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話してから気づく被害者非難の経験 〜明日少女隊xhoneyhands 対談〜

みなさんこんにちは、明日少女隊の林芙美子です。今回、明日少女隊とhoneyhandsは「被害者非難」をイラストで学ぶ、プロジェクト「無意識に人を傷つけないために」を立ち上げました。

まず、なぜ被害者非難について話してみることになったかというと、明日少女隊とhoneyhandsの中での経験が大きく影響しています。

以前、明日少女隊の中では性的被害にあった隊員に対して複数の隊員が意図せず傷つける言葉をかけることがありました。二度とグループ内で被害者非難を繰り返さないためには、認知を広める活動が必要だと感じ、明日少女隊はWebマガジンのhoneyhandsとコラボを提案しました。そこで、honeyhandsの編集長は、被害者非難に関する記事の執筆をライターチームに呼びかけました。

しかし、honeyhandsの中で自分の経験を書こうとするライターは1人も集まりませんでした。そもそも被害者非難とは何かを知らなかったからです。このような背景を経て、日本では被害者非難の概念があまり知られていないことがわかり、まずは対談という形で被害者非難とは何か、みんなで考えていくことになりました。

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対談メンバー紹介

林芙美子(明日少女隊):東京の大学院生。フェミニズムを勉強中
Aさん(honeyhands):東京で暮らす20代。最近、韓国のオーディション番組を観たことをきっかけにK-popアイドルにハマり中
尾崎翠(明日少女隊):アメリカで子育て中のアーティスト
杉野芳子(明日少女隊):アメリカに留学中の大学生2年生


【閲覧注意】以下、レイプや覗き、痴漢、セクハラなどの同意のない性的接触や、その後の被害者非難の内容が含まれます。

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被害者非難ってなんだろう?


尾崎翠(明日少女隊):みなさんは、「被害者非難(victim blaming)」という言葉を知っていますか?性被害にあったあとなどに被害者が受ける、周囲の人からの心ない言葉や被害そのものを信じない態度のことなのですが。

杉野芳子(明日少女隊):日本では「セカンドレイプ」という言葉で少しずつ知られるようになってきましたよね。

尾崎翠:そうですね。でも、私たちはあえてその言葉を使わず、できるだけ「被害者非難」それで意味がカバーできない時に「2次被害」と言うことにしています。

Aさん(honeyhands):それはなぜでしょう?

尾崎翠:「セカンドレイプ」という言葉は、レイプをされた後でしか使ってはいけないような気がしてしまいます。でも実際には、被害者非難や2次被害は、セクハラや痴漢、覗き、不審者との遭遇など、広い意味で性被害を受けたあとにおこります。そして、それらはどれも深い大きな傷を負わせてしまいます。

林芙美子(明日少女隊):私も、セカンドレイプや2次被害はレイプされたあとだけのことかと思っていました。

尾崎翠:たとえば、私は東京に暮らし始めてまだ1ヶ月も経たないころ、お風呂の覗きにあったことがあります。警察を呼んで大変だった直後、不安で東京に住んでる友達数名に電話して怖い気持ちを聞いてもらいました。その友達の1人が既婚者男性だったのですが、後日その結婚相手に「友達だったとしても、異性の既婚者に性的な被害の相談で電話をかけるなんて信じられない」と責められたことがありました。被害を受けて、助けを求めたら責められたということで、これも被害者非難だったと思います。

林芙美子:なるほど…それは大変な経験でしたね。私自身はうまく言語化できる経験をあまりしてきていないですが、あえて言うならホテルで働いているとき、お客さんからセクハラのようなことをされて、そのことを同僚に話したら「その客キモ〜っ」という話だけで終わった経験があります。そのときは少しモヤモヤしましたね。

あとは痴漢にあったことを冗談ぽく友達に話したら、制服着てたら仕方ないという認識の中で「まあよくあることだよね〜」という話になったことはあります。こういう経験も被害者非難の一部になるのでしょうか?

尾崎翠:その反応はもやもやしますよね。そのモヤモヤは、結局、他人がその人の被害を軽く扱うことから来る2次被害だと思います。

2次被害や被害者非難は、する方もされる方も自覚しづらいという問題があります。でも、された方はたとえ言語化できなかったとしても、実はされるたびに傷が深まってしまいます。私も、覗きのあとのあの言葉が被害者非難だというのは当時気づかずにいましたが、覗きの被害と同じくらい嫌な思い出として今も残っています。

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林芙美子:そうなんですね…。私の周囲には、そもそも被害を軽く扱うという空気があったように思います。まず自分自身がセクハラなどの経験をネタとして話すことから始まって、周りの人もそれをネタとして受け止める、という。重く話すと「めんどくさいやつ」と思われてしまいそうで、無意識にそうしているんだと思います。でも、それで1番傷ついているのは自分なんですね。

Aさん:私も、男友達にデートレイプされかけたことがあるのですが、それを誰にも話したことがありません。私の場合は、レイプされかけたという話題を出して、「触れてはいけないこと」というような気まずい扱いをされることを避けたかった、という心理も働いていたような気がします。

