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浅葱色の覚書「メリー・ポピンズもなんか言ってたかも。」 / everyday is a symphony

はじめ

ゆったりまったりぶっとび音楽集団、□□□(クチロロ)の傑作「everyday is a symphony」がLP盤に姿を変え、2024年1月24日発売。ワタクシ、このアルバム、そして□□□が大好物であるので、この報せを聞いて「うわーい」と歓喜の諸手アップであった。学生時代、演劇もバンドもやっていた身なので、そして「音楽は音楽、演劇は演劇」というちっちゃな常識の下に生きていたので、「00:00:00」(というか「わが星」)に出会ったときにゃ、そりゃあぶったまげたもんじゃった。感動の余り、バンドでカバーしたし。さて、今回はあさぎ的「everydey is a symphony」の魅力をじゃばじゃばと垂れ流してゆく。

毎日シンフォニー。

なか

□□□(クチロロ)による6枚目のアルバム。2009年リリース。さまざまな生活音をサンプリングし、そこにキャッチーなメロ、ゴリゴリのラップ、叙情的なポエトリーリーディングを乗せる、という自由な発想で創造された楽曲たちを収録。正に「everyday is a symphony」を体現した作品である。


ズバリ、私はこのアルバムの「ホワンホワンホワンホワン感」が好きである。まあわかる。「ホワンホワンホワンホワン感」がわからないよね。わかる。わからないのが、わかる。
まずはこの「ホワンホワンホワンホワン感」の説明からである。

例えば、あなたは今学校の教室にいる。授業中、先生の話は右から左。窓際の席に座るあなたは、何の気無しに窓の外を見つめる。授業つまんねえなあ。あ、体育でサッカーやってる。あーあ、俺もサッカー得意なイケイケスポーツマンだったらなあ…。
ホワンホワンホワンホワン…。

はいストップ。この「ホワンホワンホワンホワン」である。この「ホワンホワンホワンホワン」で彼は妄想の世界に入り込み、脳味噌の中ではクリロナになってキャーキャー言われている。
この想像創造の世界に続くエントランスこそが「ホワンホワンホワンホワン」だ。

このアルバムで言えば、
「電車に乗って一息。電車のガタンゴトンという音を聴きながらホワンホワンホワンホワン…。」
「卒業式、校歌を聴きながらホワンホワンホワンホワン…。」
「波の音を聴きながらホワンホワンホワンホワン…。」
「時報を聴きながらホワンホワンホワンホワン…。」
といった具合である。


私は「他人の思考」が本当に好きだ。このアルバムは登場人物の生活や人生が垣間見えるのに加え、その人のそのときの思考まで見せてくれる。一般的な楽曲は「そのとき、彼はこう思った。」とか「私はこう思った。」というように、登場人物が考えたことを、口に出して表現したような歌詞が多かったりする。登場人物の思考が一度、脳から出てしまっているのだ。
でも□□□の本アルバムの楽曲たちは、彼らの脳内を直接見せてくれている。脳の外にまだ出していない、現在進行形で考えている脳内の映像なのだ。わかりづらくてごめんね。でも本当にそこが好きなんだもん。では、そういう曲と、そうでない曲の見分け方(聴き分け方?)を教えてあげよう。

「ホワンホワンホワンホワン」である。



刺激的な人生を生きたければ、どうすればいいと思いますか?買い物しますか?どこか行きますか?楽しく生きる為に、足労や大金をかける必要はないと私は思う。(其れらをする人を否定する気は毛頭ない。実際、私は買い物も旅行も割と嗜む方だ。でも、「其れしかない」と考えるのはちと待たれい!である。)
何も持たず、ただ白い壁なり、窓の外なりを見つめ、何かを思い、そこからホワンホワンホワンホワンして、思考を拡げたり、深めたりするのだ。数秒で「無理無理!」となってしまう人。我慢だ。じいっと見つめて。ほら、部屋の隅から蒼いテントウムシが話しかけてきたでしょう?
足労も大金も必要ない。必要なのは、ほんのユーモアと、あらゆる想像に耐えうる脳味噌である。「んー?」となる衆は、メリー・ポピンズ観よう。昔の方の。

このアルバムは、「人が思考すること」の素晴らしさ、愛おしさを感じさせてくれる。「嗚呼、やはり人間は思考する生き物なのだ。人間は素晴らしいのだ。思考しよう。妄想しよう。創造しよう。」的な人間賛歌が彼らの作品を通して聴こえてきて、これが心底心地よいのだ。

おわり

1973年、アメリカはブロンクスにて生まれたヒップホップ。ジャズやソウル等からビートやフレーズをサンプリングし、そこにグルーヴィーなラップを乗せた。その後、さまざまな発展を遂げたヒップホップの枝葉の先に□□□(クチロロ)がいる。ヒップホップ的感性で、サンプリングやラップの気持ちよさを追求する一方で、そのジャンルを超え、さらにその向こうに行こうとする様がとってもカッコよい。という真面目批評家めいた文言を遺して今回は終わりにします。ホワンホワン言いすぎたので。
さて、私はこの記事で何回「ホワン」といったでしょうか?たーいむしょっくっ!

ついしん:「Tokyo」は本当に傑作だと思う。東京の暮らしを、サンプリングや詞だけでなく、楽曲の構造でも表現するその自由さ(≒センス)にもう脱帽しまくりである。脱帽のしすぎで頭皮が痛いほどである。

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