見出し画像

経営に「具体と抽象の視点」を持ち込もう

あなたの身の回りに、いつも会話がかみ合わない人はいませんか?

部下や上司、お客様や関係者、友人や時には家族まで。

「この人の言っている意味がわからない」
「この人には何度言っても伝わらない」

こういった事象の原因は、実はこれからお話しする「具体」と「抽象」の違いからくるものかもしれません。


「具体と抽象」とは

このお話は「具体と抽象」細谷功(dZERO)という本のご紹介と合わせて、この考え方を経営に当て込むとどうなるかという視点で書いてみます。

細谷功さんというビジネスコンサルタントの本なのですが、これがとても面白い。

世の中では、わかりやすさの象徴として「具体性」というものが存在します。相手の話がわかりづらいときに「もっと具体的に説明してもらえませんか?」と言ったり、逆に「抽象」という言葉が用いられる場面では「あの人の話は抽象的でわからない」といった具合に「具体=わかりやすい」「抽象=わかりにくい」という感じに、抽象に悪のレッテルが張られてしまっていると。

細谷さんは、この抽象という概念の力を、とくに経営者の人はしっかりと理解して活用するべきだと説きます。

まず簡単に具体と抽象を比較すると下記のとおりです。

<具体>
・直接目に見える
・「実体」と直結
・1つ1つ個別対応
・解釈の自由度が低い
・応用が利かない
・「実務家」の世界

「具体と抽象」細谷功(dZERO)

<抽象>
・直接目に見えない
・「実体」とは一見乖離
・分類してまとめて対応
・解釈の自由度が高い
・応用が利く
・「学者」の世界

「具体と抽象」細谷功(dZERO)

このような違いがある具体と抽象ですが、実は人の頭はそれぞれ人によって、具体脳の人と抽象脳の人がいると言います。

だから「何度しゃべっても話が通じない」人が存在するようになるのだと。

具体脳の人は、目の前の1つ1つのことが全てだと考えます。一方、抽象脳の人は、それらの1つ1つはまとめてしまえば要は同じことだよねと考えます。

「具体と抽象」細谷功(dZERO)を一部加工

この時点で、すでに具体脳の人と抽象脳の人の会話がすれ違う感じがしますよね?

そして、ここまで読んで経営者としてあるべき脳がいずれの脳だということが、おわかりになりますでしょうか?

答えは「抽象脳」です。

経営者が具体脳の会社は成長が難しい。

経営者が1つ1つの個別具体的な物ごとに気を取られている組織では、会社の方向性を示していくのが難しそうだと思いませんか。

では、経営者にとってこの具体脳と抽象脳の活用の仕方を、次章から紹介していきましょう。

プロダクトアウトかマーケットインか

「顧客の言うことを聞いていてはよいものはできない」(プロダクトアウト)
「顧客の声こそが新製品開発には重要だ」(マーケットイン)

いずれの商品開発の現場でも、この手の議論は起きます。そして、どちらも正しいから、タチが悪い。

これらの議論も、具体と抽象と言う視点で整理すると解決できます。

革新的な商品を生み出す会社は、顧客の声よりも自分たちの意見を尊重します。客は基本的に今あるものの改善と言う視点での具体的なレベルの要望しか挙げてきませんので、このレベルでの改善によって革新的な商品は生まれないからです。

有名な例がアップル社です。

アップル社は市場調査を一切しないことで有名な企業ですが、アップル社が革新的な製品を世に生み出し続けていることは、もはや説明の必要はないでしょう。

一般的に、斬新な製品や、革新的な仕組みを作りあげるためには、多数の意見を聞くことは適しません。多数の意見は、それぞれ具体レベルに引きずられて、どうしても今の延長のの議論しかできなくなるからです。

一方、今あるものを改善していく場面においては、なるべく多くの人から意見を吸い上げることが必要となります。

このようなサイクルの繰り返しで、世の中の変化は起こっているため、商品のライフサイクルと具体と抽象の概念を組み合わせることで、打つべき手が見えてきます。

つまりは、商品ライフサイクルが、まだ導入期にあるような場合、イノベーションが求められますから、この時期には、抽象レベルでの考え方、つまりはプロダクトアウトの発想が求められます。

