いや、人事評価は誠実さだ【中小企業の初めての人事評価3部作③ 】
人事評価制度3部作の最後のお話は賃金についてです。
第1部では、そもそも人事評価制度を導入する意味をまず解説しました。
そして第2部では、人事評価における評価要素と評価方法について解説しました。
そして今回は賃金について解説します。
正しく設計された人事評価に応じた賃金を設定していくのですが、この賃金の設定がまた難しい。どれほど正しく評価ができたとしてもその評価にふさわしい賃金とはいくらでしょう?
特に賃金は実際の支払いにつながっていくため、経営的な視点も無視していけません。どれだけ優秀な人材がいても高額な給与を払う原資がなければ払えないし、人件費率の上限なども意識していかないと経営が続いていきません。
そこで、今回は賃金をどのように決めていけばいいかを解説したいと思います。
賃金は「満足」ではなく「納得」を重視
賃金を考えるときにまず大事なのが「満足」ではなく「納得」をしてもらえるような賃金設定にすることです。
賃金は、働き手にとっての唯一の労働の対価です。そのため、経営者の立場からすると、仲のいい、聞き分けのいい社員についついいい顔をしたくなり「ちょっと高めに付けといたから」といった感じで手当などをつけてしまいがちです。
ですが、それでは社員の納得にはつながりません。むしろ、「前回は手当がついたけど今回はないじゃん」といった不満につながってしまうのがオチです。
賃金のような外的報酬は、過剰に与えられたとしてもモチベーションにはつながらいことがほとんどです。そしてその過剰になれ、もっと高い報酬を望むようになってしまうのが人間なのです。
そして何より賃金には原資が必要であり、過剰な賃金を支払っていては経営が持たないのはお分かりの通りです。
そのため、賃金の設定に当たって重要なのは、
この3つを意識することで十分です。高すぎる賃金は必要ありません。
①正しく設計された評価基準
この評価基準を正しく設計するためのコツは下記の記事をお読みください。
②公平な評価
「公平」とは何でしょう?ここはとても重要な概念です。
(1)「分配の公平感」ではなく「手続きの公平感」を
そのため、人事評価においては手続きの公平感を重視し、会社の評価基準を適切に設計してそれを公開し、そして公平気に評価するだけで十分納得につながります。
逆に、分配の公平感はある程度諦めましょう。
会社の経営にはそれくらいの割り切りも必要です。
(2)「能力」ではなく「行動」で評価
そしてもう1つ。公平な評価を実践するためには、「能力」ではなく「行動」で評価してあげるようにしましょう。
なぜ「行動」で評価すべきかというと、「能力」は目に見えないため評価しづらく、一方「行動」は目に見えるため評価しやすいからです。
また、「能力」は基本的には下がらないため、行動が伴わなくても評価を下げられないですが、「行動」は実際に実行していなければ適切に評価を下げられるため、本当に貢献している人のみを評価してあげられて公平です。
これは、専門能力は高いのだけれど、意欲が低い人材の評価をどうするかということです。
私たちのような専門職だとわかりやすいのですが、例えば税理士資格を有しているAさんは、専門的知識は高く他の人にはできないような高度な処理を行うことができる。一方仕事意欲は低く、ほかの人からの相談にもあまり乗ってあげずに協力的ではない。
このAさんをどのように評価するのかという話です。
ちなみに弊社ではAさんの評価は相当低いです。弊社では税理士であっても資格手当も存在せず、例えば専門的知識を要するような案件を実際に行動で実践した時期の評価は高いですが、それ以外の時期は行動していない限り能力がどれほどあっても評価は付きません。
繰り返しになりますが、賃金には原資が必要であり、その原資が何かといえば、お客様から頂く売上であり利益です。このため、能力だけを見て評価=賃金を割り当ててしまうのは、自らの経営を苦しめる道を突き進むに等しい。あくまで「行動」で評価してあげましょう。
会社としてとってほしい「行動」を評価してあげることで、職員は素直にその行動を実践してくれるようになります。だから、どのような行動を評価してあげるか決める際には、あなたの会社の行動指針から決めてあげればいいのです。
すると、行動指針通りの行動を行った職員は評価が上がり、あなたのバスに乗り込み始める。将来、あなたのバスには、あなたの作った行動指針通りの行動を率先して実践してくれる職員だけが乗っている状況となる。
どうですか?
ワクワクがとまらないでしょう??
