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【エッセイ】妄想1週間 金

 水辺が好きだ。
 川や湖や海に強いあこがれを抱いている。なぜかは知らない。いつからかもわからない。
 とにかく水には私を惹きつける何かがある。

 高いところが好きだ。
 高いところを見上げるのも、高いところに上って見下ろすのも好きだ。
 ただ遠くを見るのが好きなだけなのかもしれないが、視界が広くなるところがいい。なぜか胸がざわざわする。そのざわめきの正体は知れない。
 ばかは単純でいいよな、高いところに連れていけばご機嫌なんだから。そんなことをたまに自分に言ってみる。

 朝食のあと、宿を出てロープウェイに乗った。ロープウェイの先には熊牧場があるのがセオリーだと思っていたけど、今どきはそうではないらしい。
 山や木々や、自然は見慣れているのに高いところから見るだけで特別な気がする。自分の現金さがみえるようだが、事実なので仕方ない。
 たどり着いた先では、木でできたデッキにソファーが並ぶ。コーヒーを買って、ソファーに沈んだ。屋根はない。
 静かに横たわる湖。中島は思っていたより大きい。湖の向こうに堂々たる山の姿。そして、空。
 今日も雨の心配はない。日焼けを気にするのは野暮な気がして、平気な顔をして日差しを浴びた。

 コーヒーを飲み終えたら、突然そわそわしてきた。のんびりしたいのに、早く帰らなければいけない気がする。帰りたくないのに帰りたい。帰巣本能という言葉が浮かぶ。
 旅なれない自分の心の不安定さに呆れながら、車に戻った。
 走り出せばまた少し落ち着いてきて、しばらく走ってから昼食に小さなステーキを食べた。肉を食べると力が出る気がするから不思議だ。血が巡る。熱が生まれる。
 店を出て、近くの卵屋で卵とカステラを買った。

 ふたたび、海沿いを走る。
 夕闇がやってくる。少し早いが車のライトをつける。
 生活圏内に入ってから、帰って風呂に入るのが面倒に思えてきて、近くの公衆温泉に寄った。
 帰ったら、そのまま寝よう。お腹が空いたらさっき買ったカステラを食べよう。

 完璧な1日の終わり。 

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