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◆怖い体験 備忘録╱第18話 ホテルにいた子ども

以前、わたしがお勤めしていた会社に霊感女子が入社してきた時のお話を書きました。
今回は、またその彼女と同じ存在を感じた時のお話です。

わたしが居た会社では、年に一回大きなイベントを主催していました。
札幌にある大会場を貸しきりにして、全国から集まる顧客を相手に高額商品を販売するイベントだったのですが、その運営を日頃はたった5名の社員で回すので、イベント開催の前後は目の回るような忙しさでした。

イベント当日が近づいてくると、数日前から会場近くのホテルに泊まり込みになります。
毎年のことだったので、わたしたち女性社員は共謀して、スタッフの宿泊だけは毎年必ず違うホテルを手配するようにしていました。
だって、その方が毎回同じホテルに泊まるよりワクワクするじゃありませんか。
そんなこんなで、その年はTというホテルに泊まることになりました。

Tホテルは、ビジネスホテルの中では割合評価が高く、財布の紐がお固めの富裕層の方も利用する感じのホテルです。
思ったより綺麗な内装にわたしたちはテンションを上げ、そのまま食事をとるために夜の札幌へ繰り出しました。
この時点までは、特に部屋におかしな様子も感じなかったのです。

帰ってきたのは、夜の11時近くでしたでしょうか。
イベント前に結束を固めるため、とか何とか言いながら、ご飯のあとに一軒行って、コンビニで適当に買い物をし、戻ってきたのです。
少し疲れてはいましたが、朝はできるだけ時間が欲しかったので、夜のうちにお風呂に入ることにしました。

シャワーを浴びている最中。
何度か人の気配を感じたのは気になりました。でも、よくありますよね。臆病な人にありがちなやつ。
シャンプーしてる時、背中に気配を感じてめちゃめちゃ怖い!みたいなやつ。
見知らぬホテルの1人部屋が急に怖くなってきたので、これもそんなもんだろうと、わたしは自分に言い聞かせました。
鼻歌なんぞ歌いながらお風呂を済ませ、何事もなくシャワールームを出た、その瞬間でした。

部屋に置いてあるドレッサーの前に、着物を着た女の子が立っていたのです。
年の頃は3,4歳でしょうか。
ドレッサーの前に置いてある椅子の背もたれに両手をかけて、少し背伸びをするような感じで鏡を覗き込んでいました。
なので、シャワールームから出たわたしには、女の子の斜め後ろ姿、そして鏡に移った顔が見えたのです。

出たー!とは思ったのですが、すぅっとすぐに女の子が消えてしまったので、声は出ませんでした。
しかしあまりにはっきり姿が見えてしまったので、心臓はバクバクです。
ただ、はっきり見えたはずの鏡の中の顔は、不思議と思い出すことができません。
もしかすると、恐怖のあまり自分の中で見える力をセーブしていたのかも知れないですね。

ともあれ、怖かったので誰かの部屋に避難しようかとも考えましたが、そうするには時間が遅すぎました。
恐怖心よりも一般常識が勝ったわたしは、イベント準備を明日に控えて寝たはずの同僚たちを起こすことを諦め、電気を点けっぱなしにして眠りについたのでした。

そして、翌日。
結局金縛りに遭うこともなく、それ以上何もなく時間は過ぎたのですが、怖かったせいで眠りの浅かった重い身体を引き摺り、わたしは朝食を摂るため一階に続くエレベーターに乗ろうとしました。
と、そこでほとんど同時に起きたらしい後輩の霊感女子と鉢合わせたのです。
おはようございまぁす、と挨拶した彼女の顔もまた、わたしと同じように少し寝不足に見えました。

同じエレベーターに乗り込んですぐ。
わたしは昨日の見た鏡の前の女の子のことを話そうと思い口を開きかけましたが、彼女の方が先に「あのー」と声を上げたので、わたしは口を噤みました。
彼女はチラリとわたしの方を見て「そっちには、何も居ませんでした?」と尋ねてきます。
やはり霊感の強い彼女のこと、このホテルにいるらしい存在に気がついたようでした。

「居たねえ、女の子。着物の」と、わたし。
「あー、あれ、子どもだったんですか」と、彼女。
聞いてみると、彼女は姿自体は見ていないそうなのですが、寝ようと電気を消した途端に金縛りにかかり、コンビニで買ったお菓子の袋を一晩中がさごそ漁られたのだそうです。
考えてみれば、わたしはコンビニでメイク落としとタバコしか買いませんでした。
もしかすると、わたしの部屋に何もないことを把握したあの子は、そのあとでお菓子を求めて隣の彼女の部屋に行ったのかも知れません。
お陰で寝不足ですよ、と溜め息をついた彼女を励まし、わたしたちはイベント準備のために腹ごしらえをするべく朝食会場に足を向けました。

その日から2泊したそのホテルには、食べ物を持ち込むのはやめにしました。
部屋はもう押さえてしまっていたので、ホテル側の迷惑も考えると部屋を代えて欲しいとは言い出せませんでしたが、寝るときは無理やり2人で寝てやり過ごしました。
霊感ある同士がひとつの場所に固まっていて大丈夫かな?という不安もありましたが、それ以降あの女の子が現れることはなかったです。
もしかすると、本当にお菓子が目当てであちこちの部屋を渡り歩いていたのかも知れませんね。

ところで、公共の宿泊施設に現れる着物を着たおかっぱの女の子、と聞くと、日本人なら誰もが頭に思い浮かべる存在があるでしょう。
実を言うと、わたしと後輩も「もしかして、あれだったんじゃ!?」とは、当然思いました。
なので、イベントが大成功だったのも手伝って、あるいはここから2人で大金持ちになったりして!などと話していたものです。

結果は……
わかりますね?
会社員をしながらこんなnoteをちまちま書いているぐらいなので、特に劇的な生活の質の向上などは起こりませんでした(笑)

つまり、わたしたちが出会ったのは、座敷わらしでも何でもなく、単にホテルに住みついている女の子のオバケだったってことですね。

それでは、このたびはこの辺で。




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