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◆怖い体験 備忘録/第2話 葬儀の夜

あれは確か、曾祖母の葬儀のことでした。
祖父の家は今で言う豪農で、割合山奥にありました。
子供の頃は、やけに広くて古いこの家がいつも少し怖かったものです。
でも、この日はたくさんの親族が集まって賑やかで、何人かの子供は浮かれて夜遅くまで起きて遊んでいました。

だいたい何時頃のことだったでしょうか。
真っ暗だったので、いい加減に夜も更けた頃だったことは確かだと思います。
裏玄関が開く音がして、わたしと従妹はそこに続く扉を開け、顔を覗かせました。
しかし、そこには誰も居ない。引き戸もしっかりと締まっています。
とにかく出入が多い日だったので、親戚の誰かが戸を開けたものの、車に忘れ物でもしたのかと思い、わたしたちは居間に戻りました。
祖母か叔母かに「誰か来たの?」と聞かれたので、誰もいなかったよーと報告すると、誰か遅くに来る予定だった人の名前が出たので、その時はそれ以上深く考えなかったのです。

しかし、それから間もなく。
誰かが小さな物音に気付きました。

ジャリ…ジャリ…ジャリ…ジャリ…ジャリ…

それは明らかに、家の周りに敷かれていた玉砂利を、誰かが踏む音です。
さっき戸を開けた親戚に違いないと思ったのか、祖母が
「表玄関に回ったんでないのかい?誰か電気つけてあげてよ」と言いました。
足音は確かに裏玄関からぐるっと回り、ゆっくりと表玄関へ向かっているようだったのです。

ジャリ…ジャリ…ジャリ…ジャリ…ジャリ…

しかし、表玄関の間近で止まったと思われる足音の主は、一向に戸を開けようとはしないのでした。
その辺で、少し何かがおかしいな…という空気が流れたように思います。
誰かが妙な空気を変えようとしたのか、少し怒ったように「誰さ?」と言いました。叔母たちが「誰か酔っぱらって外に出たんでない?」「子供らのイタズラでない?」などと、それに続きます。
しかし、ちょうどお酒を取りに降りてきた叔父に確認すると、外に出た人は誰もおらず、わたしともう一人の従妹を除く子供たちは、みんな二階で寝ているということでした。

結局「気のせいでないかい?」という祖母の一言で場の空気が持ち直りかけた時です。

ジャリ…ジャリ…ジャリ…ジャリ…ジャリ…

と、またあの音が聞こえてきました。
さすがにこの時はみんな気味が悪くなったのでしょう。
すっかり場は静まり返ってしまいました。
不安になったわたしと従妹はそれぞれ叔母と祖母の背中につかまり、ことの成り行きを見守るしかありませんでした。

その時です。
それまで無言でいた大叔母が、ぽつりと呟きました。

「死んだおばあちゃんなんじゃないかい?」

ぞーっとしたわたしたちをよそに、大叔母は更に
「亡くなった人はね、四十九日までこの世にいるんだよ。
 そして自分が死んだことがわかるまで、七日七晩家の周りをぐるぐる歩き続けるのさ」

と、続けたのです。

子供だったわたしたちが、どれほど慄いたかお分かり頂けるでしょうか。
とにかくぎゃあぎゃあ泣き叫んで、誰かに二階に連れていってもらい、先に寝ていた母の背中に縋りついて眠りました。

あの音の正体が結局何だったのか。
今となってはわかりません。
しかし、あの音は確かにみんなに聞こえていました。

もし大叔母の話が本当なのだとしたら、皆さんの中にも似たような経験をされた方がいらっしゃるかも知れませんね。

それでは、このたびはこの辺で。

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