そして、その商品が成熟してくると「もっと色にバリュエーションを」「もっと安く」といった顧客の声による小さな改善が求められるので、成熟期になると、具体的レベルの考え方、つまりマーケットインの発想が必要となるということです。


組織の上流と下流

会社というものは、オフィスワークであれ、工場の作業であれ、およそこの世の仕事というものは「抽象から具体」への変換作業とも言えます。

いわゆる仕事の上流、つまり企画や概要の計画ができて初めて詳細レベルの計画に移り、それがさらに詳細な下流レベルの実行計画への流れていきます。

ここで注意しなくてはならないのは、上流の仕事(抽象)から下流の仕事(具体)へ移行していくに伴って、仕事をスムーズに進めていくために必要な視点が変わっていくということです。

<上流で大事な視点>
・抽象度高め
・全体把握が必須
・個人の勝負
・少人数で対応
・創造性重視
・多数決は効果なし

「具体と抽象」細谷功(dZERO)

<下流で大事な視点>
・具体性高め
・部分への分割可能
・組織の勝負
・多人数で対応
・効率性重視
・多数決が効果あり

「具体と抽象」細谷功(dZERO)

上流の仕事は、コンセプトを決めたり、全体の構成を考えたりする抽象度の高い仕事なので、分割して進めるのは不可能です。

これが下流に進むにつれて具体化されて、作業が飛躍的に増えていくようと共に、作業分担も可能になっていきます。同時に求められるスキルも変わっていき、全体を見るよりは個別の専門分野に特化して深い知識や経験を活用する能力が求められていきます。

「具体と抽象」細谷功(dZERO)を一部加工

上流では、個性が最重視され「いかにとがらせるか?」が重要なため、多数決による意思決定はなみじません。意思決定は、多数の人が関わればかかわるほど無難なものになっていくからです。

逆に下流の仕事は、大勢の人にわかりやすいように体系化・標準化され、また、どんな人が担当してもスムーズにいくように管理していく必要が生まれます。

これほど、上流と下流の仕事では、重要な視点が異なりますので、この違いを理解せずに上司が部下に指示を出したり、部下の意見をうのみにして構想を練ったりということが、組織としてどれほどナンセンスなことかがおわかりになってきたでしょうか?

そのため、上流の仕事と下流の仕事は、組織内で適切に区分する必要があるということです。


すれ違う上司と部下

この前こんなことがありました。

私が社内の業務改善にかかわっていて、ある日スタッフに「A案でやってみて」と指示をしました。
ですが、翌日になり違う問題が出てきたので「やはりB案でやってみて」と指示をします。

するとスタッフが別のスタッフにこう愚痴ったようです。「横溝は言うことがころころ変わってしまって困る」

私には理解できませんでした。私の目的は「社内の業務改善を達成する」という一貫したものであるため、その手段としてA案もB案も同じ改善案の1つに過ぎなかったからです。

