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『2001年宇宙の旅(決定版)』 作者: アーサー・C・クラーク

本作は、スタンリー・キューブリック監督による1968年のSF映画の小説版である。映画公開後に発表されたもののノベライズではなく、先行して書かれたものだ。
きっかけはキューブリックからクラークへのアプローチ。
「語り草になる様な良いSF映画を作りたいのだが、何かアイデアはないか?」
キューブリックは、この宇宙で人間が占める位置をテーマにした映画を考えていたと言う。
二人でディスカッションを重ねアイデアを練っていったが、キューブリックの提案で、まず小説として完成させ、脚本はそこからひねり出そうということになった。最後には脚本と小説は同時進行となり、フィードバックは相互に行なわれ、ラッシュフィルムを観て小説を書き直す様なこともしたそうだ。
結果的に、この映画は大傑作となった。キューブリックの拘りに拘り抜いた映像美が終始一貫した本作は、これ迄に無かった映画たり得た。為に、未だにSF映画の金字塔と言われ続けている。
正直言って、良くもまぁ、あの時代にこんな本格SF映画を作れたものだと、感心しかない。
もっとも、例えば物語の発端となる「モノリス」のデザインとか、宇宙人が具体的に登場しない点など、クラークのアイデアが幾つもキューブリックによって蹴られている様で、クラークとしては本作については不満な点も多々ある様だ。
後年、続編の『2010年宇宙の旅』の映画化を許可するに際して、クラークはキューブリックが参加しないことを条件にしているのはちょっと笑える。そして、その結果出来上がった映画を、クラークはいたく気に入っていると言う。

ところで、本書が(決定版)とあるのは、作者本人による改訂が為されていることに起因している。初出された古い時代の科学知識と、その後の宇宙探索で分かった事実との乖離を修正したらしい。物語に影響を与えない、許されるであろう範囲でアップデートしたのである。
内容的は一部を除いて映画に準じており、映像では難解であったストーリーも詳細な記述によって理解が進むので、精神衛生上誠によろしい。
但し、その文章の殆どが時代背景や科学に関しての詳述で、如何にしてその世界が成り立っているかの描写、つまり舞台設定に費やされていて、主人公を含めて登場人物にキャラクター性はあまり無い。
クラークにとっては、登場人物たちすら物語を進めるための舞台装置の一つなのだろう。
実にSF的だ。SFファン以外が読んでも楽しくないんだろうなぁと思いつつ、そもそもSFファンでなきゃ読まないだろうから、これで良いのだ。


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