小さなコスモの話
文:小林新
日曜夜11時
人身事故により電車がかなり遅れている。
この駅が始発なので、かなりの人が溜まっている。
僕は運良く前の方に並べたので、電車のドアが開くと同時に比較的ゆったりと席を選ぶ時間をもらっている。
電車に入り、一番端の空席を見つけて飛び込む。しかしその時僕は気づいた。その座席のシートの色が変わっていることに。
かなり広がる黒っぽいシミ。
なるほど察した。
後ろの人もどんどん来るので、とっさに身を翻して少し距離を置いた場所に着席した。
危なかった。
そんな数秒間の僕の察しと咄嗟の方向転換などつゆ知らず、頬にお酒を溜めた男性が、空いてんじゃんラッキーと言わんばかりにどかっと腰を落とす。
一瞬で気づく。顔色が変わる。
「うわーまじかよー!!」
男性の連れの仲間たちと、気づいていた数名の乗客がふふふ笑う
「、、、電車きらいになったわ〜」
心中お察しします。
そして全てを見ていた、スーツを着ている時のおばたのお兄さん似の青年。
他の人が座ろうとするとさっと手を出し、深く頷いて察させる。さっと察させる。
家族連れのパパが
「トイレ行きたい漏れそう。いやそれはおれじゃねえよ?」
ママと子供たちと数名の乗客ふふふ笑う。
全部ぜんぜん気づいてないであろう僕の隣の席の人は爆睡して肩に寄りかかってくる。
これが社会。小さなコスモ。これもまた結び。
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