一方そのスタッフは具体レベルでモノを考えているので、A案とB案は別物と捉えるから「横溝(上司)の意見が変わった」と考えたのですね。

目的レベルと行動レベルの違い

経営者は経営ビジョンを語ります。語るべきです。

会社や事業を未来に導いていく責務を負っている経営者は、何らかしらのビジョンや理念をもって経営しています。

このビジョンや理念は、抽象レベルの概念ですね。経営理念やビジョンがあることで、会社に方向性を与えることができ、場当たり的な行動を防止することができます。

会社がもし、ビジョンなしに行動レベルの発想で動いていたとしたら、1つ1つの意思決定を経営者が対応して判断せざるを得なくなってしまいます。

経営者または経営層は、大きな方向性レベルで物事を見ています。

先程の例で言えば、A案もB案も同じ業務改善案という大きな方向性レベルの視点です。

「具体と抽象」細谷功(dZERO)を一部加工

このように上司と部下の視点の違いで、話がすれ違ってしまうことを具体と抽象の話で整理すると、その原因がわかってきます。

白か黒か

「賛成か反対か」「白か黒か」という2つのうち1つを取ることを「二者択一」と言います。

これと似たような言葉に「二項対立」があります。「必然か偶然か」「一般的な特殊か」「単純か複雑か」というように、相対する二つの概念を比較して考える手法です。

こうした対立構図を見た時に、これを抽象レベルで見るか具体レベルで見るかによって下記にょうな反応が起きます。

「具体と抽象」細谷功(dZERO)を一部加工

抽象レベルで二項対立をとらえている人は、そこに「考える視点」があります。例えば何人もの人の意見がどこに位置付けられているか、いわば地図で言えば「西と東」あるいは「北と南」という視点で全体を見渡そうとします。

一方、具体レベルでしか見られない人は、二項対立の事柄も「二者択一」に見えてしまいます。
その結果「世の中そんなに簡単に二つに分けられないよ」と主張するのですが、抽象レベルで見ている人はそういうことを言いたいのではなく「考え方」を言っているのですが、なかなか通じません。

インターネット上でも、「○○は××だ」という主張は、抽象レベルの考え方のことを言っているにすぎず、「具体レベルで全てがそうだ」と言っているわけではありません。ところが具体レベルでモノを見る人たちは、それに対する例外をあげて反論しますが、これはそもそも議論がずれているのに気づきません。

こういった事例でも、抽象レベルと具体レベルの脳みその会話がかみ合わないということがわかります。


下から上は見えない一方通行

最後にとても大事なことをお伝えします。

抽象度の高い概念は、見える人しか見えません。

何度もでてきたピラミッドの形状が示すように、抽象度があがるにつれて理解できる人の数が減っていきます。

そして、具体の世界と抽象の世界は、いわばマジックミラーで隔てられているようなもので、ピラミッドの上部(抽象)の世界が見えている人には、下部(具体)の世界は見えていますが、具体レベルでしか見えない人には上部は見えないということです。

とすると組織の中で意識しなくてはならないのは、上部にいる経営者や経営層は、下部のスタッフたちと会話するときや指示をするときには、具体レベルに自分が一度目線を下げて合わせる必要があるということです。

これがずれてしまったままだと、これまで紹介してきたようにいつまでもすれ違いが続くことになってしまいます。

なぜマジックミラーなのか

なぜ具体の視点のみの人は抽象の視点を持てないのでしょうか?

主には「自分だけが特別である」「自分の仕事や組織や業界が特殊である」という考えのようです。

人間は他人の成功例や失敗例を見ても「あれば自分とは違うから」と考えがちで、他人に自分の話を一般化されることを嫌う傾向があるようです。特に具体の世界しか見ていない人ほどその傾向が強くなります。

「あの人はきれいだから」「家柄がいいから」「あそこの会社はうちと扱っている商品が違うから」それらはたいていの場合、自分の特殊事情を強調した「できない理由」になっていきます。

どうやって抽象の視点を手に入れるか

特に経験した世界が狭ければ狭いほど、他の世界のことがわからないにも関わらず、自分の置かれた状況が特殊だと考える傾向があります。

多種多様な経験をするほど「この部分は違うが、この部分は同じだ」というように共通部分にも目を向けられるようになっていきます。

たくさんの経験を積むことはもちろん、本を読んだり映画を見たり、アートを鑑賞することによって実際には経験したことのないことと疑似体験することで視野を広げることができます。

こうやって抽象の視点を手に入れていくのですね。


経営お役立ちコンテンツ「となりのブレイン」

いかがでしたでしょうか?

となりのブレインでは、中小企業の事業を飛躍させる仕組みづくりに特化したメソッドを体系的に無料公開しております。

少しでもお役に立てた部分があれば幸いです。

今後も色々な角度から事業を飛躍させる仕組みについてお話していきますので、よろしけばフォローをお願いします!

下記コンテンツでも事業を飛躍させる仕組みについて公開しています!

となブレチャンネル(YouTube)

となブレMagazine(note)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?