【推し本】夜が明ける(西加奈子)/苦しかったら、助けを求めろ。
本が呼ぶときってありますよね。
これは、大好きな本屋さんTitleで、”読んで、読んで”と呼ばれた本(こういう自分の感覚器の働きを感じられるから、リアル本屋さんはとても大切)。
表紙の絵も西加奈子の作ということで、絵力のオーラもすごい。
哀しくて、切なく、圧倒的なやるせなさの中に、ミンティアのような清涼感がスーッと一息分だけ吹き抜けるような物語である。
社会の片隅で息を潜めて生きてきて、精神を病む母を見ながら、時に痛めつけられながら、体だけは大きくなったアキ。(是枝監督の映画「誰も知らない」を想起させる。)
ある日父が亡くなって困窮学生となった「俺」の視点で、アキとの十数年の魂の交流が語られる。
貧困、パワハラ、長時間労働、メンタル、ホームレスへの暴力など今の日本のリアルが反映されていて、もがいても、もがいても抜け出せない。
アキも「俺」も、まるで罠にからめとられたような人生だ。
そんな閉塞や諦めに、ある若い女性が、沼に咲くハスのようにまっすぐに訴えるのが救いだ。
アキが憧れたフィンランドの俳優のプロットが小説全体の通奏低音になっていて、最後にあっという展開になる。
ついつい、その俳優をググってしまう読者にもちょっとした仕掛けがあり、西加奈子の創作性が発揮されている。
これが、西加奈子が本書で最も言いたかった一言だろう。
それにしても、「サラバ!」(2014年初刊)の時よりも社会全体で心を保つ難しさが増しているところに、西加奈子の危機感もあると思う。
一人で頑張りすぎてはいけない、もう十分、生きているだけで十分頑張っているのだから、と。
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