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朝森久弥流・ホンネの高校選び7「高校への通いやすさを考える」

誰でも自分に合った高校が選べる!

高校受験事情にやたら詳しい朝森久弥が、日本の高校受験を考えている中学生やその保護者の方に向けて高校選びの基本を語ります。

第6回では「職業学科と専門学科」について話をしました。

職業学科の特徴は高校卒業後すぐに(高校新卒で)その専門を活かした就職をする人が比較的多いことで、総合学科の特徴は普通科と職業学科をミックスしていることでした。どちらの場合も目当ての高校の進路状況を確認することで、高校の性格がイメージしやすいのでしたね。

さて、第5回の「普通科と普通科っぽい専門学科」と合わせて、高校にはどんな学科があるのかを解説してきたのですが、高校を選ぶうえで重要な判断基準をまだ話していませんでした。

それは、高校への通いやすさです。

どれだけ魅力的な高校であっても、通えなくては選びようがありません。ここでは、高校への通いやすさを考えるときに押さえておきたいポイントをいくつか紹介していきます。

なお、この記事では自宅から高校に通学する場合について扱います。

通学区域を限定している高校がある

高校は、入学を許可する生徒の住所の範囲を限定していることがあります。この範囲を通学区域または学区と言います。

公立高校はその高校がある自治体に住んでいる生徒しか入学できないことが多いです。具体的には、

  • 東京都立○○高等学校は東京都に住んでいる生徒しか入学できない

  • 広島県立○○高等学校は広島県に住んでいる生徒しか入学できない

のように決まっています。仮に都道府県境の近くに住んでいて「家から通いやすいのに…!」と思っても、原則として入学できません。これは、公立高校がそれぞれの自治体(都道府県、市町村など)で集めた税金を使って運営されているからです。
例外として、県境の近くに住んでいる人を対象に、県境をまたいで入学できる協定を結んでいる県がいくつかあります。

高校入学と同時に引っ越しすることが決まっている人は、引っ越し先の自治体の公立高校入試を受験することができます(逆に、引っ越し前の自治体では受験不可)。この場合は受験前に手続きが必要なので注意しましょう。

通学区域を、道府県内のさらに限られた地域に設定している場合もあります。たとえば福岡県久留米市にある福岡県立明善高等学校の普通科には、福岡県の久留米市(一部除く)、小郡市、大刀洗町に住んでいる人しか原則として入学できません。
ただし、明善高校には普通科だけでなく理数科があり、さらに普通科の中に総合文科コースがあります。明善高校の理数科は筑後地区(筑後市や大牟田市などを含んだ福岡県南部地域)に住んでいる人が入学でき、明善高校の普通科総合文科コースは福岡県内ならどこに住んでいても入学できます。このように、同じ高校でも学科やコースによって通学区域が違う場合があります
全国的に、普通科は通学区域が狭めに、普通科以外の学科やコースは通学区域が広めに設定される傾向があります。

私立高校には基本的に通学区域がありませんので、その高校がある都道府県外からでも通学できます。もっとも、現実的に通学可能かは別問題です。

通学時間はどれくらいがいい?

学研教育総合研究所の「高校生の日常生活・学習に関する調査」(2018年9月)によると、高校生の通学にかかる時間は片道で平均43.4分でした。分布を見ると、10分未満の人もいれば2時間以上の人もいて、個人差が大きいことがわかります。

私の考えはズバリ、「通学時間が短いに越したことはない」です。たまに「通学時間が長い人ほど学力が高い」という話を聞きますが、これは因果が逆で、学力が高い人ほど、家から近い高校に満足せず遠くの高校を選びがちだからでしょう。

通学時間の限度を考えるときに重要なのは、自習時間を確保できるかです。
目安として、【1】の普通科であれば、平日に1日3時間以上の自習時間を確保するべきです。高校入学直後からです。覚悟してください、それくらい時間をかけないと、そもそも宿題が終わりません。

私は高校の普通科を大学進学率で便宜上3種類に分類しており、卒業生のほぼ全員(約90%以上)が大学に進学する普通科のことを【1】の普通科とよんでいます。
【1】の普通科、【2】の普通科、【3】の普通科については、普通科について解説した私の過去の記事をご参照ください。

通学時間が長い場合、通学途中に自習時間の一部を割り当てるのもひとつの選択肢です。具体的には、通学中の電車内で英単語帳を読んで暗記するなどです。すし詰めの満員電車でなければ英単語帳を読むくらいならどうにかなりそうですが、ノートに書きこむ学習は難しいでしょう。また、本を読んで暗記だけすればいいわけではありませんから、やはり机に向かって学習する時間が自習時間の大半を占めるはずです。

たとえば、どちらも【1】の普通科であるA校・B校があって、
A校:いわゆる"県トップ校"。通学に片道2時間かかる
B校:いわゆる"地元の進学校"。通学に片道30分かかる
だとすれば、私はB校を勧めます。B校に行けば、A校に行くより1日3時間多く自習時間を確保できるからです。【1】の普通科どうしであれば高校で使う教材の難易度に大差はないので、自習時間を多く確保できる方が有利です。

一方「【1】の普通科と【2】の普通科」あるいは「普通科と職業学科」のように、比較する高校の学習内容が大きく異なる場合は、通学時間よりも好みの学習内容を優先したほうがよいと思います。結果として、実家を出てひとり暮らしや寮生活を選択する高校生も毎年多くいます。

