
先日公開したブログ記事「トランスジェンダーについて学ぶためのブログを始めます!」に
【トランスジェンダーとシスジェンダー女性の権利がけっして相反するものではない】
というメッセージを書きました。
「女性だから」という理由で不当な扱いをされてしまうことに対しては、近年のフェミニズムの盛り上がりを見ていても、多くの方が共感することだと思います。
一方で、トランスジェンダーだからという理由で社会的な抑圧を受けることは、まだまだ十分には知られていないことかもしれません。
具体的に直面する課題がいつも同じではないですし、個人の置かれた状況によって異なりますが、シスジェンダー女性もトランスジェンダー当事者も、社会構造によってとても苦しい立場にいます。
誰かの苦しみと、他の誰かの苦しみは単純に比較して「どちらの方が深刻だ」ということはできません。
だからこそ、私たちにできることは、そして私たちが考えていくべきことは、「苦しみや生きづらさを抱えるすべての人の声をないことにしない」ということ。
今回の記事では、シスジェンダー女性が置かれている状況とあわせて、トランスジェンダーがどのような困難を抱えているか、一緒に学んでいきましょう。
シスジェンダーってなに?
みなさんはシスジェンダーという言葉を聞いたことはありますか?
シスジェンダーとは、出生時に割り当てられた性別と、自身の認識している性別(性自認)が一致している人のことです。
つまりシスジェンダーという言葉は、トランスジェンダーの対義語として使われています。
「トランスジェンダー」だけに特別な言葉が当てられ、トランスジェンダーではない人を「普通の人」として表す場合、トランスジェンダーが「普通ではない人」のように判断され、差別につながってしまいます。
そこで、トランスジェンダーではない人々を指す「シスジェンダー」という言葉が使われています。
トランスジェンダーの意味について復習したい方は、こちらの記事も読んでみてくださいね。
それではさっそく、トランスジェンダー当事者がどのような困難を抱えているのか、またシスジェンダー女性との共通する困難はあるのか、具体例から見ていきましょう。
トランスジェンダーと貧困率
「女性の貧困」というワードを聞いたことがある方も多いと思います。
日本社会はまだまだ男女の賃金格差も大きく、女性が働き続けることが難しい社会のシステムや価値観も多く残っています。
たとえば、妊娠をきっかけとして雇い止めにあってしまったり、セクハラを受けて仕事を続けることができなかったり、そもそも女性であるということで昇進のチャンスを奪われてしまったり…。
2018年には、医大入試において女子受験生が不当に不利な採点をされていたことが明らかになりました。
社会制度によっても、女性として生きる人々が貧困に結びつきやすい現状があります。
このように女性の貧困が深刻な中、トランスジェンダーもまた、貧困率がとても高いことが指摘されています。
2020年の虹色ダイバーシティによると、
・トランスジェンダー当事者はシスジェンダーの人に比べて、正規雇用が少なく非正規雇用の割合が多いこと
・シスジェンダー1~2割の人に比べて、トランスジェンダー当事者の3割以上は預金残高が1万円以下になったこと
・経済的に困窮した際に行政に相談できないというトランスジェンダー当事者が多く、行政施策上の課題があること。両親に相談しづらいこと。
などがデータとして挙げられています。
LGBTQ+当事者の職場における意識調査でも、トランスジェンダー当事者は、シスジェンダーの人々(ゲイ/レズビアン/バイセクシュアル/ヘテロセクシュアル)の人々と比べても、貧困に直面する割合が高いことが示されています。
・トランスジェンダーであることをカミングアウトしたら就職面接を打ち切られた
・トランスジェンダーであることをカミングアウトしたら左遷された
こうした差別的な取り扱いもまだまだ残り、また職場においてハラスメントが横行していることによって安心して継続的に働き続けることの難しさにも繋がってしまっています。
シスジェンダーの女性の貧困とは違った原因の場合もありますが、トランスジェンダー当事者の多くも、同じように社会システムや差別、人々の偏見によって、貧困という大きな壁に直面しているのです。
トランスジェンダーと暴力
フェミニズムを学んだり、実践する人にとっては、ジェンダーに基づく暴力について考える機会は多いのではないでしょうか?
フェミニズムは、今までは語られることのなかった女性に対する性暴力を可視化させてきました。「セクハラ」などの言葉を獲得したり、パートナー間や家の中で起こる「DV」など、隠されてきた暴力も明るみにしてきました。
近年のユニセフのデータによると世界の3人に1人の女性が性暴力の被害にあったというデータがあります。このように、世界的に女性に対する性暴力に関するデータや研究もされています。
一方で、ジェンダーに基づく暴力はシスジェンダー女性に対してだけ行われるわけではありません。
LGBTQはそうでない人に比べて4倍近くも犯罪被害に遭いやすいことや、特にトランスジェンダー・ノンバイナリー当事者や性を決めていない人々はパートナーや身近な人からの被害を受けやすいこと、トランスジェンダー当事者の半数以上が性暴力を経験したというデータがあります。
最近話題になった、トランスジェンダー女性に対するハラスメント事件では、勤務先で「なぜ女装しているんだ」と言われるなどの性自認に関するハラスメント「SOGIハラ」や、セクハラを受けたとして、その女性は元上司と会社に損害賠償を求める訴えを起こしました。
性被害を告白したときに、その責任が被害者側にあるように発言したり、被害を矮小化したりする発言を被害者批難といいますが、多くのシスジェンダー女性たちがこうした被害者批難によって、より苦しい経験をしてきました。
「そんな格好をしていたから被害にあってもしかたない」
「触られただけだから、がまんしなよ」
「性被害にあうのは若い女性だけだから、あなたが被害者なわけない」
などなど…。
こうした被害者批難は、実はトランスジェンダー当事者が性被害を受けた際に経験することでもあります。
「本当は男なんだから、性被害じゃない」
「妊娠するリスクがないのだから、被害は軽いはず」
「触られていやってことは、男じゃなくて女ってことなんでしょ?」
こうした被害者の属性や振る舞いに責任の焦点を当てる被害者批難は、被害者がより声を上げづらい環境を作り出してしまいます。
被害者批難について詳しく知りたい人は、こちらの記事も参考にしてみてください。
まとめ
今回の記事では、貧困や暴力といった、シスジェンダー女性とトランスジェンダー当事者が共に直面しやすい差別構造について一例を紹介してきました。
シスジェンダー女性とトランスジェンダー当事者の権利は、相反するものではないとお伝えしてきましたが、上記の具体例からも「共通の闘っていくべき社会問題」が見えてくるのではないでしょうか?
トランスジェンダー女性で、YouTubeなどを通して当事者のリアルを発信している河上りささんは、「女性の人権と安全」を大義名分としたトランスジェンダーへのヘイト言論について考えるトーク・セッションでこう語っています。
私たちは、これまで女性に対する暴力や差別に声を上げ社会を変えてきたフェミニズムの理想とする社会が、シスジェンダーの女性だけでなく、トランスジェンダーの人々にとっても安全で安心して生活できる社会だと信じています。
12月3日に、トランスジェンダーについて学ぶオンライン・イベントを企画しています!ぜひご参加ください。
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