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『lemonade.』レビュー - 甘さと苦さ、友情の延長線上に芽生える恋の百合

2021.7.18にitch.ioでリリースされたLeporine氏 (@leporinee) によるLGBTQ+要素を含んだインディーゲーム。

ゲームプレイ

lemonade.』は、ある女子高を舞台としたビジュアルノベルだ。

主人公はEllie(エリー)とMei(メイ)。2人は親友。ある突然の出来事からひとり逃げ出してきたエリーの元へ、彼女を探しに来たメイがたどり着いたところから物語は動き出す。

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黒髪ロングの少女がメイ。作中にエリーのビジュアルは登場しないが、itchのストアページから金髪ボブのイメージを見ることができる。

本作はいわゆる『百合』をテーマとした作品で、思春期の少女たちの心の機微に触れる物語だ。そこは無条件に理解のある世界ではなく、等身大で現実的な悩みの先が描かれている。

登場人物は彼女たち2人だけ。物語はエリーの一人称視点で描かれるが、しかし情景描写はほとんど無く、言葉のみで紡がれている。プレイヤーの見ているものはエリーが見ているメイの姿で、聴こえているのはエリーに語りかけるメイの言葉なのだ。

これはあるひと時を切り取った短編作品で、一人称視点ならではの視点切り替えによるすれ違いカプや、深い心情の掘り下げまでは行っていない。繊細だが、そこにあるのはすべてわかった上で語りかけてくるメイの言葉の鮮烈さだ。

短編のビジュアルノベルだからできる手法で、一重にLeporine氏の言葉選びの巧みさが伝わってくる。

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「心は読めない」のではなく「読まない」意味がわかるだろうか。

日本語翻訳/ローカライズ

Masa Kei氏 (@MasaK22555597) による有志翻訳が公開されている。

ほとんどをメイからエリーへの言葉で占められている本作は、ある種のひとり語りに近い趣きがある。短くも長い、誰かが誰かへ伝えるという行為を言葉で尽くして表すということはとてもむずかしい。

印象的なビジュアルと、Leporine氏の言葉選びの巧みさがあってこそとも言えるが、日本語としてプレイヤーの目に届く形で落とし込まれていると感じた。

筆者も日本語訳の文章校正という形でお手伝いをさせてもらった関係で、名前を載せていただいている。

気になるポイント

英語圏でだけ通用するネタなのだろうな、と思うセリフがあった。

もちろんこれは翻訳の問題ではなく文化圏や言語圏に起因して起きるもので、本作に限った話でもない。ある言語圏には存在する表現が、別の言語圏では置き換えるどころか該当する表現そのものが存在しないときさえある。

筆者も翻訳に関わることがあるので、なかなか難しいポイントだ。

本作の場合だと「骨壷の遺灰」と「同級生の名前 Ash(=灰)」をかけているところ。英語圏ではジョークなのだろう。

TIPS

本作はもともとゲームジャムで制作されたそうだが、画面に映せるのは1人のキャラクターと1枚の背景までという制約があったそうだ。

登場人物は2人居るが、画面に映るのはその視線の先の1人という表現は、この制約を最大限に活用した巧い手法と言えるだろう。

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総評

本作は多くを語ることができない。15分ほどで終わってしまう、限られた世界の中だけのとても短い物語だからだ。

もちろん『百合』というテーマから、彼女たちの関係性や、本作がどういった結末へ向けて動いている作品なのかはプレイヤーは推し量ることができるが、そこに至るまでの言葉こそが真意なのだ。

ぜひメイの語る言葉を見て、聴いてみてほしい。

本作はitch.ioから無料でダウンロードしてプレイすることができるが、任意の金額を開発者に支払うこともできる。まずはプレイしてからでも良いので、この作品を気に入ったならば開発者さんへ応援の気持ちを届けてもらえたら嬉しい。

LINK

https://www.helloleporine.com/
https://leporinee.itch.io/

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