通学にはお金がかかる

日本の公共交通機関は残念ながら有料ですし、高校生には会社員などのような通勤手当もありませんので、高校までの通学にかかる費用は原則として自己負担です。高校の通学定期は通勤定期に比べて安価に設定されていることが多いものの、月当たりで1万円を超える費用になることも珍しくありません。電車通学する場合でも、自宅または高校の最寄り駅まで距離がある場合は自転車が必要なので、自転車そのものにかかる費用や駐輪場代もかかります。
適当な公共交通機関がない田舎では、保護者の自家用車で送迎してもらって通学することもよくあります。費用は抑えられるかもしれませんが、保護者の仕事・家事の都合との折り合いをつけるのが大変でしょう。

捻出できる費用に限りがある場合、先に述べた通学時間だけでなく、通学費用がかかることも考慮に入れなければなりません。高校選びの時点で、ジョルダンなどの乗換案内サイトで通学定期代を検索してみましょう。

自治体によっては高校生の通学にかかる費用を補助してくれる制度があります。「○○市 高校生 通学定期 補助」などで検索して調べてみましょう。一例として、鳥取県の高校生通学費助成制度へのリンクを貼っておきます。

安価な通学手段があることで選べる高校の選択肢は増えますが、近年の日本では通学手段そのものが減ってしまうことがあります。具体的には、毎年のように日本のどこかで鉄道路線が廃線になっているのです。過去の実績から言って、存廃についての協議が始まった路線の廃線が取り止めになる可能性はほとんどありません。通学に使う予定の公共交通機関が、自分が卒業するまで存続するかどうかにも気を配っておくとよいでしょう。

私の知人は、隣の市にある公立進学校まで鉄道(私鉄)で通学していました。ところが高校入学直後、その鉄道路線の存廃についての協議が始まりました。廃線阻止運動が持ち上がるも、高校2年生の終わりにあえなく廃線。代替バスでの通学費用には鉄道の倍以上かかることから、4人きょうだいの長子だった知人は代替バスではなく、自転車で片道30分かけて通学することにしました。鉄道通学のときは熱心に英単語帳を読んでいた知人が「2年までに英単語はだいたい覚えたから」とうそぶいていたのが印象的でした。
それから10年が経ち、第二志望の大学に進学していた知人は、大学卒業後、東京の出版社で働いていました。久しぶりに会った知人はこう言ったのです。
「あの時、田舎暮らしのみじめさを思い知った。鉄道がない地域の人が、都会に出たくなる本を作るんだ」

登校時刻・下校時刻にも注意

高校への通いやすさは、通学時間だけではなく、高校の登校時刻・下校時刻も影響します。

登校時刻は全日制の場合8時20分前後の高校が多いですが、部活動の朝練や0時間目(九州では朝課外とよばれる)があると、7時30分ごろには高校に着いていなければならない場合があります。
登校時刻を考える時は、高校の入口に着いてから自分の教室の席に座るまでの時間も計算に入れることを忘れないでください。

登校時刻と通学時間がわかると、朝のスケジュールが固まってきます。
たとえば登校時刻が8時20分、通学時間が50分だとすると、家を遅くとも7時30分には出なければいけません。身支度や朝食の時間を40分とすれば、起床時刻は6時50分になりますね。
ここで見落としやすいのは、昼食の準備です。高校では給食がないことが多いです。学食や購買など高校内で調達するのでなければ、お弁当を家から持っていくことになります。このお弁当をいつ誰が作るのか。保護者の方が子どもより早起きしてお弁当を作っている話をよく聞きます。もし作ってもらえるのであれば、感謝の気持ちを忘れないでください。

電車通学の場合、始発電車に乗っても間に合わないとなれば、その高校に家から通学することはできません。高校によってはスクールバスを整備していたり、登校時刻を遅らせたりして遠くからでも通いやすくしている場合がありますので、そうした高校を調べてみるのもよいでしょう。

下校時刻は、入る部活動によって大きく変わります。活発な部活動であれば下校時刻が19時なんてこともあるでしょう。それから帰宅して夕食などを済ませたうえで、自習時間が確保できるかを考える必要があります。部活動を選ぶ前に、下校時刻が何時までなら問題なく高校生活を送れるのかをシミュレーションしておきましょう。
また、高校入学前に塾や予備校のことを考えるのは難しいかもしれませんが、通学路の途中に塾や予備校があると便利なのは確かです。実際、【1】の普通科の近所には塾や予備校が建っていることが多いですね。

一般的に、塾や予備校に通う目的では、電車の通学定期券は買えません(一部例外あり)。大人が使う通勤定期券を買う手もありますが、週5で通わないと元が取れません。結果として、高校の通学定期券だけで通える範囲内で塾や予備校を探す人が多いです。

放課後に友達と繁華街で遊んだり、カフェやファミレスでおしゃべりしたりする生活にあこがれる人もいるでしょう。こうした生活を実現するには、
家―繁華街―高校
のように、通学路の途中(通学定期券の範囲内)に繁華街を入れることがポイントです。繁華街の中に高校があればベストですが、そういう高校はあまり多くありません。
私が高校生のときは、
家―高校―繁華街
という位置関係だったので、繁華街に行きづらかったのが残念でした。
もし繁華街に行きやすい高校を選びたい場合は、「繁華街に行きやすい」以外の理由を準備しておきましょう。そうでないと、保護者の方を説得するのは難しいですからね!

想像力を働かせよう

「高校への通いやすさ」ひとつとっても、これだけ多くのことを考える必要があります。だったらいっそのこと家の近くでいいや、と考える人もいるかもしれません。実際それが一番楽ですからね。

一方、高校にどうやって通学するかを想像すると、高校選びが楽しくなります。朝何時に起きて…何時の電車に乗って…放課後はどこに立ち寄って…そうしたことを考えるうちに、高校生活に対するイメージがより強く浮かび上がってくるのです。それ自体が学びにもなり、大人に向けて成長する第一歩になるのだと私は思います。

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