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【エッセイ】開いた口がなんとやら

 夜、歯をみがいていたら携帯電話が鳴った。
 アパートの管理会社からだった。
 口座には家賃分くらいの残高はあったはずだし、部屋で大きな音を出した覚えもない。おそるおそる応じると、電話口の声は穏やかな男性のものだった。
「他の入居者様からお話しがありまして」
 やはり苦情だろうかと身を固くする私に、「お車の給油口が開いているようなのですが」と彼は言った。
「・・・え?」
 外に駆け出して確認すると、たしかに自分の車の給油口が開いている。内側のキャップすら閉まっていない始末だった。同じアパートの誰かが気付いて管理会社に問い合わせてくれたらしい。
 電話口の男性にねんごろにお礼を言って通話を終えたあと、はたと思う。5日前に給油したきり、今日までずっと開いたままだったのだろうか。今日は往復3時間の道のりを運転したというのに、気付かなかったとは恥ずかしい限りである。
 教えてくれたのは、おそらく私の駐車場の左隣を使っているあの人だろう。心の中で深く頭を下げる。(今度顔を合わせたらお礼を言おう)
 もし、5日前からずっと気にしてくれていたのだとしたら、申し訳なくもありがたいことだ。
 それにしてもこの失態、開いた口がなんとやら、である。

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