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アートセラピーをどうやって世間に発信する!?アメリカのアートセラピー事情を交えて考えてみる【マシュマロ質問箱から】

みなさん、こんにちは!

嬉しいことに、マシュマロ質問箱に投稿をいただきました!

日本でアートセラピストとしてご活躍の方から、現在の日本の心理療法研究に関する見解を教えていただくと共に、アートセラピーを日本にどう世間に発信していったらいいのだろうかという問いかけを頂きました。ここに、ご意見をそのまま掲載しますね。

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この件に関して、アメリカのアートセラピー業界の様子を紹介すると共に、アメリカから日本をみて思うことや、わたしの感じることをまとめてみたいと思います。

日本のアートセラピーに対する世間の認識について個人的に思うこと‥アートセラピーに対する誤解がとにかく多い!

以前紹介させていただいた『Yahooニュース記事『ニセカウンセラーに要注意-心のケアを誰に任せればよいのか・・・』について思うことにも書きましたが、アートセラピーは、とても世間の誤解を受けやすい学問・心理療法だと感じています。

それは、日本の世間一般の認識の問題だけではなく、前述の記事の筆者がそうであったように、臨床心理を研究している心理職者や大学教員でさえも憶測で語ることがよくあったり、やり方を深く学ばないまま「アートセラピー」と称して絵を描かせる心理士がいたり、心理職者によって軽んじられずさんに扱われているジャンルのようにも思います。

アートや芸術、表現を楽しむという人間の根本的な喜びや欲望に通じるはずのものが、人間の行動や意識と繋がっていない訳はなく、かと言って、それがどう繋がってどう機能しているのか、そこの空白を埋め合わせる知識を持たないまま、「アートセラピー」を闇雲に使っている支援者が日本には多いのかな、という印象があります。

臨床現場で闇雲に見様見真似なアートセラピーが使われ被害が出ると、「やっぱりアートセラピーは効果がない」と、世間が思う誤解や嫌煙を補強してしまう事になってしまうように思います。

『アートセラピー』には心理学門的裏付けや土台がしっかりあること、そしてそれを理解せずにしてアートセラピーを名乗った治療をしてはならないこと、この前提がまず、心理職者や支援者側に強く意識されないと、世間一般のアートセラピーに対するイメージが、とても漠然として、さらには意味がない、胡散臭い、信用に値しないとまで言われてしまう原因になってしまう気がします。

アメリカでのアートセラピーの認知度とは?米国アートセラピー協会の存在について

アメリカも、世間一般のアートセラピーに関する知識というのは実はあまり浸透している訳ではなくて、年齢層の高い人たちになると、今の日本と同じような見方でアートセラピーを認識している方も多いように感じます。

しかし、わたしが知るだけでもこの10年ほどで、アートセラピーの学問性や専門職としての地位がだんだん確立しつつあるように感じます。というのも、アートセラピストたちをまとめている米国アートセラピー協会が、アートセラピストと名乗れる人を規制し、一般の民間資格からの差別化とアートセラピーの乱用への監視を積極的に行っているからです。

米国アートセラピー協会では、アートセラピストたちがアートセラピーに関する情報を共有し合うこともあれば、アートセラピーが世間に間違って受け止められないように、メディアや間違った発信をしている人たちの情報修正や注意喚起、啓発活動を主導しています。最近の例でいえば、韓国映画『パラサイト』でアートセラピーの誤解を受け兼ねない描写がある点を指摘する文章を発表したり、人種差別に関する社会情勢に合わせてアートセラピーが出来ることを提案する記事や声明を発表したり。

さらには、協会内で州ごとにロビー活動をする活動家アートセラピストたちがグループを作って、積極的に自分の州に、アートセラピストをライセンス化(州資格化)するよう提唱運動をしています。そのため、一部の州では、アートセラピストが日本でいう臨床心理士のようなある程度認められたレベルの資格に昇格しています。そして、そのような認められる資格を維持するために厳しい基準のライセンス資格試験を作っていて、それにパスした人のみがアートセラピストライセンスの保持、もしくはスーパーバイザーとなれるシステムを築いています。

そのため、アメリカの心理職者同士の間で、「アートセラピーといえば、アートセラピーを専門に勉強した人たちだ」という認識が確実に広がっているので、少しずつアートセラピストの居場所が広がっているような、「アート関係の療法のことはアートセラピストにアドバイスを聞こう」といった雰囲気が出来上がりつつあります。それによって、世間一般・クライアント層にも、アートセラピーが一つの認められた臨床心理療法なのだ、という認識で受け止められ始めているようにも感じます。

