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千葉県の進学校Mapその2(北西部)

※この記事は、『千葉県の進学校Mapその1(北東部・南部)』の続きです。

Map(北西部)

※地図は『MANDARA』で作成。
※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

※北東部・南部の進学校Mapは「千葉県の進学校Mapその1」の記事に掲載。

公立:学区はおろか県境さえ超える

千葉県北西部の中学校卒業者数(2017年3月。以下同様)は約36000人を数える。これほどの規模で、仮に10%erがみな公立高校を選ぶなら、進学校Mapにおける進学校を公立高校から12校ほど選定する計算になる。しかし、県内の私立高校、さらには県外の高校を選ぶ10%erがかなりいるので、実際に進学校に選定した公立高校はもっと少ない。

千葉県北西部で最初に名前が挙がる公立進学校は、第1学区の千葉市中央区にある千葉県立千葉高校である。千葉県の公立高校の中で最も合格難易度が高く、大学合格実績の見栄えも最も良いので、第1学区はもちろん、隣接学区(第2学区・第4学区・第6学区・第7学区)学力最優秀層がこの高校に集まる。とは言え、近隣に私立進学校が台頭している環境では、こうした立場は盤石ではない。千葉県立千葉高校は2008年に附属中学校を開校し、中高一貫教育を始めた。“県下トップの公立進学校”が中高一貫教育を行うのは、全国的にはとても珍しい。多くの県ではそこまでしなくても、自然に学力上位の生徒が集まってくるからだ。裏を返せば、千葉県立千葉高校は学力上位の生徒を集めることにそれだけの危機感を抱いていることが分かる。

第1学区の公立高校で、千葉県立千葉高校の次に合格難易度が高いのは、千葉市稲毛区にある千葉東高校だ。千葉県立千葉高校と同様、千葉東高校も隣接学区からの進学が多い進学校で、学区内(=千葉市内)からの進学は5割程度に過ぎない。第1学区の中ではいわゆる“公立2番手校”だが、合格難易度で言えば県内他学区の“公立トップ校”に相当する。千葉県立千葉高校や千葉東高校が隣接学区からも生徒を集めるのに対し、千葉市立千葉高校(千葉市稲毛区)は千葉市立ゆえに、普通科は千葉市外の生徒は原則入学できない(理数科はOK)。その分、10%erを集める力が弱くなるわけだが、県立千葉高校や千葉東高校の合格難易度の高さを考えると、千葉市内の10%erにとっては、千葉市立千葉高校普通科の学区が千葉市内に限定されているのはありがたいことではないだろうか。

JR稲毛海岸駅を最寄り駅とする千葉市立稲毛高校(千葉市美浜区)は、高校入試の合格難易度では千葉市立千葉高校の次に位置している。一方、2007年に附属中学校を開校し、千葉県で最も早く公立中高一貫校となったことから、中学入試で一定数の10%erを集めることに成功した。このことを鑑みて、進学校Mapでは千葉市立稲毛高校のうち中高一貫の定員を進学校に選定した。なお、千葉市立稲毛高校の中高一貫の定員は80人、高校からの定員は240人だった(2020年時点)が、2025年度から高校入試を停止し、2027年度以降は生徒全員が中高一貫教育を受ける千葉市立稲毛国際中等教育学校として生まれ変わる予定である。

第2学区の公立高校の中で最も合格難易度が高いのは、千葉県立船橋高校(船橋市)である。千葉県立千葉高校と比べて大学合格実績の見栄えでリードしているとは言えないが、人口密集地である第2学区のいわゆる“公立トップ校”として大量の10%erを集めている。第2学区のいわゆる“公立2番手校”は、船橋市にある薬園台高校だ。薬園台高校は普通科と園芸科が併設されていることで知られるが、進学校Mapでは普通科を進学校に選定した。

第3学区のいわゆる“公立トップ校”は、柏市にある東葛飾高校だ。第3学区は第1学区と隣接していないので、高校入試で千葉県立千葉高校などに生徒が流出することはない一方、つくばエクスプレスやJR常磐線で、県外への流出が激しい地域である。これに対抗してか、2016年に東葛飾高校の附属中である東葛飾中学校が開校され、併設型中高一貫教育が始まった。

第3学区の公立高校で東葛飾高校の次に合格難易度が高いのは、柏市にある千葉県立柏高校である。ただ、東葛飾高校が柏駅(JR・東武鉄道)の徒歩圏内にあるのに対し、千葉県立柏高校はJR北柏駅から2km以上離れていて、アクセスが良いとは言えない。このため、第3学区の住民は、第2学区の松戸市にある小金高校にもよく進学する。小金高校は松戸市の北端に位置し、JRやつくばエクスプレス、流鉄流山線で通いやすいので、第2学区と第3学区の両方から生徒を集めやすいのだ。

