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【エッセイ】うらみごと

 このごろのねこは、私の姿を見ると見えないふりをするようだ。
 近づくと身をかがめて地面にしがみつくようにする。かまわず抱き上げる。つきたての餅のようにぐにゃりとつかみどころがなく、両腕で抱えていないと地面にすべり落ちてしまいそうだ。

 ねこを抱えてうろうろしていたら、姉が軽トラに乗れと言う。夕方、小屋に軽トラをしまう時間だ。
 ねこを抱えたまま助手席に乗り込む。すぐに車は動きはじめた。ねこを座席におろすと、座面にへばりつくように四肢を広げて身を低め、必死にバランスをとる。そして私を見上げ、ニャア、と力を込めて言った。目は、その声以上に何かを訴えている。その後も短くニャアニャアと文句を言っていたが、軽トラはすぐに小屋に収まった。
 再び抱き上げてドアを開けると、地面におろす間もなく自ら跳びおり、こちらを振り返ってニャア、と言ったきり背中を見せて走り去っていった。

 ねこにとっては初めての車だったのかもしれない。そして、その体験はお気に召さなかったらしい。私を見すえ、口を大きく開けて言ったあのニャアは恨み言に他ならない。
 抱き上げたのは私だけど、車に乗れと言ったのは姉なんだけどな。
 ねこの中では、すべての犯人が私にされているような気がする。ああ、またねこに嫌われたかもしれない。
 しかし、ねこに嫌がられても抱き上げることをやめるつもりはない。

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