雙津峡温泉①~山口県岩国市錦町
前説
最初に断っておかないといけないのだが、このレポートは温泉レポートではありませんので、温泉の話を期待された方は悪しからずご了承ください。いつものとおり、道路の話だから!
弁明すると、こんなタイトル詐欺みたいなことをしたのは、「国道434号旧道」だよ!って言ったところで、普通は「はぁ?」だろうから、仕方無しに近隣の名所の威光にあやかろうとしたのだ。雙津峡(そうづきょう)温泉自体がマイナーだろと言われてしまうと返す言葉もない。
ちなみに、雙津峡温泉(現在はSOZU温泉として営業中)はいい所だよ。温泉のレストランにある高森牛の鉄板焼は非常におすすめ。そして実は、このSOZU温泉で見つけた「ある物」が今回の探索にも関わってくるのだが、その話は後ほど。
まずは広域の地図でざっくりと雙津峡温泉の位置を確認しよう。四角でマークした辺り、山口県岩国市と島根県吉賀町の県境付近。なお、私が以前紹介した深谷大橋は、雙津峡温泉から直線距離8kmほど北にある。田舎のスケール感で言えば、近い距離だ。
次は雙津峡温泉付近の拡大地図。
今回紹介するポイントは主に2つ。地理院地図に緑色で書き込んだ。
1つは、雙津峡温泉沿いの国道434号を北に500mほど進んだ所にある、乙女峡トンネルの旧道区間である。地図にも記載されているとおり、この旧道区間北寄りには洞門がある。以前現道を通過中にキョロキョロして見つけたこの洞門が存在感があって、印象に残っていた。現道から見た洞門の写真を先出ししておく。
洞門と、その中の黄色いガードレール!かっこよくて脇見運転必至。
2つめは、雙津峡温泉のすぐ近く、山口県道134号秋掛錦線にある小さな古隧道である。こちらも私好みのビジュアルをしている。
現地では徒歩で、雙津峡温泉北の郵便局を起点に、国道434号旧道区間を先に1周し、南下して古隧道に向かう計画だった。
さっそく、現地の様子をご覧いただくこととしよう。
キケン!
2024年2月10日AM10:50
私がいるのは、下の地図にスタート地点と書いた郵便局、深須郵便局前だ。ここから北に歩き、川(宇佐川)を渡る前に右に曲がって旧道に入る。旧道をぐるりと回り、メインディッシュの洞門を味わった後、現道に復帰し今度は南に向かってトンネルをくぐり戻ってくる。距離にして3km弱、ゆっくり撮影しながら歩いても郵便局に戻るまで50分はかからないだろう。その後郵便局からさらに南へ行き、古隧道を見学してからSOZU温泉着で20分。12:00到着予定だ。
今回珍しく時間を気にしながらの探索となったのは、事前に家族をSOZU温泉に放り込んできたからだ。家族を温泉に漬け込んでいる間に私は探索を済ませ、12時合流で昼食という予定になっている。趣味と家族サービスを兼ねた一石二鳥の素晴らしい計画であるが、時間に遅れたら何を言われるか分かったものではない。
さっそくスタートしよう。
郵便局から南を見ると、このような高架橋がある。大変目立つのに一切地図に載っていないこの高架橋は、国鉄岩日線という鉄道の未成線、その遺構である。
かつて山口県の岩国駅と島根県の日原駅間を通そうと計画され、岩国から六日市までは路盤が完成していた。しかし計画中止となり、岩国ー錦町間は第3セクター錦川清流線として開業したものの、錦町以北は(一部観光用に用いられてはいるが)永遠に未成のまま眠り続けることになってしまった。今回の主題ではないので岩日線についてはこのくらいにしておくが、様々なサイトで遺構を見ることができるので、興味があれば検索してみて。
国道434号を北に向いて歩く。道は宇佐川と並走しているので、その清水をよく眺めることができる。徒歩ならではの特権だが、こんな田舎の道を歩いている人間は誰もいない。探索中多くの車やバイクとすれ違ったが、歩行者は一人も目撃さえできなかった。田舎というのは、モータリゼーションの極まった世界のことだ。
深谷峡温泉と寂地峡の案内標識。寂地峡付近はなかなかの酷道っぷりだ。
400mばかり歩くと、トンネルと旧道入り口が見えてきた!あのトンネルはかなり険しい尾根を抜いているようだぞ。
左手に藪と同化しつつある廃車体を見送って進むと・・・
ここが現道と旧道の分岐地点だ。正面に現道のトンネル、右に進めば旧道。もちろん私は旧道へ。
旧道はその入口から何やらきな臭い雰囲気をまとっている・・・
倒木は旧道趣味者にとって日常風景なのでいいとして、この看板は重要だ。
「この先道路崩壊の為通り抜け出来ません」
道路崩壊と来たか・・・。看板の色褪せ具合から見るに、ここ1年2年の話ではなさどうだが、さて。
とはいえどの程度の崩壊かも分からないし、見える範囲では道は平穏に続いているのだから、進んでいく。通り抜けできるかどうかは私自身で決めること。
人も車も通らない旧道は、2車線幅の山側こそ落ち葉が覆っているものの、川側は轍が残り、まだ完全に利用者が途絶えたわけではないことを窺わせた。道路復旧工事の車が通っている可能性もあると思った。
ちなみに写真では一切伝わらないことだが、日が当たらず谷を風が吹き抜けてくるこの場所は、めっちゃ寒い!旧道に入ってから体感温度が2度くらい下がった気がするのだが、そのうち半分は気のせいではあるまい。自然と早足だ。
川の蛇行に沿って曲がる左カーブの先に、何やら見えてきた。あれはこの探索の帰趨を決するものかもしれない。
ここまで近づけば何かは分かってしまうなあ!決断を迫ってくる嫌なアレだ。
来た道を振り返ってみる。旧道に入ってからは250mほど歩いた。現道は見えなくなっている。
そして、私の目の前には。
通行止めに立入禁止の3連発(うち一つは河川内への立入りを禁じており、河川敷を歩いての迂回も許さない構えだ)!
この場所にしばし立ち止まって、寒さに震えながら考えたこと。
見える範囲(ここから200m弱くらい)には崩壊はなく、バリケードを超えての立ち入りも容易だが、崩壊の規模が分からないため、どこまで進めるかは不透明。
崩壊地が見えないというのが一番嫌なのだ。大丈夫と踏んで進んだ後でいざ越えられない崩壊地に遭遇した場合のロスは時間的にもっとも避けたい。曜日からして考えにくいが復旧工事などしていたら、立入禁止を犯したことを見咎められるかもしれないし。
一番歩きたい洞門は崩壊地の向こう側だと推測され、ここで引き返して現道を使って回り込み北側から洞門を通過、その後崩壊地の様子次第ではこれを越えて旧道を完抜することも可能かもしれない。
あ、サカナ、かわいい。
<キケン!!
サカナに免じて、ここは大人しく引き下がろう。
11:07、転進決定!
つづく
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