なお、千葉県は埼玉県・茨城県と隣接県協定を締結しているため(東京都とは締結していない)、県境地域では県境を超えて公立高校に通学する生徒が珍しくない。たとえば、埼玉県三郷市や茨城県取手市から東葛飾高校に通学する生徒がいる。実際、三郷市から埼玉県立浦和高校、取手市から茨城県立土浦第一高校に通うよりは、いずれも東葛飾高校の方が通いやすいはずだ。一方、千葉県野田市から埼玉県の春日部高校に通学する生徒もいる。野田市の多くの地域からは、柏市よりも埼玉県春日部市の方が近いからである。

私立:首都圏の共学進学校のメッカ

首都圏の私立進学校は歴史的な経緯で別学(男子校・女子校)が多いのに対し、千葉県の私立進学校はすべて共学である。このため、首都圏の10%erのうち共学志向の生徒が千葉県外から積極的に千葉県の私立進学校に進学している。

1983年に開校した渋谷教育学園幕張高校(千葉市美浜区)は、現在、首都圏全体の共学私立高校の中で最も大学合格実績の見栄えが良い高校となっている。JR京葉線・総武線と京成千葉線が利用できることが奏功し、県外から通学する生徒(附属の中学校も含む)が3割強を占めている。また、渋谷教育学園幕張高校の隣には、昭和学院秀英高校(千葉市美浜区)という共学の私立高校がある。昭和学院秀英高校は渋谷教育学園幕張高校と同じ1983年に開校し、幕張新都心に並び立つ進学校として共に歴史を刻んできた。

市川市にある私立の市川高校はもともと男子校だったが、2003年に共学化した。幕張新都心よりもさらに東京都に近く、県外から多くの生徒を集める進学校である。習志野市にある私立で共学の東邦大学付属東邦高校も、京成本線を使えば県外からも通学しやすい。東邦大付属東邦高校はその名の通り東邦大学の付属校で、東邦大学医学部の推薦枠がある。

この項でここまでに挙げた私立4校は、いずれも高校入試よりも中学入試で多くの生徒を集めている。東邦大学付属東邦高校に至っては、2017年から高校入試を停止した(帰国生向けの編入学試験のみ継続)。千葉県で高校入試を受ける10%erは、公立進学校志向が強い。そこで、千葉県内の私立高校が高校入試で多くの10%erを集めるためには、県内の公立進学校の受検生に併願してもらい、公立進学校を不合格になった際には入学してもらう必要がある。

千葉県北西部の私立高校で、公立進学校の受検生によく併願されている高校には、専修大学松戸高校(松戸市)、日本大学習志野高校(習志野市)、芝浦工業大学柏高校(柏市)、八千代松陰高校(八千代市)があり、いずれも共学である。この4校のうち、比較的に安全に併願できるのは八千代松陰高校だろう。八千代松陰高校は、いわゆる“入試相談”を設けているからだ。“入試相談”とは、高校受験生の内申点などが高校が定める一定の基準に達しているかを、志願前に中学校の教員が高校に確認する作業のことである。“入試相談”をクリアすれば、中学校の三者面談で中学校の教員から受験生に「受験してもOK」と伝えられ、実際に受験すればほぼ100%合格する。要するに、内申点だけでほぼ合格が決まるのだ。同様の仕組みは全国で普遍的に採用されていて、多くの私立高校で実質倍率が1.0倍に限りなく近いのはこれが要因である。一方、専修大学松戸高校や芝浦工業大学柏高校、日本大学習志野高校は“入試相談”を採用していないので、一般入試の合否は当日の試験の点数に大きく左右されるし、不合格者も多く出る。

2020年時点では、専修大学松戸高校や芝浦工業大学柏高校、日本大学習志野高校のいずれかに一般入試で合格できるかどうかが、千葉県北西部の公立進学校に合格できるかどうかの目安となっている(千葉県立千葉高校に限っては、これだけで安心とは言えない)。もっとも、芝浦工業大学柏高校の学力上位クラスである普通科グローバル・サイエンスクラスは、東葛飾高校合格者であっても不合格が珍しくないほど合格難易度が高いので、このクラスを進学校Mapにおける進学校に選定した。

なお、千葉県に住む10%erが選ぶ私立進学校としては、江戸川学園取手高校(茨城県取手市)も有力である。実際、江戸川学園取手高校の生徒の過半数は千葉県在住であり、とくに第3学区からの通学が多い。

千葉県(北西部)内高校の大学合格実績(2020年春)

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★は高校全体の実績を示していることを意味し、千葉市立稲毛高校は高校からの入学者(定員240人)を、薬園台高校は園芸科(定員40人)を含んだ実績である。また、芝浦工業大学柏高校(1学年約300人)、専修大学松戸高校(2020年春卒業者数428人)、八千代松陰高校(2020年春卒業者数626人)は学校全体の実績である。

【2022/12/30追記】この記事を含む北海道・東北・関東地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


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