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『赤き馬の使者 探偵物語Ⅱ』 作者:小鷹信光

小鷹信光著の「探偵物語」シリーズの第二弾である。

前作から約四ヶ月後。舞台は北海道。一仕事を終えた私立探偵 工藤俊作が、札幌のホテルの部屋へ戻った途端、3人の暴漢に容赦無く痛めつけられ意識を失くすところから物語は始まる。
一日半後、病院のベッドの上で目覚めた工藤は、終えたばかりの調査の記憶を遡る。依頼の理由も、さらには依頼人自体の身元も不明なまま引き受けた謎多き仕事の内容は、東京から北海道の片田舎、鹿討町へ赴き、そこで暮らす在る人物の調査をすることだった。

「鹿討に、二度と顔を出すんじゃないぞ」という襲撃者が言い残した警告は、却って手負いのハンター犬に次の目的地を教えてくれた。
退院した工藤は鹿討町へ舞い戻る。それはカタをつけねばならない。貸し借りにはケリをつけなければ前には進めないというハードボイルドのルールに従うものだ。

そして、釧路、帯広など北海道の各地を舞台に拡げながら、幾度も死に目に遭い続けるスリルとアクションに満ちた物語が流暢な語り口で展開していく。さらに、やがて事件は工藤自身の過去にまで関わってくる・・・。

恐らく著者は、第一作目の執筆時点で既にこの作品の着想を得ていたに違いない。益々テレビドラマ版とはかけ離れていってしまうが、一人の頑迷な男の物語としてこの連作は実に愉しめる。

前作よりもタフに、スリリングに、テンポ良く、切れ味鋭い筆力で一気に読ませてしまうのは、著者が乗りに乗って書き上げた証左だ。結末を1920年代のハメットやチャンドラーの時代から引き継いだ様な伝統的ともいえる探偵小説のそれに沿わせているのも誇らしい。

断っておくが、本書は単なる暴力小説ではない。優れたプロット、構成を下地とした古典的なハードボイルドの作風を漂わせた、貴重にして純粋な日本製の探偵小説の名作の一つだ。

この二連作の後、時を経て工藤俊作の物語は復活する。だが、それには20年程の時間を要するのだ。それは小説家としての小鷹信光の活動とイコールとなる。
著者が生涯を通じて工藤俊作を主人公とする小説しか書かなかった理由は知る由もないが、兎にも角にもミステリーファンは優れた探偵小説作家の次なる創作を長年待たねばならなかったのだ。


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