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やっぱり芥川は趣味じゃない|ひよこ家の読書交換日記⑤

ひよこ家の夫婦が、お互いに薦めた本を読み合う読書感想日記。
第5回目、妻あやーんの回です。

▼前回の記事

課題図書③の感想の感想

夫からの指摘が全部図星だったのと、今回も執筆期限を超えてしまっているので省略。

課題図書④の感想

今回の課題図書は、夫が手加減してくれた。
たった14ページで終わる、芥川竜之介『藪の中』

読んだことのある本だったけど、問題ない。
本の内容を忘れることにかけては、人に負けない自信がある。

ただ、芥川小説全般、暗くてグロいイメージがあるので、気が重かった。果たして実際、暗かったけど、推理小説要素があったので、3回も読み返してしまった。


あらすじ

平安時代、藪の中で男の遺体が見つかった。遺体の発見者や、生前の目撃者・親族の情報によると、男は妻と二人旅の道中だった。そこへ盗人がやってきて、女性を奪うために夫を藪の中に連れ込む。夫の身動きをとれなくしたところで、妻も藪の中に連れ込み乱暴を働く。

ただ、その後がわからない。結果として、夫は死に、妻は行方不明、盗人は捕まるのだが、三者の言い分が異なるのだ。

最初から読み直したり、後ろから読み直してまとめたすれ違いがこちら。

※刺した小刀を抜いたのは別人物

赤字の通り、みんながみんな「殺したのは自分」とバラバラなことを言っている。どうにかからくりを暴こうと、何度も読み返したけど、納得できる筋書きが見つからない。

そもそもだ、夫は「巫女の口を借りたる死霊」として語っている。今でいう、イタコさんに降臨するやつだ。証言=真実なのか定かでない。

一方、残る二人はまだ生きている。生きているから嘘もつく。誇張もする。ショックで記憶も歪む。こっちの証言も信じられない。

感想

疑心暗鬼の中、上の表とにらめっこ。盗人と夫、二人の証言は割と近い。盗人は「俺のことなんか極刑にしてくれい」と威勢よく腹くくっているので、自分で殺してなくても「俺がやった」とか言いそうだ。
私なりの推測は、イタコに降りてきた夫の言葉が真実。

だけど。

芥川さんは、なんでこんな小説を書いたんだろう。推理小説にしては、最後に真実の開示がない。答え合わせできない。
とすると、「人間の記憶と言動だもの、こういうおかしなこと起きますよね」という象徴を描きたかったのかな。

芥川がこの一編を書いた明治時代、巫女さんの口寄せ(イタコ的なお告げ)は政府の宗教政策により禁止されたが、各地で隠れて活動を続けていた。つまり、需要があったということだ。当時の読者は、今よりも夫(死霊)の証言を信憑性の高いものとして受け取ったのかもしれない。

小説の舞台である平安時代では、もっと信用度が高い。邪馬台国では巫女(卑弥呼)が政治すら動かしていた。数百年たった平安の時代でも、巫女の口寄せは信じられていたことだろう。

あんた、仏壇のおまんじゅう食べたでしょ?

そんなふうに時代に思いを馳せると、同じ証言でも時代によって受け取り方が違う。さらに藪の中だ。
もはや、某アニメのように「真実はひとつ!」と言いつづけることが、この小説においてはナンセンスなのかも。

答えが見えない状況で、それでも考え続けられますか?あらゆる可能性に思いを馳せられますか?と芥川さんからの挑戦を受けてるような気もするし、そうでない気もする。

どうあれ、「藪の中」という言葉が固有の意味を持ち、辞書に載るようになった。事象に言葉を与えて、共通の概念をつくっただけでも、この小説は大きな意味を持っているんじゃなかろうか。

藪の中=(芥川龍之介の作品「藪の中」から) 関係者のいうことが食い違って、真相がわからないことをいう。「真相は藪の中だ」

コトバンク

課題図書⑤

小林秀雄『栗の木』より、以下いずれか(または両方)。

  • 「喋ることと書くこと」

  • 「写真」

白髪の著者近影に惚れて、高校生時代に図書室に行ってはお写真を拝んでいた小林秀雄。お試しにエッセイをどうぞ。

鎌倉に住んでいたイケおじ、こと小林秀雄氏。好き。


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