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愛知県の進学校Mapその2(尾張学区)

※この記事は、『愛知県の進学校Mapその1(複合選抜の解説&三河学区)』の続きです。

Map(愛知県尾張学区)

【名古屋市外】

愛知(尾張名古屋市外)1cud

【名古屋市内】

愛知(尾張名古屋市内)1cud

※愛知県三河学区の進学校Mapは「愛知県の進学校Mapその1」の記事に掲載。

※地図は『MANDARA』で作成。名古屋市外の進学校を示したMapには、高校を中心とする同心円(半径20km)を描いた。

※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。♂を付けた学校は男子校、♀を付けた学校は女子校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

尾張学区:名古屋市の吸引力

尾張学区の中学校卒業者数は約49000人で、そのうち名古屋市は約20000人と半分に満たないが、進学校は名古屋市の中心部に集まっている。尾張学区の大半の市町村から名古屋市内の高校に通学が可能なので、尾張学区はひとつの巨大な通学圏とみなすことができる。

愛知県の進学校Mapその1」で解説した通り、愛知県の公立高校入試では複合選抜を採用していて、尾張学区の公立高校の受検者は、原則として尾張学区内の公立高校を一度に2校志願できる。志願できる高校の組み合わせを決定づける、尾張学区での高校のグループ分けは次の通りになっている(本稿で話題とする高校のみ記載)。

尾張学区グループ分け

※便宜的に、合格者の平均学力が高い順に上から並べているが、学力の差のの幅は等間隔ではない。

2校志願する際は、同じ群の高校の中から、Aグループの高校とBグループの高校を1校ずつ選ぶのがルールだ。たとえば、第1志望校が尾張第1群Aグループだったとすると、第2志望校は尾張第1群Bグループの中からしか選べない。ただし、松蔭高校は特例で尾張第1群Aグループと尾張第2群Aグループの両方に属しているので、尾張第1群Bグループと尾張第2群Bグループのどちらの高校とも併願できる。

尾張学区の公立高校の中で、合格者の平均学力が最も高いのは旭丘高校(名古屋市東区)である。旭丘高校は高校公式サイトで大学合格実績を公開しないポリシーを持つが、あちこちから漏れ出てくる情報を見聞きする限り、大学合格実績が愛知県公立高校の中で突出していることは間違いない。なお、旭丘高校には美術科もあるが、進学校Mapでは普通科のみを進学校として選定した。

旭丘高校に次いで合格者の平均学力が高い尾張学区の公立高校は、明和高校(名古屋市東区)と一宮高校(一宮市)だ。一宮高校は名古屋市からの通学者は少ないが、尾張学区で人口第2位の市である一宮市周辺から多くの生徒を集めている。なお、進学校としては選定していないが、明和高校には音楽科、一宮高校にはファッション創造科がある。

旭丘高校・明和高校・一宮高校はいずれも愛知県立高校だが、名古屋市立高校にも合格難易度が高い高校が多い。とくに名古屋市立菊里高校(名古屋市千種区)と名古屋市立向陽高校(名古屋市昭和区)は、どちらも高等女学校を前身とし、普通科の合格者の平均学力もほぼ同等であることから、何かと比較されることが多い。この2校の大きな違いは2点ある。1点目はグループ分けだ。名古屋市立菊里高校は尾張第1群Bグループなので、尾張第1群Aグループの旭丘高校を第1志望校にした受検者生が第2志望校として志願することが多い。この結果、名古屋市立菊里高校の合格者には旭丘高校を志願したが不合格だった人が相当数含まれている。一方、名古屋市立向陽高校は尾張第2群Aグループであり、尾張第2群Bグループに合格難易度がより高い高校が存在しないので、第1志望校として志願・合格する受検者が多い。2点目は、普通科と並置されている学科だ。名古屋市立菊里高校には音楽科、名古屋市立向陽高校には国際科学科がある。名古屋市立向陽高校の国際科学科のカリキュラムは理数科そのもので、大学進学を目指す普通科高校志望者も選択肢に入る。普通科以外の学科には「尾張学区/三河学区」や「第1群/第2群」の区別がなく、名古屋市立向陽高校国際科学科は「県内全域Aグループ」に属する。このため、制度上は三河学区からも志願できる。ただし、Aグループどうしの併願はできないので、名古屋市立向陽高校の国際科学科から普通科に回し合格になることはなく、他校を併願する必要がある。

