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朝森久弥流・ホンネの高校選び5「普通科と普通科っぽい専門学科」

誰でも自分に合った高校が選べる!

高校受験事情に異常に詳しい朝森久弥が、日本の高校受験を考えている中学生やその保護者の方に向けて高校選びの基本を語ります。

第4回では「高校での学習スタイル」について話をしました。

高校の学習スタイルを表す言葉には「全日制・定時制・通信制」や「学年制・単位制」がありますが、これらはあくまで目安であって、高校によって実態はさまざまなのでしたね。

高校で学ぶ内容の違いで分けたクラスである学科も、その実態は高校によってさまざまです。第5回では、高校生の多くが選ぶ普通科と、普通科っぽい専門学科の正直なところを話していきます。

普通科はみんな大学を目指す?

よく「普通科は大学進学を目指すための学科」のように言われることがありますが、必ずしもそうではありません。普通科にもいろいろあるからです。

令和5年度学校基本調査によると、2023年3月に普通科を卒業した人の大学・短大等進学率は70.3%でした。商業科や工業科などに比べると高いものの、誰もが大学に進学するという感じではありませんね。
同じ普通科でも、高校またはコースによって大学進学率には差があります。そして、普通科の性質は卒業生の大学進学率によってある程度決まります。

私はふだん、普通科を以下の3種類に分類しています。
【1】卒業生のほぼ全員(90%以上)が大学に進学する普通科
【2】卒業生の70%前後が大学に進学する普通科
【3】卒業生の半分くらいか、もっと少ない数が大学に進学する普通科

多くの場合、生徒の平均的な学力は【1】、【2】、【3】の順になります。

正確な統計はありませんが、日本全国の高校を調べた私の肌感覚からすると、【1】と【2】と【3】の普通科はそれぞれ約3分の1ずつ存在します(地域によって割合にはバラツキがあります)。【1】と【2】の間に属する普通科や、【2】と【3】の間に属する普通科ももちろんあります。

【3】は生徒数が少ない高校が多いことを鑑みれば、生徒数ベースだと【1】:【2】:【3】=4:4:2くらいだと推定します。
なお、卒業生の3~5割くらいが浪人する高校も存在しますが、浪人後に大多数が大学に進学する場合は【1】に分類します。

【1】の普通科

【1】の普通科の先生は、卒業生が全員大学に進学する前提で指導を行います。志望進路が大学以外の生徒は学校からのサポートはあまり望めませんし、肩身が狭い思いをするでしょう。

【1】の普通科はさらに2種類に分類できます。

1つ目は“進学校”です。ここで言う“進学校”はあくまで「生徒のほぼ全員が大学進学を目指している」という意味合いしかなく、実際にどんな大学に進学しているかは問いません。
“進学校”では一般選抜で、つまり大学入学共通テストや大学ごとの個別学力検査を中心にした大学受験をする人が多いです。高校の授業は一般選抜の大学入試に照準を合わせ、「松」の教科書を使っていることが多いです。
教科書の「松・竹・梅」については、以下の記事をご覧ください。

2つ目は“大学附属校”です。卒業生の大多数が系列の大学に進学できることを売りにしている高校のことです。大学附属校であっても系列以外の大学に進学する人が多い高校やコースは“進学校”に分類します。
“大学附属校”では、高校での成績によって系列の大学に進学できるかどうか、あるいはどの学部・学科に進学できるのかが決まるのが一般的です。このため、高校での成績には関心が集まりますが、系列以外の大学への入試対策には、“進学校”に比べると関心が薄くなりがちです。

【2】の普通科

【2】の普通科の先生は、生徒がみな大学に進学できるように指導を行いますが、大学以外の進路を志望する生徒がいることも理解しています。一方、いわゆる難関大学に進学する卒業生はごくわずか(たとえば10%以下)だろうとも認識しています。

「竹」の教科書を使っていることが多いです。一般選抜で大学受験をする人もいますが、学校推薦型選抜や総合型選抜といった高校での成績が重視される大学受験をする人が目立ちます。
指定校推薦に関心が高い生徒が多いのも特徴的です。指定校推薦を狙う場合は気を付けたいことがいろいろあるので、以下の記事をご覧ください。

【3】の普通科

【3】の普通科の先生は、生徒が卒業後に大学に進学することを前提とせずに指導します。このため、進路指導はまず「進学するか就職するか」「進学するなら大学・短大・専門学校…のどれに進学するか」を考えさせるところから始まります。

2年生や3年生に進級するときに、進学志望と就職志望でクラスを分けたり、大学進学志望者だけ別のクラスにしたりすることがよくあります。結果として、卒業生の進路は大学・短大・専門学校・就職など多様になるので、こうした高校を“進路多様校”と呼ぶことがあります。
どのクラスに分かれるかにもよりますが、「梅」の教科書を使っていることが多いです。

