見出し画像

【エッセイ】はやく人間になりたい

 こちらの事情などお構いなしに、時間は滞りなく進む。その流れの中で、ときどき何の脈絡もなく口をついて出る言葉がある。
 はやく人間になりたい。
 空を見たとき、風呂に入りながら、運転中。うまくいっている時もそうでない時も、いつでも不意に浮かんできて、どうしようもなく切ない気持ちになる。
 未だ人間になりきれない私はいったい何者なのか。外見だけは立派な人間のふりをして。かの妖怪人間たちのほうが、よほど人間らしい心を持っているじゃないか。
 どうして人間になれないの。どうして人間になりたいの。どうしたら人間になれるの。
 彼らを妖怪人間のままで受け入れる世界があれば、人間になりたいと願うこともなくなるのだろうか。
 妖怪人間のままでいいんだよ、と言ってあげたい。そしたら絶望してしまうかしら。妖怪人間のままでいるということは、人間にはなれないということだから。
 部屋の床に寝ころんで、風の音を聞く。
 ああ、はやく人間になりたい。

(そしてときどき、妖怪になりたい)
 


より素敵な文章となるよう、これからも長く書いていきたいです。ぜひサポートをお願いいたします。