【1】あの子が初めて現れた夜
あの日。それは、2017年。
ナッツ高校1年生。
アカルン中学2年生。
ケイ小学5年生。
末っ子のケイと、次女のアカルンはいつものように
「おやすみなさ~い♪」
と2段ベッドにもぐりこんだ。
私は子供部屋のドアを閉め台所へ。
リビングでは長女のナッツが、仕事の遅いパパを待ちながら日記を書いていた。
30分くらいたった頃…
アカルンがそーっとドアを開けてでてきて…
「ママ!ケイの手が!あの状態でずーっと!」
とかなり怖がってる様子。
あの状態?
あ!例の手の動き?
それは、1カ月ほど前に私も見たことがあった。
ケイが寝ているときに…
まるでパソコンのキーボードを叩いて、何かを大急ぎで打ち込んでいるような手の動きをしていたのだ。
尋常じゃない速さで!
ケイ…パソコンなんて使ってないのに。
次の日。
「ケイ!寝てるとき、指が何かタイピングしてるみたいにめっちゃ動いてるんだけど!?」
と聞いたら
「え!こっちでもしてた?
ママそれ見たの?
やば。まじかぁ~。」
と、かなり焦って答えるケイ。
「それしてる時、俺、あっちで次元の調整してて…
いろんなとこ行ってる途中なんだよね…」
「だから、その時に絶対に起こさないで。
次元の中で迷子になって、こっちに帰れなくなるかもしれないから。」
とかなり真剣に言われたのだった。
次元の調整とか…
あっちとか。
不明なことだらけで少し怖くなって。
家族全員、ケイが寝ているとき指が動いていたら絶対に起こさないよーにって約束していた。
ナッツの横で、怖がっているアカルンに
「アカルン♪そのまま気にしないで、アカルンも寝ていいんだよ」
と言ったんだけど…
「ママ!だっていつものより、すごく激しいし、さっきからずーっと動かしてるんだよ?
もしかして…ケイ…あっちで大変なことになってたりして。」
「もう。次元の隙間で迷子になってるとか?」
と、ナッツと二人心配な顔をして私を見た。
起こすのも怖いけど…
このままも怖いー。
そーっと子供部屋へ。
はしごに足をかけて二段ベッドのケイの様子を見てみると…
アカルンの言った通り、尋常じゃない不規則な指の動きとー
まぶたの中で目がぐりぐり動いてるー。
だ・だいじょうぶ…か?
と心配になって、ケイの顔をジーっと見続けていた。
すると…
手の動きがピタッととまって…
ゆーっくり目があいた。
ケイの目なんだけど、とても慎重に開けられた。
どう見てもいつものケイじゃない…
顔も形も全部ケイなんだけど、【いつもの】ケイではない。
無邪気さたっぷりの。
あかちゃんのようなかわいらしい笑顔で…
初めて私にあいさつするかのように、ニコッと笑った。
好奇心たっぷりの目がきょろきょろ。
「ケイ?」と聞くと
「ケイだよ♪」とにっこり。
嘘だーという気持ちと
ケイであってほしいという思いで
「トイレ行きたくて起きたの?」
と聞いてみると
「うん♪」と言ってベッドの上からゆっくり下りてきた。
一歩一歩確かめるようにゆっくりと。
「え?寝ぼけてるの?」
とナッツが手を引いてトイレに連れて行ったけれど…
きょろきょろ、にこにこ。
用を足す気ゼロー。
家の中のいろんなものに興味津々。
(明らかに…ケイじゃない。)
と思ったけど、ナッツとアカルンを怖がらせたくなかったので
「あ。ケイ。トイレじゃなく、お水飲みたいんじゃない?」
とコップにお水を注いでわたしてみた。
すると、ケイの顔がぱぁっと明るくなって。
とっても大事なものをもらったみたいに、丁寧にコップを両手で受け取り…
にっこり嬉しそうに笑うと、
「きれい~」
とガラスのコップに注がれたお水をじーっと見つめて。
その後、コクッコクッとおいしそうにゆっくり飲んだ。
そして
「あぁ。お水って。お水ってなんて美味しいんだろう。」
とうっとりした顔で私に言った。
絶対…ケイじゃない。この子。
じゃぁ誰!?
だんだん、心臓がバクバクしてきた私に
「じゃぁ。おやすみ☆」
と、その星の王子様みたいな坊やは、にっこり笑ってベッドへ。
その日はそのまま。すやすや眠っていった。
今の子誰?
と、みんな思ったけれど。
ナッツもアカルンも、私も、
ケイが寝ぼけていたんだろうと、無理やり思い込むことにして、
あまり考えずに寝ることにした。
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