高校3年生での雰囲気が違う

どの普通科であろうと(普通科でない学科だとしても)、どんな大学を受験してもいいし、どんな進路を選んでもいいのですが、高校内の雰囲気は確実に変わってきます。とくに高校3年生での違いは大きいです。

大学入試で一般選抜を受験する場合、試験は1~3月ですから、高校3年生のほとんど全期間で大学入試のことを第一に考えて生活する必要があります。一方、学校推薦型選抜や総合型選抜は年内、つまり12月までに合格が出ることが多いです。ちなみに、短大や専門学校も学校推薦型選抜や総合型選抜が主流ですし、高卒での就職は秋に内定がでることが一般的です。

つまり【2】や【3】の普通科では、高校3年生の12月までに進路が決まっている生徒が多くなります。【1】の普通科のうち“大学附属校”でも同様です。1~3月が受験シーズンと言えるのは、【1】の普通科のうち“進学校”くらいしかないのです。

高校を選ぶ時点で想像するのは難しいと思いますが、選ぶ高校によって高校3年生での雰囲気が変わってくる、ということは頭の片隅に入れておくとよいでしょう。

文系クラスと理系クラス

第3回でも話しましたが、多くの普通科では、2年生や3年生に進級するときに文系コースと理系コースに分かれます。文系コースでは国語や社会を多めに学び、理系コースでは数学や理科を多めに学びます。これは、大学入試で文系とされる大学(学部)を選ぶと英語・国語・社会の試験が課されることが多く、理系とされる大学(学部)を選ぶと英語・数学・理科の試験が課されることが多いからです。

普通科を選ぶのであれば、文系コースと理系コースのどちらを選ぶのかは高校に入学してから考えても遅くありませんが、たまに片方しか選べない高校があるので注意しましょう。とくに【3】の普通科では理系コースが手薄、具体的には「数学Ⅲ」の授業がないことが割とあり、理学部や工学部への進学が難しくなることがあります。

いろいろありすぎる普通科のコース

普通科をいくつかのコースに分けている高校があります。入学する生徒の学力が幅広かったり学習内容がバラバラだったりするときに、コースがよく活用されます。

学力によるコース分け

たとえば「特別進学コース」や「アドバンスコース」といったコースを作り、その高校の中で学力が高い生徒を集めることがあります。単純に学力別にコースを分けている高校もあれば、コースによって授業の時間数や内容そのものが違う高校もあります。
2年生や3年生に進級するときにコースを変更できる高校もありますが、実際にはなかなか難しいでしょう。たとえば、ある高校の「特別進学コース」では、1年生での数学の授業が他のコースよりも1時間多く、その分授業が先に進んでいます。2年生で他のコースから「特別進学コース」に変更するには、この差を自分で埋めなくてはなりません。

高校によって生徒の学力分布はまちまちなので、どのコースも【1】の普通科だけれどもその中でコースを分けている所もあれば、「特別進学コース」を【1】の普通科相当、「進学コース」を【2】の普通科相当、「総合コース」を【3】の普通科相当のように分けているところもあります。
とくに私立高校では、学力が高い生徒が集まるコースは学費負担額が安くなるなど、高校での待遇が良くなることが多いです。しかし、次のような話もよくあるので、高校選びの時点できちんと確かめておきましょう。

事例1:「特別進学コース」の生徒は指定校推薦が利用できない
「特別進学コース」の生徒には、一般選抜でいわゆる難関大学に多数合格してもらい、それを次年度以降のアピール材料に使わせてほしいという高校の思惑があります(※一般選抜であれば、ひとりで複数の大学に合格することもできます)。一般選抜以外で早めに進路が決まった生徒がクラスにいると他の生徒の集中が削がれるという理由もあります。

事例2:「特別進学コース」の生徒は部活動への参加が制限される
「特別進学コース」は同じ高校の他のコースに比べて授業や補習が多く、部活動との両立が難しい側面があります。こうした「特別進学コース」に入学するのは、“勉強部”という部活動に入部するのに近いかもしれませんね。

学習内容によるコース分け

「普通科理数コース」「普通科音楽コース」のように、普通科だけれども専門学科の要素を併せ持ったコースもあります。こうしたコースの意図は大きく2つあります。

ひとつは、事実上の「特別進学コース」を設置することです。とくに公立高校は学力別のコース分けを嫌う傾向があります。一方「理数コース」や「英語コース」のように学習内容でコース分けをした結果、理科や数学、英語に関心の高い生徒が集まり、そうした生徒は学力が高い傾向があるので、結果として「特別進学コース」みたい雰囲気になった…というのがよくあるパターンです。気づけばそうなったではなく、初めからそれを意図していることがほとんどですが。
全国すべての「理数コース」や「英語コース」がこのようになっているとは限らないので、詳しくはその高校の人や、私に聞いてください。

もうひとつは、柔軟に授業科目を設定できるようにすることです。専門学科は一定数以上の専門教科を学ばせなければならないことが学習指導要領で決まっているので、「専門教科を教えたいんだけど、そこまでたくさんは要らないかな~」という場合に、専門学科ではなくコースが採用されることがあります。たとえば、音楽大学の受験では音楽実技だけでなく普通教科の学力が重視される場合があるので、「音楽科」ではなく「普通科音楽コース」として、音楽の授業はそこそこに普通教科の授業を増やすといった策が採られるのです。これも、すべての高校に当てはまるわけではないことに注意してください。

普通科っぽい専門学科って何?