向陽国際科学併願パターン

ここから先は、尾張学区をさらに3分割した地域(知多・尾西・名古屋)ごとに、公立進学校の情勢を見ていこう。

知多地域は知多半島の5市5町(半田市・知多市・常滑市・東海市・大府市・武豊町・美浜町・南知多町・阿久比町・東浦町)からなり、中学校卒業者数は約6000人である。知多地域にある公立高校で最も合格難易度が高いのが、半田市にある半田高校だ。とくに半田市以南の3町(武豊町・美浜町・南知多町)では名古屋市の高校に通うのは手間がかかるため、半田高校が事実上の“トップ校”とみなされている。一方、名古屋市に隣接している東海市からは名古屋市内への通学は容易だし、大府市や東浦町は学区境界の特例で、刈谷市にある刈谷高校や刈谷北高校に志願可能なので、知多半島の10%erが挙って半田高校を目指すわけではない。

尾張第1群Bグループの半田高校を第1志望校にする場合、第2志望校は尾張第1群Aグループから選ぶことになるが、知多半島に留まりたいならほとんど半田東高校(半田市)一択である。ただ、半田高校と半田東高校の合格難易度の差は大きいので、名古屋市に通えるならば、名古屋市でも比較的知多半島寄りにある昭和高校(名古屋市瑞穂区)が選択肢に入る。知多地域の公立高校で2番目に合格難易度が高い横須賀高校(東海市)は、半田高校と併願することができないので、第1志望校としての受検者が多い。しかし、東海市の10%erは、横須賀高校より合格難易度が高い名古屋市内の公立高校に多く流出するので、横須賀高校に集まる10%erの数は多くない。

尾西地域は、本稿では次の16市町を指す。

一宮市・稲沢市・津島市・愛西市・弥富市・あま市・清須市・北名古屋市・岩倉市・江南市・犬山市・小牧市・蟹江町・大治町・扶桑町・大口町

尾西地域は、一宮高校への進学者がほぼ毎年存在する地域と言い換えてもよい。中学校卒業者数14000人余りを抱える尾西地域の10%erが全員一宮高校に収まるわけもなく、地域内にあるそれ以外の高校への志願を模索する。具体的には、一宮市や稲沢市周辺では一宮西高校(一宮市)、あま市や清須市周辺では五条高校(あま市)、北名古屋市や岩倉市周辺では西春高校(北名古屋市)、江南市や犬山市周辺では江南高校(江南市)がよく志願される。この4校のうち、合格者に占める10%erの割合が比較的高いのが一宮西高校西春高校であることから、この2校を進学校Mapにおける進学校に選定した。

一宮西高校は尾西地域で最も人口が多い一宮市にあり、また名古屋市から比較的遠いため、名古屋市まで通うのは億劫な10%erを多く集めている。一宮西高校は一宮高校と併願できないのに対し、五条高校と西春高校は一宮高校と併願できるので、少なくない一宮高校不合格者が五条高校と西春高校に収まっている。また、五条高校と西春高校は名古屋市に近いという点でも共通しているが、名古屋市内の公立高校では珍しいスパルタ教育に定評があるためか、名古屋市からもそれぞれ2割程度入学している。では、なぜ西春高校の方が五条高校よりも、合格者に占める10%erの割合が高いのかと言えば、立地と交通網の影響が大きいだろう。距離的には五条高校のおひざ元である津島市・愛西市では、一宮~津島を結ぶ名鉄尾西線によって、10%erが一宮西高校に流出している。一方、西春高校は名鉄犬山線沿線全域(岐阜県を除く)に加え、尾西地域人口第2位の小牧市からも多くの生徒を集めている。総合すると、西春高校は五条高校に比べて通学圏内の中学校卒業者数が多いと考えられる。江南高校も、西春高校と同じ名鉄犬山線沿線にあり決して通学不便ではないのだが、犬山市や扶桑町、大口町という江南高校の方が通いやすいはずの市町からも少なからず西春高校に通学していることや、一宮西高校を第1志望校とする受検者に多く併願される(=一宮西高校不合格者が入学しやすい)ことから、西春高校や一宮西高校に比べて10%erの合格者が少ないと考えられる。

