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水底の人魚


生命の混沌が漂う海の
その潮の合間に
人魚の青年を見つけた

網に囚われたセイレーンの末裔
彼は光を求め 水面を目指し
あがき 疲れ
冷えた体を横たえていた

海底に朽ちた古代の遺跡を
ただぼんやりと見ながら
いにしえの言葉で途切れ途切れの物語を歌う
故郷の景色 置いてきた愛 狂おしい渇望
ひとつひとつが泡となり
水面に小さく不揃いな旋律を解き放つ

ただ1枚の 彼の鱗がたゆたっていた
月光に輝きながら

私はそれを大切にすくい
朝焼けの女神へ捧げよう

かつて同族であった者として
暦の先を読む者として

捕われの年月を生き延びて
彼はいつしか解き放たれ
内に秘めた魔法の欠片を繋ぎ
人々を魅了する幻想の物語の
広い広い世界を 創造するのだ


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