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解雇→水商売、から考える就労の話

橘みつ『レズ風俗で働くわたしが、他人の人生に本気でぶつかってきた話』という本を読んでいます。
タイトルからして読むのを躊躇する人がいるかもしれませんが、レズ風俗というのは目を引くためのキャッチコピーみたいなもので、内容の中心は性や風俗ではないです。
特に私は福祉の分野で働いているからか、精神障害をもつ人、発達障害をもつ人、貧困層にある人、何らかの生きづらさを抱える人の心理状態を想像する一助になるような言葉が、たくさんありました。


書き手である橘さんは、新卒で入った会社の産業医面談で紹介された病院を受診したところ、解離性障害か双極性障害(最終的な診断名は本書では明言されていませんが)の診断を受け、解雇宣告をされてしまいます。

生きていくには意思だけでは不十分でまずお金、そのためには仕事。しかし、働けるだけの健康はどこにもなかった。(中略)もはや生きたいという気持ち自体も疑わしくなってくる。本当に生きたいのだろうか? 何のために? 縋るべきものなんてあるの? そんな風にわたしの自意識に睨まれた生は、一歩また一歩と力なく後退してしまう。この思考の行き着く先は、もちろん自殺だ。

橘みつ『レズ風俗で働くわたしが、他人の人生に本気でぶつかってきた話』p.31-32

「働けるだけの体力を溜めるために必要な休養時間を差し引くと、手元に残るのは1日あたり4、5時間だけ」(p.37)だった橘さんが次の仕事に選んだのは、銀座のクラブのホステス。そこを辞めた後、いくつものアルバイトを掛け持ちし、一時は昼の仕事に戻ろうと考えたこともあったようす。

マニュアルは完璧に覚えている。客の前で一分の隙もなく振る舞うこともできるし、何を言い出されても動じずにいられる。しかし、どうしても朝早くに家を出て一日8時間働くことができないのだった。(中略)わたしより何もできないのに、とりあえず出勤することができる人が重用されて行く。

橘みつ『レズ風俗で働くわたしが、他人の人生に本気でぶつかってきた話』p.82

ここを読んだときは、なんというか、現代日本の就労常識を覆していく必要性を感じました。正規雇用と非正規雇用には給与や福利厚生の面で大きな差がありますが、その実、業務内容はほぼ同じで、違うのは規定労働時間だけ……という話はいくらでも聞きます。

ちなみに、障害をお持ちの方の就労には障害者雇用のほか、障害福祉サービスである就労移行支援、就労継続支援(A型、B型)という選択肢があります。
ただ、ついて回るのがお金の問題であり、それに伴うモチベーションの問題です。
就労移行支援は収入が発生しないし、では就労継続支援A型は、というと、多くの事業所が求めてくる週20時間の労働時間がネックとなる方が多い。ならば就労継続支援B型か、となるとこちらは工賃(もはや「給与」とも言わない)が時給数百円の世界(1000円台のところもあるけど稀)。
加えて、そもそも就労継続支援A型の事業所数は、就労継続支援B型事業所に比べて圧倒的に少ない(厚労省の令和3年社会福祉施設等調査の概況によると、A型の事業所数はB型の4分の1に満たない)ため、近所にない等で選択肢に挙がらないケースもある。

自分で仕事をコーディネートしてうまくできる力があるのであれば、フリーランスという生き方ができるのかもしれませんけれども、何かしらの体調不良や障害により退職した後の就労形態としてはだいぶハードルが高いと思う。

障害者相談支援窓口で働いていて、仕事の相談を受けるたび、障害がネックなのではなく今日の社会のほうが変わるべきなのでは、と思うことは少なくありません。悶々とした思いを抱えつつ、ではどういう形がベターなのかを、私はまだ見つけられずにいますが……。


今回はあくまで就労をテーマに書きましたが、無理して働くのではなく生活保護を受けることもどうか前向きに考えてください。
生活保護は権利で、恥ずかしいことでもなんでもないので、よろしくお願いします。


また、風俗はそれとして立派な仕事でもあるので、そこを否定したいのではないことは、どうか誤解のなきようお願いいたします。

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