名古屋地域は、名古屋市と、名古屋市への通学がとくに盛んな9市町村(春日井市・尾張旭市・瀬戸市・長久手市・日進市・豊明市・豊山町・東郷町・飛島村)からなり、中学校卒業者数は約28000人である。この地域にある公立高校のうち、合格者の平均学力トップの旭丘高校と併願されやすいのが名古屋市立菊里高校という話は既にしたので、合格者の平均学力第2位の明和高校と併願されやすい高校を調べてみよう。すると、名古屋市内では瑞陵高校(名古屋市瑞穂区)普通科と千種高校(名古屋市名東区)、尾張旭市や瀬戸市では旭野高校(尾張旭市)が選ばれていることがわかる。とは言え、尾張旭市や瀬戸市からは名鉄瀬戸線に乗れば名古屋市内への通学が容易なので、旭野高校に留まる10%erの割合は、瑞陵高校普通科や千種高校に比べると低いと考えられる。

合格者の平均学力で明和高校に続く、名古屋市立菊里高校と名古屋市立向陽高校の併願校を調べると、名古屋市立菊里高校は名古屋市立名東高校(名古屋市名東区)と、名古屋市立向陽高校は瑞陵高校や名古屋市立桜台高校(名古屋市南区)普通科とよく併願されていることがわかる。名古屋市立名東高校と名古屋市立桜台高校普通科の合格難易度と大学合格実績を比較すると、名古屋市立桜台高校が若干優位に立っているのが現状だ。名古屋市立桜台高校は、名鉄名古屋本線と名古屋地下鉄桜通線の2路線が利用可能で、名古屋市の区で最も人口が多い緑区を通学圏に収めつつ、遠方からの通学もしやすい。一方、名古屋市立名東高校は鉄道駅から遠く(最寄りの鉄道駅から約3km)、名古屋市名東区や天白区、日進市以外から通うのが少々手間である。加えて、日進市が特例で豊田西高校(豊田市)に志願できるので、日進市の10%erが豊田西高校に流出しているのも不利な要因だと言える。

名古屋地域では名古屋市に次いで人口の多い春日井市では、春日井高校(春日井市)に進学する10%erもいる。もっとも、瑞陵高校や千種高校を第1志望校にする受検者が第2志望校として春日井高校を選ぶケースが多い事実を鑑みると、春日井市在住の10%erの多くは名古屋市内に流出していることが伺える。

公立と私立の棲み分け

愛知県の公立高校入試では、公立高校を2校志願する受検者が大勢いる。合格難易度に適切な差をつけて2校志願すれば、よっぽどのことがない限りどちらかの公立高校には合格する。尾張学区の10%erに関して言うと、旭丘高校不合格者は菊里高校、菊里高校不合格者は名東高校、明和高校不合格者は瑞陵高校や千種高校、瑞陵高校不合格者は名古屋南高校(名古屋市南区)や松蔭高校(名古屋市中村区)……というように、第2志望校の公立高校に収まることが多い。公立進学校と併願先になる私立高校に入学するのは、第2志望校にも受からなかった人、ということになる。もちろん、公立高校を1校志願して不合格になった人や、私立高校が第1志望の人もいるが、他県に比べるとその割合は低い。制度上、高校入試というフィールドでは、私立高校が10%erを獲得するのは困難なのだ。

このため、愛知県の私立進学校は中学入試で将来の10%erを獲得することに注力している。愛知県の私立男子校で突出した大学合格実績(とくに国公立医学部医学科合格実績)を出している東海高校(名古屋市東区)は、生徒の約9割が中学受験を経て入学した東海中学出身の生徒であるし、私立女子校で突出した大学合格実績を出している南山高校女子部(名古屋市昭和区)に至っては、高校入試での募集がない完全中高一貫教育を採用している。江南市にある私立共学校の滝高校は、名古屋市から離れていて中学受験熱があまり高くない立地だからか、滝中学からの内部進学者は生徒の7割程度に抑えられている。

