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【エッセイ】ねこ模様 その3

 靴を履いていたら、外をねこが足早に歩いていくのが見えた。
「ねこ! ねこちゃん! どこいくの!」
 大きな声で呼んではみたが、ガラス越しでは聞こえないようだ。そのうちにオンコの木の向こう側に入ってしまって、見えなくなった。
 急いで外に出て、行き先を見届ける。
「ねこちゃん!」
 呼びながら追いかけると、その先に姉がいた。しゃがみこんで草むしりをしていた。
「やっと来たのか! ずっと呼んでたのに」
 姉は顔を上げ、短く口笛を吹きながらねこに手を伸ばした。その手をよけて、ねこは興味のないそぶりで姉の前を通りすぎた。
 ねこは外で誰かが作業していたりすると、様子を見るように近くに寄ってくる。そして付かず離れずの距離を保ちながらあたりをうろうろする。
 あたりを嗅ぎまわったあと、トラクターの古タイヤに溜まった雨水を飲もうとしたので、姉が「やめれー」と言いながら抱き上げ、馬屋に連れて行って倒したバケツに少し水を入れてやった。

 ねこにつけられた様々な呼び名は定着せず、たまに思い出して呼んでみるほかは単に「ねこ」と呼んでいる。
 このごろ、ねこによく似た兄弟みたいなヤツが頻繁にうちに出入りしている。後ろから見ると見分けがつかないくらいに同じ柄で、顔まわりの柄の入りかたで違うねこであることがわかる。エサは隣の家でもらっているらしいが、毎日うちに来ているようである。
 そいつはうちのねこに向かって鳴いて存在をアピールするが、相手にされない。ねこは完全に無視してじっとしている。
 2匹がほんとうの兄弟かどうか定かではないが、赤の他ねこであるとすればあまりに似ている。

 灰色のねこはほとんど来なくなったそうだ。代わりに、たまに黒白のハチワレが来るようになった。馬屋の前で堂々と毛づくろいなんかして、どこかに去っていく。
 最近、新たなねこがまた増えた。姉はねこたちの観察に余念がない。
 サバ柄みたいなヤツで、これまで2回姿を見たらしい。通りすがりかもしれないし、どこかに居ついたのかもしれない。
 どうしてうちにねこが集まってくるのかは不明だ。

 夕方、外に出た。馬屋の入り口から奥まで隙間や牧草の中を見て歩いたが、ねこは見当たらない。
「ねこは?」
 ボロ拾いをする母に聞いたら、午前中に馬屋の二階に上がったきり下りてきていないという。
「なんだ、ねこいないのか」
 言いながら歩いていたら、馬の手入れをしていた姉が馬屋から顔を出した。
「ねこは二階で寝てるよ」
 わざわざそれを言うために顔を出したらしい。
「知ってらぁ」
 結局、今日はねこに会えなかった。せっかく姉のジャンパーを着て、抱っこできるように装備していったのに。
 

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