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元夫と行く湯治旅2022 14日目 肘折温泉(山形県大蔵村)

こんなに体にいいと言われる温泉。温泉の効能はいろいろ言われており、中にはがん治療で真剣に温泉療法をする人もいるくらいだ。そんなら温泉地に住む人はみんな病気知らずなのかと言うと、ぜんぜんそんなことはなく、そもそも温泉地の人たちだってみんな働いており、普通に朝起きて仕事して風呂に入るのは夜なのだ。

そりゃ朝も入るかも知れん。普通の家庭に温泉が引いてある家は沢山ある。家の風呂が温泉、という贅沢な暮らしを享受している人たちも多い。しかし、私たちみたいに温泉に入ってから30分寝転がって休み、温泉成分を体に染みこませる。なんてことができるのはせいぜい夜だけだし、そもそも普通に風呂と思っているのであれば髪や体も洗ってドライヤーとかかけたりするだろう。一般の家庭となんら変わらないと思う。

そう考えると、湯治をするのは温泉地の人たちではなく温泉地へやってくる人たちだ。さて、今回の旅でさんざん「湯治とうじ」と言っているが私だって湯治を知ったのは数年前だ。そりゃ名前くらいは知っていたが実態は知らなかった。おじいさんやおばあさんが長期間滞在して温泉に浸かる。程度の知識しかなかった。

あるとき、武司が誰かと青森の酸ヶ湯温泉の話をしていた。その中で「自炊部」「旅館部」と言っているのを耳にする。なんだその「部」って。部活かなんかか?

どうやら湯治をする人たちは旅館に泊まりながら自炊をすると言うのだ。そんなことして旅館は困らないのだろうか。旅館とは料理を出してナンボの商売だし、勝手に自炊されたら商売にならないだろう。持込などたまったものではない。しかし聞いて行くと、どうも(特に東北においては)一部の温泉旅館には通常の食事を出す旅館部と自炊がオッケーな自炊部の2種類があり、自炊をする人は旅館の人とは別のちょっと質素なエリアで寝起きをするらしい。例えば自炊棟なるものが存在し、そこでは宿泊客は一定期間寝泊まりしながら自分たちで持ってきたものを調理し、自分のご飯を作る用の台所も整備されているというのだ。作った料理は部屋へ持ち込んで食べる。質素なだけあって宿泊費もお値打ちな設定だ。

なんだって!それじゃあまるでキャンプじゃないか。いや、テントじゃないけど、ちゃんとした建物ってことなら、おおむねバンガローだし、そうなるとまあおおむねキャンプではないか。

私は地元スーパーや道の駅が大好きで、そこには魅力的な地元食材というのがある。私の地元にはない食材、新鮮で激安の喉から手が出るほど買いたい食材。けれど、生の魚や肉、生野菜は旅の途中では持って帰れない。いつも泣く泣くあきらめて、ビン物や乾物、調理済みのパックものしか買えない。

しかしだな、自炊ができる、ってことなら買えるわけだ。すじこも、生のセリもだ。そんないい方法があったなんて、どうして今まで誰も教えてくれなかったのだろう。ああ!地元食材を使って自炊しながら温泉に入れるなんて、しかも、宿だから掃除はしなくていいしご飯だけ作ってればええんやろ。しかも日に3回も4回も温泉に入れる。wifiはだいたいどこでもあるから仕事だってできる。

控えめに言ってこれは天国ではなかろうか。

しかし、ここで誰もが通る問題が発生する。

まとまった休みが取れない。

まあ最終この問題にブチ当たって自炊湯治が実現できず、雲散霧消することがほとんどだろう。平均的日本人の旅行日数。検索などしなくても分かる。答えは1泊2日。冷静に考えて1泊や2泊で自炊と言うのは現実的ではない。買い物や自炊している時間があればどこか景勝地を回ったほうがいいし、自炊前提の荷造りは荷物が増える。宿の料理を食べたほうがうんと楽だ。旅に出たのになぜわざわざ自分で料理をする?骨休めじゃないのか?自炊湯治とはまったく絵に描いた餅で実現などほぼ不可能だ。

実はこの自炊湯治というのは農家の人たちの農閑期である冬に行われることで定着していった。近年まで日本人のほとんどが第一次産業に従事し、農民や漁民であったわけだから、そういった人たちが仕事のない時期に大手を振って自炊湯治へ出かけることができた。

今日こんにち、日本のほとんどの民は勤め人である。そうなるとまず農閑期がない。まとまって休めるのは盆正月と5月の連休くらいだ。とにかく休みがないし、休めない。私が自炊湯治を知らなかったのもそういう訳だろうし、今自炊湯治を知らない人がいるのも当然と言えば当然だ。

自炊湯治には最低でも2週間が必要だと言う。最初に数日で体を慣らし、中の1週間で実質的な湯治。残りの日で日常へ戻していく。それでワンクールだ。その中で地元の食材を使いながら自分のペースで食事をする。これが自炊湯治。そして絵に描いた餅。

けれど、私はやってみたかった。この旅先での自炊と言うものを。だって面白そうじゃないか。旅先でご飯を作るなんてやってみたい。しかも地元の食材を使って自分の好きに作れるなんて。だが、いきなり2週間の休みなんて取れるわけがない。これが3年前の私。

そこで、わたしはまず、スタッフに「社長がいないこと」に慣れてもらうため、1週間休んで旅に出てみた。1週間休むと、私がいないことで何が問題なのかが炙りだされる。その年はその問題点がクリアできるよう策を講じた。

次にまた1週間ほど休んで旅行へ行って見る。前回の問題点がクリアできているかの確認だ。すると今度はまた新たな問題が浮かび上がる。このように、始終旅に出ては諸問題を解決していった。そうして昨年、20日間の旅へ出た。それが初めての自炊湯治旅だ。

トライ&エラーを繰り返して、私はどれくらい旅に出られるか探って行った。そうして、今回満を持して1ヶ月、こうやって旅に出ている。できない理由を探すことは簡単というけれど、そのできない理由をしらみつぶしにしていけば、結果できるようになる。社長だって1ヶ月旅に出ることができるんだから、多分多くの人もできるんじゃないかと思う。

かつて私がワインバーをやっていた時「1ヶ月休める会」というのを作ったことがある。15年くらい前の話だ。会員は私も入れて3名。欧州の人たちは1ヵ月休めると言うのにどうして私たちは休めないのか。やろうと思えばできるのではないか、そういう会だった。私は1ヶ月休みを実現した。15年かかったが。あとの二人は今ごろどうだろうか。


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朝食は温泉卵かけごはん。

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朝食の残りをお昼に置いておく。

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窓の結露がものすごいので、ファンヒーターを窓に向けて結露除去に励む。

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東北ではすべての県で転出が上回ったという地元ニュース。

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特に転出が多かった市町村。

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そんな中一人勝ちの仙台。

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今日は幻想回廊と言うイベントがあると言うので、夜に出かけてみた。武司はもう寝ているのでひとり。

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雪の中の花火なんて初めて見たな。頭にも肩にも雪がどっさり積もっている。

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昨日郵便局へ歩いた道が今日はコレ。地元有志の人たちが作ったんだなぁ。明日からはいよいよ自炊部の東鳴子、旅館大沼へ移動です。

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