尾張学区内の私立男子中学校の中で、中学入試での合格難易度が最も高いのは東海中学校で、南山中学校男子部(名古屋市昭和区)と名古屋中学校(名古屋市東区)がこれに続く。南山中学校男子部と名古屋中学校の合格難易度はほぼ同等だが、例年、南山中学校男子部は東海中学校と同じ日に入試を行い、名古屋中学校は東海中学校よりも先に入試を行う。南山中学校男子部の受験者は第1志望が多く、定員プラス1割程度の合格者しか出さない。これに対して、名古屋中学校の受験者は東海中学校と併願していることが多く、東海中学校などの合格者が辞退することを見越して定員の3倍以上の合格者を出している。この違いを考慮すると、南山中学校男子部と名古屋中学校の入学者の学力分布には一定の差があると考えられる。結果として進学校Mapでは、南山高校男子部の全体と、名古屋高校の普通科Tクラスを進学校として選定した。名古屋高校の普通科Tクラスは、名古屋中学からの内部進学者のうち、高校1年進級時での学力上位者を選抜したクラスである(高校2年進級時に、高校からの入学者の学力上位者がTクラスに加わる)。

尾張学区内の私立女子中学校で、中学入試での合格難易度が最も高いのは南山中学校女子部で、愛知淑徳中学校(名古屋市千種区)がこれに続く。愛知淑徳中学校が先に入試を行うので、第1志望が南山中学校女子部の受験生が第2志望として愛知淑徳中学校を受けるケースが多い。愛知淑徳中学校も南山中学校女子部と同様に完全中高一貫教育を採用し、高校募集を実施していない。

尾張学区内の私立共学高校は、中高一貫教育を行っている場合でも高校からの入学者が多い傾向にあるが、近年変化の兆しが見られる。たとえば中部大学春日丘高校(春日井市)の普通科啓明コースは、中部大学春日丘中学校からの内部進学者と高校からの入学者の混合で、名古屋市内の公立進学校に迫る大学合格実績を出してきたが、2022年度入試から高校募集を停止して完全中高一貫のコースとなることが発表された。

最後に、愛知県の国立中学・高校について述べよう。愛知県の国立中学校は、愛知教育大学附属名古屋中学校、愛知教育大学附属岡崎中学校、名古屋大学教育学部附属中学校の3校があるが、愛知教育大学附属の2校は中高一貫校ではない。愛知教育大学附属高校もあるのだが、附属中学校卒業生の大多数は外部の高校(とくに公立進学校)に進学する。一方、名古屋大学教育学部附属中学校は併設型中高一貫校であり、名古屋大学教育学部附属高校の1学年定員120人中、約80人が附属中学校出身、約40人が外部の中学校出身となっている。名古屋大学教育学部附属高校はあくまで教育実験校であり、いわば“自称・非進学校”なのだが、大学合格実績は本稿で名前を挙げた進学校と遜色ない(なお、名古屋大学への内部進学制度はない)。名古屋大学教育学部附属中学校の入試(検査)がいかに私立中学入試と一線を画す内容とは言え、合格倍率が例年7~8倍に達し、抽選も行わないことから、合格者に将来の10%erが相当数含まれていると考えられる。ただし、高校入試での合格者には10%erがあまり含まれていないことから、名古屋大学教育学部附属高校は中高一貫生に相当する分のみを進学校に選定した。

愛知県(尾張学区)内高校の大学合格実績(2020年春)

愛知県尾張学区大学合格実績210906

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★は高校全体の実績を示していることを意味し、明和高校と名古屋市立菊里高校はそれぞれ音楽科(1学年定員40人)を含んだ実績、瑞陵高校は食物科(1学年定員40人)を含んだ実績、一宮高校はファッション創造科(1学年定員40人)を含んだ実績、名古屋高校は学校全体(1学年約480人)の実績である。名古屋大学教育学部附属高校は単年での大学合格実績を公表していないが、2020年春の国公立大学現役合格者数は学校全体(高校からの入学者を含んだ約120人)で56人、2018年春~2020年春の3ヵ年での旧帝一工合格者数は63人だった。

【2021/12/27追記】この記事を含む中部・関西地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


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