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【エッセイ】妄想1週間 木

 このごろは、先のことを考えて旅の計画をしたり、宿の予約をするのがとてもつらくなった。まずエネルギーがないし、予約したあとにやっぱり行けなくならないかとか、天気はどうかとか、そんなことを心配して疲れてしまう。
 でも出掛けたり宿に泊まるのは好きなので、思い立ったときに今日や明日の予約をして出掛けることが多くなった。

 湖に行くことにした。天気は気にしていなかったが、目が覚めてみると快晴だった。背中を押されている気がした。
 行け。行きたいなら。最後に決めるのは自分だ。
 温泉地のホテルを予約した。ガソリンは満タンだ。あとは走るだけ。

 高速道路の本線に合流する。海沿いを西に向かう。途中で高速を降りて、道の駅に寄った。
 博物館を見て、レストランでごはんを食べる。そのあと歴史公園をひとまわり歩いてまた車で走り出す。

 目的の湖には、思いのほか早く着いた。チェックインの前に遊覧船に乗ってみる。この湖は真ん中に島があって、公園みたいになっているらしい。
 自分で操作しない乗り物ってのもいい。何も考えなくていい。何もしなくても、進んで行く。遊覧船はすいすいと(実際はゆっくりと)私を運ぶ。甲板から見下ろすと、透明な湖水の中を小さな魚が泳ぐのが見える。
 中島に降りて、資料館をゆっくり見て、ベンチでぼんやりして、また遊覧船に乗って帰ってきた。
 この辺の鹿は泳いで中島まで渡るらしい。帰りの船の中で、鹿の生態やどうして泳いでまで湖を渡るのかについて考えてしまった。
 泳ぐ鹿は、泳がない鹿より身綺麗なのかな。

 前から泊まってみたかったホテルがとれた。客室すべてが湖に面しているのが売りで、大浴場も湖を見ながら入れるとか。
 部屋に入るなり、窓いっぱいに湖が広がっている。窓に向かって置かれた椅子に座って、しばらく湖面を眺めた。音のない室内で、水音が私を包む。
 自分が透明になるような気がした。あるは水に沈んでゆくような、無になるような、何かと溶け合うような。
 
 日が傾いてきて、我に返る。
 夕食の前に温泉に入ろう。
 そして、食べたらまた湯に浸かるのだ。
 あんまり長湯をすると、凝り固まった身体が指先から溶けて温泉と混ざってしまうかもしれないが、それはそれでいいか。
 お湯に溶け込んだとしても、そのうち冷えたら煮こごりみたいにまた姿を取り戻すだろう。

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