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魔法のパスタウイング【ファンタジー ショートショート】

ある休みの日の昼時、私はやけに乙女チックな店にいた。
店はピンクのギンガムチェックと白と木目が基調になっていた。
カントリーテイストというやつか。
木製の飾り棚には、ミルクティー色のテディベアや、白いホーローのキャニスターなどが飾られている。
テーブルクロスはやっぱりピンクのギンガムチェック。
そこに還暦近い男が一人で座っているのだった。

ことの始まりは今朝の娘との会話だった。
朝食のトーストとベーコンエッグを目の前に、私は嘆いた。
「どうも胃が悪いんだよなあ…」
朝食の進まない私を見て妻が言う。
「お父さん、調子悪いの?」
「うん…ちょっとな…夏バテかもしれんな」
「まだ6月じゃない。このくらいで調子崩してたら、もっと暑くなったらどうするの」
これぐらいとは言うが、すでに真夏日が何日か続いているのだ。
妻は頭からつま先まで丈夫な質で、風邪もひかない。私の体調のことなどまるで理解がない。
もう一度朝食を見て、私はため息をついた。
すると珍しく娘が話しかけてきた。年頃の娘は、私とは滅多に口を聞かない。
「お父さん、あそこ行ってみたら?パスタウイング。あそこでご飯食べると元気になるらしいよ」
「な、なんだそれは。最近流行ってるのか?」
なんだって?食べると元気になるって?
娘は答えるのもめんどくさそうに、百円引きチケットを寄こした。
パスタウイング。地図と住所が書いてある。
騙されたつもりで行ってみることにした。

地図があったおかげで、迷わず着くことができた。あった、パスタウイング。
駐車場に車を停め、店に入ろうとして立ち尽くす。な、なんだこれは…!ミルクティー色の壁に、ハート型の窓がついている。看板は優しいピンク色。
これは難易度が高いと、可愛いドアの前で立ち尽くしていると、中からひょこっとひらひらエプロンをつけた女の子が顔を出した。
「どうぞー」
促されてついつい入ってしまう。
アルバイトの子だろうか。ギンガムチェックのワンピースに、ハートのポケットのついた白いエプロン。頭にひらひらの飾りまでのせている。メイドカフェみたいだ。いや、そんなところ行ったことはないが。
「こちらどうぞー」
11時半オープンなので、どうやら最初の客のようだ。
奥の窓際の席へ案内してくれた。
さて、何を食べよう。
「オススメはカルボナーラでーす」
「じゃあ、それをください」
「はーい、かしこまりましたー」
女の子はクルンと回ると、エプロンをヒラっとひるがえし、スキップするような足取りで厨房へ消えた。
「できましたー」
「え?」
消えたかと思ったらすぐに出てきたのだ、湯気の立つカルボナーラと共に。
おいおい、レンジでチンするやつじゃないだろうな。私は訝しく思い憮然とした。
そんな私を尻目に、女の子は先に星のついたピンクの棒をどこからか取り出した。あ、娘の見ていたアニメで見たことがある。魔法のステッキというやつだ。
「レーナ クシイオ☆
 レーナ ニキンゲ☆」
女の子はステッキを振り、呪文らしきものを唱えた。
すると、なんということだ。カルボナーラがキラキラと輝き出した。
私は無性に空腹を覚え、無我夢中で食べ始めた。
おいしい。なんておいしいんだ。冷凍食品という疑いなんて、もうすっかり忘れていた。
ものの1分でそれを平らげてしまった。
ああ、胃が悪いのに、こんな無茶な食べ方をして。
胃?あれ?そういえば?
「うおおお、体中に力がみなぎるようだ」
思わずガッツポーズをとった。
女の子はニッコリ微笑んでいた。
お題を渡すと私は無性に体を動かしたくなり、車を置いて走って家まで帰った。

あれから一週間たつが、体はすこぶる軽い。
胃の痛みなんてどこかへいってしまった。
あの女の子は魔法使いで、私は魔法のカルボナーラを食べたんだなと、思っている。

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もっと早い時間に上げようと思いましたが、なんかダルくてこんな時間になりました(;・∀・)


お恥ずかしい話、もうすでに夏バテのようです(;´д`)トホホ…


これからどんどん暑くなるのに、どうすりゃいいのさーー(^_^;)

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