③賃金テーブルを公開
最後に賃金テーブルを誰でも見れる環境に公開しておくことで、社員は自分がどのようなパフォーマンスを起こせば賃金がどうなるのか考えるようになります。
この時にも重要なのは、ただ頑張っている人が評価があがるのでなく、「事業に貢献」した人が評価があがる設計でないといけないということです。
社員の中には、この評価項目を上げるのは楽だから頑張ろうという策士タイプもいることでしょう。
そのような、あなたのバスにふさわしくない人材の評価が上がらないよう、売上や利益だけではないと思いますが、あなたの事業に貢献する要素を行動レベルに落とし込んで、それを評価基準に記述していくことが重要です。
社員の方にとっても支給された給与明細を見て、完全な満足は得ることができなくても、上記3つが適切に開示されていれば「会社の基準に照らして自分がこのような評価になり、その結果この賃金になっている」ということは納得することができるでしょう。
その結果、社員が起こすべき行動は、評価を上げるために頑張るか退職です。会社としては、適切な評価をした結果なのですから、その結果に満足できない社員は退職されても仕方ないと思うしかありません。
その方は残念ながら、あなたのバスには乗る人ではないということが今回分かったまでです。
どのように賃金を決めていくか
賃金を実際に決めていくときに考えていきたい3つの要素を説明します。
この3つの要素を総合的に見て賃金テーブルを決めていくことになります。
①同業他社と比べてどうか
やはり新規採用や離職防止のために、ある程度の水準があるでしょう。この時に同業他社水準を調べたいなら、厚労省の「賃金構造基本統計調査」なども参考にするといいでしょう。
とある本では、同じ地域で同じような仕事をしている人と比べて1割程度高い給与が望ましいと言ってます。
②経営を圧迫しない人件費
賃金総額が経営を圧迫しない人件費になっている必要があります。この項目は超重要項目なので、もう一段階掘り下げて解説させてください。
どれだけ理想の評価基準を作っていても、我々経営者は経営を回していって初めて給与を払えます。
そのため、
(1)評価基準が売上または利益に貢献してくれるものとなっているか
(2)実際に支給し続けていくことが経営上可能な水準となっているか
(3)そもそも価値を生み出し売上または利益を伸ばし続けていける会社か
の3点を考える必要があります。
しれっと3番目に人事評価とは関係ないじゃん!とつっこまれそうな要素「(3)そもそも価値を生み出し売上または利益を伸ばし続けていける会社か」というものを入れましたが、本質的な話として会社として伸びしろがないような状態で人事評価なんかに手を付けてはいけません。
その場合にまず手を付けるべきなのは売上確保または利益確保する仕組み作り、つまりビジネスモデルの再構築です。人事評価はそのあとにしてください。その意味でこの3番目の要素を入れました。
ここで引っかかってしまう経営者様はこの記事はここまでにして、下記の記事へ移行してください。
その前提をクリアしているとして、ほかの2つに触れていきたいと思います。
(1)評価基準が売上または利益に貢献してくれるものとなっているか
賃金の原資が売上または利益からしかないことは明確である以上、その賃金の支給は売上または利益に貢献してくれるものでないと会社は回らなくなります。
ただし、この「売上または利益に貢献」という言葉を短絡的に「今の売上または利益」という解釈をしてしまうと、フルコミッションのような発想に行きついてしまい、未来ではなく今が評価基準になってしまう。
私がお伝えしたい人事評価制度は、未来に連れていきたい人材を育てる評価システムであり、現状の経営を回すための仕組みではありません。
そのためにどのように整理していけばいいかというと、短期的視点である今の売上や利益に貢献した「結果」については、賞与(または歩合給と言う考え方もありです)で還元し、長期的視点である将来の貢献度を期待する「行動」については、固定給(職能給)にて支給していく。
・(短期的視点)売上または利益に貢献してくれた「結果」を賞与または歩合給で評価
・(長期的視点)描く未来の会社の中で活躍する人材がとっているはずの行動を職能給という形での固定給で評価
このような短期的視点と長期的視点、2つの要素のバランスをとりながら、賃金を考えることで整理できます。
(2)実際に支給し続けていくことが経営上可能な水準となっているか
人件費率での管理といいましたが、業種や財務状態によって適正バランスはバラバラなので難しい。とはいえ、何もコメントできないのも嫌なので個人的な参考地としている人件費率をお伝えすると、サービス業:35%、飲食業:30%、小売業:30%、介護事業:50~70%などがあります。
経済産業省の「企業活動基本調査」の労働分配率が参考になるかもしれません。
分配労働率とは、「人件費÷付加価値(=粗利益と考えていただいてOKです)」ですので、人件費率(人件費÷売上高)と近しい概念です。(分母が売上高か付加価値額の違い)
弊社でも、事業計画策定の際には、営業利益率○○%を目指せる人件費率という指標を設定しています。固定給+残業手当+法定福利費(社会保険料)で目標売上高と比較して○○%以内に抑える形で要員計画を策定しています。
経営者においての人件費は、なかなか削減することのできない最大の経費となる会社が多いため、賃金設定は経営を考えるうえで超重要項目となってきます。
③支払う対象を明確に
最後に、賃金をしはらう対象、つまり行動や結果を明確にしましょうということです。支払う対象を明確にすることで、職員に公平感を与え納得感を高めることになります。賃金テーブルを公開するお話を上述していますので、そちらを再確認ください。
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今回は、事業の飛躍に必要な3つの要素のうち、組織戦略について、人材戦略の観点から切り込んでみました。
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