私は、以下のような学科を「普通科っぽい専門学科」と呼んでいます。

  • 理数科

  • 英語科

  • 家政科

  • 情報科

  • 体育科

  • 音楽科

  • 美術科

  • 文理学科

  • 探求科学科

商業科や工業科、農業科なども専門学科なのですが、何かちょっと毛色が違う感じがしませんか?
専門学科には、特定の職業に直結する技能を身に付ける教科を学ぶ学科と、普通教科、つまり普通科でも学ぶ教科をさらに発展させた教科を学ぶ学科があります。商業科や工業科、農業科などは前者で、理数科や英語科、音楽科などは後者です。商業科や工業科、農業科などは卒業後すぐに就職する人が多いので職業学科とよぶこともありますね。一方、普通科っぽい専門学科では、卒業後は普通科並みかそれ以上に大学などに進学する人が多いのです。

理数科や英語科は、事実上の「普通科特別進学コース」になっていることがよくあります。山梨県や三重県、島根県ではこの傾向が強いですが、千葉県や岐阜県西部ではそうでもなく、地域差があることに注意しましょう。
なお、理数科が事実上の「普通科特別進学コース」になっている高校の中には、文系とされる大学(学部)に進学したくなった生徒のために、2年生や3年生で国語や社会の授業を多めに学ぶことができる場合があります。それでも1年生では理科や数学の授業が多いはずなので、その点は覚悟をして理数科を選びましょう。

家政科や情報科は文部科学省の分類だと職業学科なのですが、私は職業学科とは言えないと考えています。高卒求人が多くある工業科などとは異なり、家庭・情報の専門性を活かした求人は、大学や短大、専門学校などに進学しないと多くないからです。実際、栄養士や保育士といった資格は高校の家政科では取れません。

さらに言うと、家政科以外の学科(たとえば普通科)からでも、大学や短大、専門学校に進学することで栄養士や保育士を目指せます。とくに、管理栄養士を目指す場合は大学で化学や生物を学ぶ必要があるので、普通科の理系コースを選んだ方が有利になることが多いです。

体育科や音楽科、美術科も、専門性を活かした仕事に就くには大学進学がベターです。実技がものを言うの普通科とは違う点かもしれませんが、大学に進学し、そして卒業するには、実技しかやらなくていいというわけにはいきません。

そして、最近出てきた文理学科(大阪府)や探究科学科(富山県)。探究科(山形県・福井県)や文理探究科(山口県)というところもありますね。これらは全部、事実上の「普通科特別進学コース」と考えて構いません。もっとも"探究"が付いているところは、探究的な学習の時間や課題研究を充実させているところもあります。「公立高校は学力別のコース分けを嫌う」傾向に則り、あくまで学習内容で分けているわけです。

まず進路状況を見よう

「普通科にもいろいろあるし、コースもあれば、普通科っぽい専門学科もある。結局、何を見ればいいのか分からないよ~!」
という声が聞こえてきそうです。
私がおすすめするのは、まずその高校の進路状況を見ることです。

「合格実績」ではありません。「進路状況」です。

大学合格実績は、1人で何校も合格しているケースがあります。何校合格しても、進学できる大学は1校だけです。たとえば、ある高校から大学に100人合格したからと言って、大学に100人進学しているとは限らないのです。

合格した大学ではなく進学した大学を公表している高校は少ないですが、大学・短大・専門学校などにそれぞれ何人ずつが進学したのか、何人が就職したのか、何人が浪人したのかは、大抵の高校が公表しています。もし高校の公式サイトやパンフレットに載っていなければ、高校に問い合わせても構いません。コースや学科が分かれている高校は、それぞれの進路状況を見るべきです。進路状況は年によって多少のバラツキがあるので、できれば直近3年分は調べるとよいでしょう。

学科やコースの名前が違っていても、進路状況が似通っていれば、「似たような学力・志望進路の生徒が集まるのだな」と理解できます。その上で、他の要素も鑑みて志望校を検討することをおすすめします。

念のため補足すると、進路状況は多少の差を気にしすぎないようにしましょう。大学進学率が70%と75%の高校では進路状況に違いがあるとは言えません。また、進路状況は地域によって大きな差があるので、基本的には同じ地域どうしで比較するのが良いでしょう。

次回は、今回扱わなかった職業学科(商業科や工業科、農業科など)と、総合学科についてお話ししようと思います。

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