また、アメリカの著名人・芸能人たちの中にはアートセラピーを支持している方もおり、その人たちの発信により、アートセラピーに光が当たりつつある気もします。(でもこれは、心理カウンセリング自体に偏見が少なくなって初めて実現していることかも知れません。)

日本にアートセラピーを提唱していくために必要なこと‥

世間一般の認識を変えていくには、第一に、『アートセラピー』がどのような心理理論や研究の裏づけの元、確立している療法なのかが明確に世間に伝わっていくことが大切かと思います。

そしてそれをするには、アメリカや欧州のアートセラピー協会に匹敵するような独自のアートセラピー協会の設立も必要になってくるかもしれません。現在活動されているアートセラピストさんたちが定期的に集まり勉強会を開いたりして情報の共有を深め、業界の基準を作っていきながら、協会を中心にアートセラピーの情報を監視し統括していくこと。そうすれば、前述記事の教授のようなアートセラピーに関する誤解を招く発言があった場合、公に指摘し修正を求める力も持ててくるでしょう。日本にいるアートセラピーを専門に学ばれた方たちが団結して、このような組織を作ってしまうのもいいかも知れません。

日本には、『芸術療法士』が存在しているので、それがどのような立ち位置で日本の臨床心理業界で機能しているのか個人的にとても気になります。欧米で言われている『アートセラピー』とは別物なのか、同じ学術研究がベースの組織で形成されている資格団体なのか、それによっては、既に個別の美術療法のアプローチとして存在している『臨床美術』のように、『アートセラピー=芸術療法』と表記されることを避け、『アートセラピー』と『芸術療法』の二つがそれぞれ棲み分けされるように情報発信をしていく必要もあるのかも知れません。

また、日本の心理学関連の教授、アカデミアの分野にアートセラピーに精通した方を少しずつ増やしていって、アートセラピーの市民権を心理学業界の中で広げていくことも大切だと感じます。最近は、アートセラピーやトラウマ治療で頭角を現しているソマティックワーク、愛着、さらにはマインドフルネスなど今までぼんやりと理解されていた心理現象やコンセプトも、脳科学の進歩により、科学的に生物学的見地からも具体的な効果や仕組みが解明されてきており、アメリカのエビデンスベースド(科学的根拠)に固執する心理学関係者にとっても、これらの動きは無視出来るものではなくなってきています。そもそも、症状以外にも目に見えない現象を多く取り扱う(しかも主観的な報告が中心な)心理学の分野において、質的研究が認められにくい日本の心理学業界の現状自体が視野がとても狭いと思います。そのため、日本でも、これらの知識を学術レベルでどんどん発信できるような心理学関係者や教授陣が増えていくことが今後大切であると感じています。

個人レベルで出来ること‥

すごく矛盾しているように感じるのですが、日本はアートのヒーリングパワーを信じる人が多くいても不思議ではない国、文化の中に人間の生活や心を豊かにする機能を果たす独自の表現芸術が豊富の国に感じています。事実、アートを活かした活動を個人・団体単位で福祉活動に使われている方たちもたくさん見受けます。そのため、アートセラピーの世間の認識を「何か得体の知れないもの」から、人々の文化や生活に根付く文化と融合した紹介の仕方と共に「昔からの人間の知恵が築いてきた粋な、実は裏づけのあるコーピングスキル」的な捉え方に変えることが出来たならば、少しずつ、受け入れてもらえる機会が増えてくるのかな、というのを感じています。

コミュニケーションが苦手な人が多い、どちらかというとオタク気質であったり、内気であったり、小さい頃から自己表現を制限される学校環境を強いられた人が多い日本では、アートセラピーが、現代社会に生きづらさを抱えている方たちに貢献出来ることは実はとても多いと思っています。なので、どう既存のイメージを変えていけば良いのか、どう発信していけば親しみと信頼を持ってもらえるだろうか、これは今後も試行錯誤していきたい大きな課題に感じています。

長くなりましたが、このようなことを考えました。これらは、アメリカのアートセラピーしか知らないわたしの個人的見解であり、日本で活動していないのもあってわたしが見えていない別の視点も本当はたくさんあると思います。皆さんは、この記事を読んでどう思いましたか?

アートセラピストとして活躍されている方々、アートセラピーに興味のある方、その他、皆さんのアイデアやご意見をぜひコメント欄から教えていただけたら嬉しいです。

そして、このような、アートセラピー界を広げていけるようなブレインストームや議論のきっかけとなる素敵な質問を引き続き募集しています。

これからも、色々なアートセラピー情報を紹介していきますね。最後までお読みくださりありがとうございました。

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