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愛知県の進学校Mapその1(複合選抜の解説&三河学区)

愛知県の中学生で学力上位10%の子どもたち(10%er)は、どこの高校を選ぶのだろうか?この記事では、10%erが順当に選ぶと考えられる高校を「進学校」と定義し、愛知県の進学校を紹介する。

※この記事は、2020年3月末時点の情勢に基づいて執筆している。『進学校Map』における進学校の選定基準は、以下の記事を参照のこと。

概要

人口:約753万人 (※2017年10月1日現在。総務省人口推計)

中学校卒業者数:73295人 (※2017年3月。文部科学省学校基本調査)

国公立高校入学定員:47360人 (※2017年4月。文部科学省学校基本調査)

中学校卒業者数に対する国公立高校入学定員比率:64.6%

進学校:25校(公立18+国立1+私立6)

日本一複雑な高校入試制度

愛知県の公立高校入試は複合選抜という独特の制度を採用している。愛知県の進学校情勢は複合選抜の影響を大きく受けているので、最初にこの制度の解説をしよう。

愛知県の公立高校入試における複合選抜とは、公立高校を一度に2校志願できるようにするための制度である。ただし、どの2校でも自由に選べるわけではない。県内の公立高校はAグループとBグループの2グループに分かれており、2校志願する場合はAグループとBグループから1校ずつ選ばなければならない(同じグループから2校選ぶのは不可)。その際、どちらのグループの高校を第1志望校にするのかを志願時点で申告する。

入試の学力検査も、AグループとBグループに分かれて行う。2021年度入試では3月5日にAグループの学力検査、3月10日にBグループの学力検査が行われた。学力検査の後、各高校で学力検査と調査書に基づいて受検者に順位が付けられるが、第1志望校にしたからといって加点はされず、第2志望校にした受検者と同一基準で順位付けされる(推薦選抜該当者は除く)。第1志望校で定員内に入れば、当然ながら第1志望校に合格決定だ。第1志望校に合格した受検者は、第2志望校の順位表からは削除されるので、その分順位が繰り上がって定員内に入ることもあり得る。この結果、各高校には第1志望校での合格者と、第1志望校では定員内に入れなかった第2志望校での合格者が混在する。合格発表はAグループとBグループの両方同時に行われるが、志望したどちらか1校に見に行けばよい。合格発表を見に行った高校で「本校に合格」と掲示されていればその高校に合格、「相手校に合格」と掲示されていれば見に行っていない高校に合格したことがわかる(下のリンク先も参照)。

他の自治体では「公立は1校だけ受検、落ちたら併願先の私立」というところが多いので、たとえば、いわゆる公立トップ校にギリギリで落ちた生徒を私立高校が確保することができる。一方、愛知県ではそうした受検者の多くは第2志望校の公立高校に収まるので、公立高校にとっては都合がよい制度だと言えるだろう。もっとも、この複合選抜の“恩恵”を放棄して1校(第1志望校)だけを志願してもよく、その場合はその1校に落ちたら併願先の私立高校に入学することになる。

愛知県の公立高校入試における複合選抜をさらにややこしくしているのは、先述したAグループ・Bグループ以外にも、志願する上での制約があることだ。まず、愛知県の公立高校普通科は尾張学区(県西部)と三河学区(県東部)に分かれており、原則として居住する学区の高校しか志願できない(境界付近で例外あり)。さらに、尾張学区は尾張第1群尾張2群に分かれていて、同じ群の中でAグループとBグループの高校を選ばないといけない。たとえば、第1志望校が尾張第1群かつAグループならば、第2志望校は尾張第1群かつBグループの中から選ばなければならない。よって、尾張学区の公立高校普通科志望の生徒が2校志願する場合は、次の4パターンに限られる。

(尾張学区の複合選抜)

「尾張第1群Aグループ」「尾張第1群Bグループ」「尾張第2群Aグループ」「尾張第2群Bグループ」はそれぞれ約20校の高校が含まれる。ただし、それぞれに属する高校の合格難易度は様々で、近隣の高校どうしを敢えて組み合わせづらくしてあることも多く、事実上の選択肢はさほど多くない。たとえば、旭丘高校(尾張第1群Aグループ)を第1志望校とするなら、菊里高校(尾張第1群Bグループ)を第2志望校とするのが鉄板である。ただし、「1・2群共通校」という、どちらの群にも所属していて、志願時に都合の良い方の群に割り当てられる高校もあるので注意を要する。

以下、比較的高校数が少ない三河学区の進学校Mapを先に紹介し、記事を改めて尾張学区の進学校Mapを紹介する。

Map(三河学区)

愛知(三河)2cud

※尾張学区の進学校Mapは「尾張学区」の記事に掲載。

※地図は『MANDARA』で作成。進学校を中心とした同心円は、すべて半径20kmで描いている。

※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。♂を付けた学校は男子校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

三河学区:群統合が及ぼす影響

三河学区の中学校卒業者数(2017年3月現在。以下同様)は約24000人と、尾張学区の半分程度である。尾張学区の公立高校普通科は尾張第1群と尾張第2群に分かれていると述べたが、2016年までは三河学区も三河第1群と三河第2群に分かれていた。しかし、三河学区は尾張学区に比べて学校の選択肢が少ないことが問題視されたためか、2017年から三河第1群と三河第2群が統合されて三河群となった。「三河群Aグループ」と「三河群Bグループ」それぞれに属する高校は約20校ずつである。このうち、本稿で話題とする高校のグループ分けは次の通りとなっている。

