それでも僕ら生きなきゃならない
自己紹介をしよう。私はとある小規模企業で働くプログラマーだ。正確には「だった」だが。
私の会社は建前上はシステム会社だ。しかし実態はそうではなかった。
IT関連の業種で働いている人は聞いたことがあるであろう。そう、SESといういわゆる人売り派遣会社だ。SESには賛否両論あるだろう。ネットでSESについて検索しても「SESで働くメリット」なんて記事も出てくるぐらいだ。
端的に言えばSESというビジネスモデルは私には合っていなかった。
入社当初は順調だった。別業種(営業職)から一応未経験として中途入社した私は、最初の1ヶ月は本を渡されて放置という『研修』で自社で好きにプログラミングをしていた。一人で黙々と作業をすることが好きだった私は「これで給料が貰えるなんてなんて最高の環境なんだ!」と毎日笑顔で過ごしていた。まぁこの時点で色々突っ込み所はあるのだが。営業職だった頃のことについては気が向いたときにでも記事にしようと思う。
研修という名の放置が終わり、入社2ヶ月目頃から自社委託案件で起きている炎上の消火作業を手伝い始めた。独学ではあったが知識だけはあった私は特に不満もなく、「未経験なのにすごい」「助かったよ、ありがとう」などという言葉で内心鼻を高くしながら順調に業務に当たっていた。
入社4ヶ月目、ここで転機が訪れる。
前述の通り私の雇われている会社はSESを主に行っている名ばかりシステム会社だ。そう。ついに来たのだ。
自社の社員が派遣先で精神を壊し、業務不能となったため急遽代役が必要となった。そこに私が宛がわれたのだ。派遣前の面接に書かれていた私のスキルシートにはなんと実務経験2年半という文字が並んでいた(後から知ったが派遣前に面接を行うことは違法らしい)
違和感は抱いたが、「まぁそんなもんなんだろう」と私は流されるままに派遣先へ常駐することになった。
派遣先は一言で言えば私にとって地獄だった。ちょっとした物音ですぐに注意がそれてしまう私は、真後ろに座る事務員さんの電話での話し声が気になってたまらなかった。そして一人派遣であるが故、周りの人間は全てお客様だ。常に気を張っていた。ゴミの捨て方、トイレの使い方、始業時間の40分前には出勤していること、など、私からすれば訳の分からない規則に気を使っていた。
派遣先の労働者はほとんどが私と2周り以上離れた男性ばかりだった。もともとIT関連で働く人間は男性が多い。その点についてはどうしようもないことではあったが、ストーカーまがいのことをされたり、遠回しにセクハラ発言をしてくる人間もいた。
それでも私はプログラミングができるなら、いいプロダクトを作り上げユーザーに喜んでもらえるなら、その思いだけで頑張り続けた。文字通り頑張り続けた。
しかしそれすらも崩れていった。仕事を早く終わらせる度に雑用を押し付けられ、関係ない炎上案件の消火を任された。おじさん達が偉そうにデスクに座っている横で一生懸命掃除機をかけていたこともあった。
そんな毎日を繰り返していくうちに私の精神は崩壊していった。
何故私はここで働いているのだろう。何故私はプログラマーとして派遣されたはずなのに雑用係になっているのだろう。そもそも何故私は生きているのだろう。こんなはずじゃなかったはずだ。でもどうしたらいい?
そんな自問自答を繰り返す毎日が始まった。出勤前、靴を履くと必ず吐き気に襲われるようになった。嘔吐で遅刻したこともあった。出社すると必ず下痢をするようになった。それでも耐え続けた。何故耐えてしまったのかはわからない。もうあの時は何も考えられない状態だったのだ。実際に当時の記憶は酷く曖昧だ。家に帰ってからもずっと涙が流れ続けて廃人状態だったことだけは覚えている。
そして最終的に私は発狂した。
出社前に大声で喚き散らし手当たり次第に近くにあったものを投げ飛ばし、うずくまり、号泣した。もう出社は不可能だった。その日のうちに精神病院を受診し、鬱病との診断を受け、会社は休むようにとの言葉をいただき診断書を書いてもらった。そして会社を休職した。私が離脱した後現場でどんなことが起きたのかは想像したくもない。ただ、派遣先の方は「こちらの責任ではない」という見解だったそうだ。もうどうでもよいことだが。
処方された薬が合っていたのか、私は徐々に廃人状態から抜け出していった。それでもまだ寛解(鬱病は完治ではなく寛解と呼ぶ)には至っておらず、何もしていない時間があると罪悪感で凄まじい希死念慮に襲われる。
ゲームをしたり、音楽を聴いたり、映画を見たり、YouTubeを見たり、好きなことをひたすらし続けることが今の私にとっての延命治療なのだ。こうして文章を書きだしたのもその一つだ。もともと本が好きだった。拙い文章だがこうして何かを書くことで希死念慮から遠ざかることができる。
ためになる記事とか他人を感動させる記事とかそんなことは今は考えられない。ただただ延命治療を続けるんだ。
だって、それでも僕らは生きなきゃならないから。
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