尾崎翠:ありのままの被害に重いも軽いもないはずなのに、被害を受けた側が「めんどくさいやつ」と思われないように、事実をわざと小さく軽くして話さないといけないというのは、被害者非難が蔓延してる社会の典型的な特徴ですよね。そうやって、実態よりも被害を小さく見せるように扱うことを、矮小化(わいしょうか)と言います。

例えば「痴漢はよくあることだから仕方ない」というのは、日本でほぼ毎日発生している2次被害だと思います。

林芙美子:なるほど…。

尾崎翠:要するに第三者から勝手に被害を矮小化されてしまう、もしくは「制服を着ていたから仕方がない」などと被害を自己責任にされてしまう、という感じですよね。

ありのままの被害を気軽に話せないのは、被害者非難や2次被害を受けるのが社会の普通になってしまっているからなんです。もし相手があたたかく被害を聞いてくれる、受け入れてくれると知っていたら、何も躊躇せずに話せるはずです。

被害を受けた人が被害者非難を受けないように、無意識に更なる自己防衛をしなくてはいけない状況になってしまっているのだと思います。

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林芙美子:なるほど!今までモヤモヤしていたのは、自分の被害経験を自分でもまわりもも矮小化してしまっていたからなのですね。ホテルで働いているときはハラスメントがある状態が普通だったので、気にしないことでしか自分を守る方法はないと思っていました…。たぶん、被害者非難をしてしまった人も、自分が被害を受けたときに「大したことない」と受け止めざるを得なかった状況があったんだと思います。被害を受け続けていると、自分の日常に被害経験が入り込むのが当たり前になって、自分が受けた被害を被害だと認識できなくなってしまう。そうすると、他の人が経験した被害も軽く受け止めてしまうのではないかと思います。

Aさん:確かに、その感覚もわかりますよね。

尾崎翠:みなさんもじっくり被害者非難について考えたら、「あれ、あのときのあれは、被害者非難!?」って思い出すことたくさんあると思います。名前もつかない嫌な思い出として、蓋をしてしまっていることがほとんどかも。

杉野芳子:私はアメリカに留学して2ヶ月ほどの頃、それまでに2、3回だけ話したことのあった同級生に望まない行為をされました。その後、自分で自分に対して被害者非難をしてしまっていましたが、長らくそれに気が付きませんでした。だいぶあとになってから友達と話したことで「自分にかけている言葉は被害者非難だったんだ…」と気づいた経験があります。

尾崎翠:もしよかったら、具体的にどんなふうに自分で自分に対して被害者非難をしていたか、教えてもらえませんか?言いにくかったら、話さなくて大丈夫です。

杉野芳子:被害に遭ったときは、あまりに突然のことで困惑し、怖かったです。相手は友達になりかけていた人で「関係を壊したくない」と思い、はっきりとは嫌だと言えませんでした。また、腕も掴まれていたので抵抗できませんでした。とても傷ついた出来事だったのですが、「夜中に2人っきりになったのがいけなかった」「嫌だとすぐに言わなかったから」と自分自身を責めていました。自分にも非があったのではないかと思っていたため、半年以上、誰にも話せずにいたんです。

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Aさん:1人で抱えてしまっていたんですね…。

尾崎翠:それは本当に辛かったですね。これも被害者非難が当たり前の社会では、すごくよくあることだと思います。被害者非難の文化が自分にも刷り込まれていて、自分を責めてしまうんですよね。すごくわかります。そもそも「セクハラとか痴漢を誰かに話したことがほぼない」というのも、被害者非難の多い社会の、独特の自己防衛の形じゃないかなと思います。被害者非難を受けたことがないという人のほとんどは、そもそも被害の相談をしたことがないだけ、できなかっただけ、ということもあるのかも。

Aさん:私も相談できませんでした。共通の知人が多い人だったので、それぞれの人間関係が悪くなるのが怖いというのが1番大きな理由でした。また、あとからわかったのですが、彼には彼女もいたそうです。その彼女とも共通の知人がとても多く、このことが彼女の耳に入る可能性を考えると、余計誰にも言えなくなってしまいました。

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杉野芳子もともと知っている人や友達からの被害だと、どうしても、そこでの人間関係があるので、周りに相談するのは難しいですよね。

Aさん:はい。ただ誰にも相談しなかったとはいえ、自分だけでこの出来事を解決することが難しかったので、ネットで「友達 襲われかけた」みたいなキーワードで検索をかけてみたんですね。そうしたら、被害者非難の言葉ばかりが出てきて、「うわ〜」と思ってしまいました。知恵袋などにも「一緒に出かけた方が悪い」「家に入った時点で悪い」「一緒にお酒を飲むのが悪い」みたいなのがたくさん出てきて…。

杉野芳子:それはしんどいですね…。被害を受けたあとに助けを求めてネットでさらに傷ついてしまうというのはとても深刻だと思います。

Aさん:幸い、検索結果についてはある程度予想していましたし、私もフェミニズムを勉強していたので、これらの言葉をまるっきり信じて「自分が悪い」と思いつめることは、なかったのですが、もっと若くてフェミニズムに出会っていない頃だったら、杉野さんのように自分を自分で責めてしまっていたと思います。

