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【短編】みしんちゃん


お日様がてっぺんにあった時
河原の方からたくさんの子供の笑い声が聞こえてきて、とっても楽しそうで、わたしは水面から顔を出した。

また“水切り”してる。
平らな石を上手に川面に投げると、石が水面をピョンピョン跳ねながら進んでいく。何回跳ねてから沈んだのかをみんなで数えて、たくさん跳ねさせた子が勝ち。
みんなでよくやっている遊び。

いいな。いいな。わたしもやりたい。一緒にやりたい。

わたしは川から出てみんなのそばに行った。
わたしもやる!

みんながわたしを見て「誰?」って不思議そうな顔をしたから、あわてて
“ずっと前から友達。「みしん」って呼ばれている子”
って、”気づいて”もらった。

わたしも石を投げてみた。
石は変な方向にひょろっと飛んでポチャンと川に落ちた。
おかしいな。

上手な子が来て、すぐに教えてくれた。
石の選び方と投げ方。
ふうん。平らな石がいいんだね。
教えてもらった通りにやってみた。

みんなが見守る中、石は水の上で一回だけ跳ねて、沈んだ。
「みしんすげえ!初めてやったのにできた!」
「やったね!」
わたしも嬉しい。みんなも嬉しい。ほんとに嬉しい。
もっと投げたい!
でもちょうどいい石がなかなか見つからない。

あ。そうだ。わたしのところにたくさんあったよ!
「どこ?俺に教えて?」
いいよ。一緒に行こう。

その子と手を繋いで川に入る。
この辺りの川底にいくつもあるよ。
「どこ?見えないよ。」
水の上から見ても見えないよ。もっと私みたいに頭まで川に入らないと。
こっちだよ。
わたしはその子の手を引っ張って水の中に誘った。
ぶくぶく。
もうちょっと奥の方。もうちょっとあっち。

…ここ!見て!
ね。
にこにこ振り向いたら、その子の顔には、なにも表情がなかった。
ただ目を見開いて体全体で水の中にフワフワしているだけだ。

あれ?あれ?大喜びすると思ったのに。…あれ?わたし…いけないことをしているのかな。
ほっぺたをつついてみたけれど、ひんやりしているだけで、反応がない。

いけないこと。
これはたぶんいけないこと。
いけないことをしちゃった!

わたしはいそいでその子を水面まで押し戻して、河原の方へ引っ張っていった。
体をできるだけ水のない方に引きずり出した。
「居たぞ!!」
子供たちと、さっきいなかった大人がたくさん走ってきて、その子の周りに駆け寄った。

今はもう夕焼けだ。
あの子を囲んで大騒ぎするみんなの影が、同じ方向に長く伸びている。
「他に居なくなった子どもは?」
「一人いない。みしんちゃんが…………みしんちゃん?」
「みしんちゃんってだれ?」
「誰?」
「あれ?6人で遊んだよね。」
「最初から最後まで5人だろ。」
「もう一人いたよ。」
「どんな子?」
「…………あれ……?思い出せない……。」

わたしだけ影がないことに気付いた。どの方向にも無い。

無い。
恥ずかしい。
悲しい。
恥ずかしい。
恥ずかしい。

急いで川に入って、水の中の奥深くの暗がりにまた、隠れた。




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みしん=missing
前記事「たりないひとり」は"nana"というサウンド交流アプリ用に、90秒で音読できる長さに書きました。
こちらはその元になった短編ですが…
たった一か月前に書いたのに、この原稿の存在を完全に忘れていました…
今日データ整理していたら気付き、やっと思い出してびっくりしました。
考えなきゃいけないことが多い忙しい時期に書いたせいもあるだろうけれど、この話の何が怖いって、主人公の事を原稿ごと忘れ去っていた自分のことが一番怖いです…。


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