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Yahooニュース記事『ニセカウンセラーに要注意-心のケアを誰に任せればよいのか・・・』について思うこと

みなさん、こんにちは!

8月25日、Yahooニュースに掲載されたある大学教授による記事『ニセカウンセラーに要注意-心のケアを誰に任せればよいのか・・・』を読んで、非常に残念に思うことがありました。

その記事では主に、日本で心理カウンセリングのサービスを受ける際に、利用者がどのような心理カウンセラーを選べば良いのか?を一般読者に向けて特集していたのですが、文章の最後の最後で筆者の主観による大きな誤解を生みかねない記述が見受けられました。

以下に心理カウンセラー・アートセラピストとして思ったことをまとめたいと思います。尚、記事全てを批判しているわけではなく、記事文章後方に書かれていた筆者の特定の療法に関する私見についてを指摘しています。

 一部の心理療法や技法に関してミスリーディングな記載がある

【問題の部分引用:その1】今のところ確固としたエビデンスがある心理療法は「認知行動療法」と呼ばれるものです。逆に、「精神分析」「箱庭療法」「描画療法」などにはほとんどエビデンスがありません。(記事からの抜粋

筆者の例に出した、心理療法の種類である精神分析の流れを組む精神力学系療法、箱庭療法、描画療法(アートセラピーに含まれる)は、全てエビデンス(科学的根拠)の存在する心理療法です。

『ほとんどエビデンスがありません』の定義がどの程度のものなのかは、筆者本人に直接聞かなければ分からないものの、後続の文章で、

【問題の部分引用:その2】しかし、残念なことに日本ではこれらの療法の人気が根強く、エビデンスを軽視して、今でもこうした方法に固執している「専門家」はたくさんいます。(記事からの抜粋)
【問題の部分引用:その3】したがって、もしメンタル不調の相談に行って、「箱庭をやってみましょう」「絵を描いてみてください」などと言われたら、セカンドオピニオンを求めるか、ほかのところに行ったほうが賢明だと思います。(記事からの抜粋)

この書き方は、あたかも「精神分析」「箱庭療法」「描画療法」はエビデンスに基づかない療法であり、さらにはエビデンス(科学的根拠)を軽視・または無視した人々が「専門家」として活動している、という誤解を産むのに十分な表現だと思います。

認知行動療法が、エビデンスベースドと呼ばれる大きな理由に、症状をピンポイントで『数値に測りやすい』という点があります。そもそも、認知行動療法は症状の減少に焦点を当てたピンポイントの治療法です。症状の状態の変化が数字に量りやすいため、効果を実証しやすく文献数も数多くあることが特徴です。アメリカでは、保険や政府からの補助金の申請に、認知行動療法による報告書を義務化するクリニックや相談機関が一般的で、そのためセラピストたちも、他の療法をしていても認知行動療法に解釈を落とし込んで報告書を書いている方がとても多いです。これは他の療法よりも飛び抜けて優れて治療の効果が高いから、というよりも数字で変化が分かりやすく治療が短期間で終わりやすいため保険会社が好むから、という利点があるからです。

しかし、それがイコール認知行動療法が科学的根拠に基づくと認められている唯一の療法ではありません。

例えば、文中で例で出されていた精神分析の流れを汲む精神力動療法は、症状のみを対処というよりも個人の人格形成であったり個人の生き方、親や対人との関係性など振り返りながら洞察力を深めていく理論。内面の変化を迎えていく上で問題だった症状の改善が付随するため、どちらかというとケーススタディのような形で、症状の数値化というよりも個人の治療の流れを追っていくような形で効果を実証する研究はたくさんあります。また、長期で見ればクライアントさんの症状の再発率が認知行動療法に比べ低かったといった文献(下に参照)もあります。

また、箱庭(サンドトレイセラピー*サンドプレイの場合はユング派精神分析のテクニックになります)、描画を含むアートセラピー・表現セラピーは、本来は、言葉以外のコミュニケーション等に注目した手法・手段を指し、その使い方は多岐に渡り、認知行動療法をベースに行うことも出来ます。そのため、そもそも筆者の、箱庭療法や描画療法に関する理解が乏しいのではないかと思います。しかし箱庭や描画そのものを療法とした効果を見た場合、精神力動療法のようにケーススタディで治療の効果を図る方法もあれば、最近の脳科学の研究から、クリエイティビティが実際に脳のどの機能に刺激を与えているのかを脳波や脳スキャンで測定したもの、ストレス要因のコルチゾールなど生物学的な数値を測ったもの、症状の減少を数値化した研究などから心理的・身体的に効果がある療法であると実証されています。

『エビデンスベースド』療法というと『認知行動療法』のことを指すことは確かです。しかし、科学的根拠を謳った場合、この筆者が説明する、根拠のほとんど無いとする「精神分析」「箱庭療法」「描画療法」はすべて科学的根拠を持つ歴とした心理療法です。そのため、筆者の説明は読者に事実とは異なる情報を提供していることになります。

一般読者が対象の記事内で書く内容ではない

この記事を書いた教授は、エビデンスベースドや認知行動療法にとても入れ込みの強い方のようです。自分の支持する理論を軸に、他理論を批判する方はアメリカにも存在しています。

しかしながら、公の場で、しかも一般読者に対して「どのような心理カウンセラーを選べばいいのか?」の一般情報を提供する場において、一部の理論を事実に基づかない情報(私見)を元に、批判することのインパクトを果たしてどこまで考えているのでしょうか?