三河学区グループ分け

※便宜的に、合格者の平均学力が高い順に上から並べているが、学力の差のの幅は等間隔ではない。

三河学区はさらに、西三河と東三河の2地域に分けることができる。地域間の移動は可能だが、地理的事情から多くは各地域内の高校を志向している。

人口がより少ない東三河(中学校卒業者数約8000人)から見ていこう。本稿では、東三河に所属する市町村は、豊橋市・豊川市・蒲郡市・新城市・田原市・設楽町・東栄町・豊根村とし、これ以外の三河の市町村はすべて西三河とする。

東三河の学力最上位層は、一部が西三河の岡崎高校(岡崎市)に流出しているものの、多くは地元の時習館高校(豊橋市)に集まる。時習館高校に届かない東三河の10%erは、豊橋東高校(豊橋市)を志望する傾向が強い。時習館高校と豊橋東高校はいずれもBグループなので、この2校を組み合わせて志願はできない。このため、時習館高校と豊橋東高校はどちらも、第1志望での志願者が圧倒的に多い。

2016年までは、岡崎高校が三河第1群Aグループ、時習館高校が三河第2群Bグループだったので、「岡崎-時習館」という併願はできなかったが、群統合された現在は可能となった。一方、豊橋東高校は2016年までは三河第1群Aグループだったので、そのまま群統合されれば時習館高校と併願できるようになるはずだったが、群統合と同じタイミングで三河群Bグループに移動したため、引き続き併願はできない。第1志望での入学者が多い豊橋東高校を、“時習館高校の滑り止め”にしたくないという意向が働いたのだろう。

国府高校(豊川市)と豊丘高校(豊橋市)は2016年まで三河第2群Aグループで、時習館高校を第1志望校にする受検者が第2志望校として併願することが多かった。2017年以降は群統合と豊橋東高校のグループ移動によって、豊橋東高校とも併願できるようになった。とくに「時習館-豊丘」「豊橋東-豊丘」のように、同一市内での組み合わせは需要が高く、豊丘高校は第1志望者よりも第2志望者の方がかなり多い状況になっている。

西三河(中学校卒業者数約16000人)で最も合格難易度が高い公立進学校が岡崎高校(岡崎市)で、刈谷高校(刈谷市)がこれに続く。岡崎高校は、岡崎市から通う生徒が約4割、豊田市から通う生徒が約2割と多く、東三河からも約1割いる(2020年現在。高校公式サイトの情報による)。下の地図は、岡崎高校の生徒が多い通学区域を色分けしたもので、青が全校生徒全体の10%以上、水色が3%以上を占める市町村である。

岡崎高校生徒分布2

一方、刈谷高校の生徒は、刈谷市・安城市からの通学が約4割を占め、尾張学区ながら特例で受検が許可されている大府市・豊明市・東浦町からの通学が約2割ある(2018年現在。高校公式サイトの情報による)。

刈谷高校生徒分布2

※上記2枚の地図は、白地図ぬりぬりで作成。

岡崎高校志向が強い岡崎市・豊田市で、10%erが次に目指す公立高校は、豊田市にある豊田西高校と、岡崎市にある岡崎北高校だ。かつては、豊田西高校が三河第1群Bグループ、岡崎北高校が三河第2群Bグループだったので、三河第1群Aグループの岡崎高校と併願できたのは豊田西高校だけだった。しかし群統合によって、豊田西高校と岡崎北高校はどちらも岡崎高校と併願できるようになった。これによって、岡崎市在住の生徒は「岡崎-豊田西」ではなく「岡崎-岡崎北」という組み合わせを選ぶようになり、岡崎高校不合格者の流入が新たに発生した分、岡崎北高校の合格難易度が上がったと見られる。

刈谷高校志向が強い刈谷市・安城市周辺で、10%erが次に目指す公立高校は、刈谷市にある刈谷北高校と、西尾市にある西尾高校である。刈谷北高校の主な通学圏は刈谷市・大府市・知立市あたり、西尾高校の主な通学圏は西尾市・安城市あたりだが、刈谷北高校の主な通学圏では名古屋市方面への10%erの流出が目立つ。そもそも大府市は尾張学区だから、名古屋市の公立高校の受検にも制約がないのである。一方、西尾高校の主な通学圏から名古屋市方面に通学するのは比較的面倒なので、地元に留まる割合が比較的高い。以上の点を踏まえ、進学校Mapでは西尾高校を優先して進学校に選定した。

なお、刈谷高校はかつて三河第2群Aグループだったので、刈谷高校を第1志望校にする受検者が併願するなら、三河第2群Bグループの西尾高校や知立東高校が定番だった。ところが、群統合によって刈谷北高校(かつては三河第1群Bグループ)も、刈谷高校と併願可能になった。このことは、先述した岡崎北高校と同じ理屈で、刈谷北高校の合格難易度が上がる要因だと言える。

三河学区は総じて公立志向が強く、尾張学区に位置する私立進学校に通う生徒もいるが、10%erに占める割合は少ない。その中で、蒲郡市にある私立の海陽中等教育学校は異色の存在だと言えるだろう。トヨタ自動車をはじめとする著名企業の寄附によって2006年に設立したこの学校は、全寮制の完全中高一貫男子校である。入試会場が全国に設けられ、入学者の約半数は県外出身のようだ。また、特別給費制試験は合格すると授業料と寮費が免除されることもあり、愛知県の中学入試の中では突出して合格難易度が高い。

愛知県(三河学区)内高校の大学合格実績(2020年春)

愛知県三河学区大学合格実績210909

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。

三河学区では県外の国立大学として、静岡大学が積極的に志向される。とくに静岡大学情報学部・工学部は浜松市にあるので、豊橋市からであれば自宅通学も視野に入る。

【2021/12/27追記】この記事を含む中部・関西地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


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