林芙美子:そういう若い人もとても多いんじゃないでしょうか。

Aさん:はい。「周りに相談できる環境にない人が、ネット上に助けを求め、さらに傷つく」という、現在の構造はとても残酷だと感じています。もちろん、周りに相談できる環境があることは重要ですが、同時にネットで検索したときに、被害者非難ではなく「被害者に寄り添う言葉」や「相談できる場所への案内」などが検索の上位に出てくるようになってほしいとも思います。

林芙美子:そう考えると、日本社会のいたるところに被害者非難とそれによる悪影響がたくさん生じてしまっているんですね。

Aさん:私も含め、サポートの仕方が具体的によくわからない人も多いのでは...?と思います。打ち明けられた側に矮小化や非難をしたくないという気持ちがあっても、どういう言葉をかけたらいいのかわからず、気まずい空気になってしまうということもあるのではないでしょうか。

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尾崎翠:私も、被害を打ち明けても被害者が傷つかない状況は、日本にいたときは想像ができませんでした。でもアメリカに来てから、友達の話を聞いていて「ああ、被害者非難せずにサポートするってこういうことなのか」と思ったことが何度もありました。

Aさん:たとえばどんなエピソードですか?

尾崎翠:ニューヨークの友人と、彼女の小学6年生の娘さんの話です。その子の様子がサマーキャンプから帰ってきてからどこかおかしかくて、お母さんが気にして「最近様子が変だよ、サマーキャンプで何があったんじゃない?」と聞いてみたそうです。すると「男友達が、無理矢理キスしてきた」と。

それを聞いてお母さんは「大変だったね、あなたは何も悪くないよ。お母さんは、いつでもあなたの味方だよ」と答えたそうです。

その後お母さんは学校に問題を報告し、その子にスクールカウンセラーをつけてもらいました。その子は毎週プロのカウンセラーに無料で話を聞いてもらうことができ、6ヶ月が過ぎた頃「もう私、大丈夫みたい」と言ってカウンセリングを終えられたそうです。

これを聞いて、私はその子を羨ましく思いました。私も高校生のとき何度か痴漢にあったけど、親にはとても言えませんでした。両親が動揺して困るだろうなと思ったからです。動揺した親から、「自分にも原因があったのでは」とか「大した被害じゃない」と被害者非難されたり、被害を矮小化されるのは避けたかったですし。

杉野芳子:私も先程の性被害について信頼できる友達に相談したとき、まったく被害者非難をせずに受け止めてもらえました。留学先で仲よくしている友達で、加害者とも面識のある人だったので、本当のことを知ってもらいたいと思い、勇気を出して打ち明けました。そうしたら、「話してくれてありがとう。あなたのせいじゃないよ。あなたが黙っていたかどうかなんて関係ない。彼がきちんと同意を取るべきだったんだよ」と言ってもらえたんです。そのときに初めて、自分は悪くなかったんだと自信を持てたし、自分自身にかけていた「私が悪かった」「しょうがない」という言葉が被害者非難だったと気づけました。被害にあった事実は変えられないけれど、打ち明けたときに友達が「責任があるのは加害者の方」とはっきり言ってくれたことで、自分の抱えていたモヤモヤが心が少し軽くなりました。

尾崎翠:親や周りの人に対して、この人は被害者非難をしてこないだろうと思える関係性や、社会が被害者を救うのかなと思います。

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Aさん:なるほど。「被害者非難をしないようにしよう」という方向だけではなく、「どうしたら心理的安全性の高い人間関係やコミュニティを築いていけるか」というアプローチでも考えていきたいですね。

林芙美子:そうですね。これから被害者が自分の経験を安心して打ち明けられる環境を増やしていきたいです。今日は自分の経験を話して心がスッキリしました。みなさんの経験もたくさん聞くことができて、被害者非難に関する学びが深まりました。今日はありがとうございました!

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まとめ

被害者非難の経験は、まだまだ見えにくい現状があり、自分では気づかないうちに被害者非難を経験していることもたくさんあります。だからこそ、今までモヤモヤしていた経験を振り返ることで、「私は傷ついていたんだ」と気づき、自身を責め続けることから自分自身を解放できるのではないかと思います。

明日少女隊の林芙美子もこの企画で被害者非難について考えるまでは、「自分はレイプをされたことはないから、セクハラや痴漢をされたあとに周囲からかけられた言葉がセカンドレイプだったなんて言えないのではないか」と思っていました。

しかし今回、明日少女隊の隊員やhoneyhandsのメンバーと話をしていくうちに、自分が受けたあの経験は被害者非難だったんだと気づくと同時に、これは私だけの問題ではないことを実感しました。読者のみなさんも「あれ?この経験はもしかして被害者非難?」と思い当たることがあったら、その経験と重ね合わせてこの対談を読んでくれたら嬉しいです。


「無意識に人を傷つけないために」プロジェクトについて、詳しくはこちらをご覧ください!


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