例えば、精神分析・精神力動系のカウンセリングをすでに受けているクライアントさんがこの記事を読んで、どう感じるか。

また、子供のセラピーを探している親御さんや、言葉に説明するのが難しくて、言葉が話せなくて、創作活動に感情表出のアウトレットを見出していたクライアントさんが、「描画療法」や「箱庭療法」の選択肢を断念してしまうきっかけになったとしたら。

この記事の情報を読者がどう受け取るのか、そのインパクトを想像するよりも先に、自分の理論の正当性を伝えたいメッセージが全面に出ている状態に、わたしはとても残念な気持ちになりました。

これが認知行動療法やエビデンスベースドの学会誌などで発表されているのならば「勝手にしてください」と受け流すと思います。しかしながら、ヤフーニュースという大手のニュースサイト、大勢の方が目にする場で、ただでさえ心理カウンセリングの情報が錯乱している中で、このような情報の書かれ方があったことにとても残念な気持ちとクライアントさんを適切な療法につなげることを難しくさせる危惧を感じました。

認知行動療法が合わないクライアントさんもいる、人に合わせて多様な選択肢があった方がいい

アメリカの心理カウンセラーの試験では、臨床心理の現場で使われることの多い心理理論・心理療法のテクニックの基本知識を持っていることを求められます。5種類ほどのメジャーな心理理論から派生して更に細かな心理理論や療法があるので、大学院で学ぶだけでも20種類ぐらいの療法があると思います。これらの理論や療法は全て、ポジティブな心理効果がある事がすでに研究などで証明されている上、現在も様々な心理学者たちが研究を重ね、新しい理論や療法が誕生しています。

こんなにも多数の理論が存在しているのは、クライアントさんのタイプや、悩みや葛藤の種類、または社会的立場の違いや家族背景、人種、文化背景によって、合う心理理論があれば合わない心理理論や療法が存在しているからです。

学校のクラス一つとっても、静かに読書するのが好きな子もいれば、外で体を動かす体育の授業が大好きな子もいるなど、同じ歳、同じエリア出身者であってもその人が持つ傾向は一人一人違いますし、好みも、物事の受け取り方も違います。

心理カウンセリングにも同じ事が言え、「この理論の方が科学的根拠が多くて安心できるはずだからこっちの方が良い!」という言い方は本来は出来ないはずなのです。

わたしも、自分が得意とするスタイルは持ちつつも、クライアントさんによっては、認知行動療法の方が合うな、とか、精神力動と認知行動療法のコンボで行こうかな、とか、〇〇療法のこのテクニックを取り入れたアートセラピーをしてみようかな、とか臨機応変に様々な理論や療法をアレンジして対処しています。そして、それが出来るくらい様々な療法について理解を深めることを常に心がけています。

人により、その時の状況により、合う理論・療法も変わってきます。それにより、様々な理論や療法・テクニックのカスタマイズ化があっても良いのだと思います。もちろん一つを極めるカウンセラーがいることも良いと思います。しかし、一部の療法の全てが切り捨てられたような記事の書かれ方に対して、わたしは問題だと感じました。

おわりに

あまり個人の私見を批判するような記事は書きたくなかったのですが、これは誤解を解いておく必要がありそうな内容であったため(アートセラピストとしては尚更)この場を借りて思うことを述べさせていただきました。

精神分析、箱庭療法、描画療法に関する間違った情報とそれにより読者の方に間違ったイメージを持たれてしまうことを危惧し、この記事の掲載元であるヤフーにも問題点を指摘し、内容をもっと普遍的なものに変えていただきたいと要望するメールを送らせていただきましたが、変化がみられた様子はありません。

本来であれば、心理カウンセリングをもっと世間に広く安心して利用していただけるためのきっかけになるはずの記事だったと思います。しかしそれが、最後の最後で個人の私見が強調され、一部のクライアントさんに動揺を与え、そして世間に、一部の心理理論や療法が大きな誤解と不信感を与えてしまう内容となってしまったことに、とても残念な気持ちです。ただでさえコロナによるパンデミックによる影響で、いつも以上に心理カウンセリングを必要としている方も増えていると思います。そのような世情の中で、適切な心理カウンセリングを必要とする人のもとに届けるための記事を書く上で、なぜ一部の理論を一方的に批判するようなニュアンスを含める必要があったのか。疑問でなりません。

本当は静観しようか悩みましたが、ツイッター(最後に添付)でコメントした際に反響を頂いたことがきっかけで、このような問題提議と世間の偏見に対する改善を行っていくことは、日本の心理カウンセリング界をもっと普遍的で利用しやすいサービスにつなげていくために必要な活動かもしれないと考え改めました。この件について、みなさんはどう思いましたか?この投稿に関してでも、Yahoo記事に関してでも構いません。様々なご意見をお待ちしております。

長くなりましたが、ご覧くださりありがとうございました。

わたしがこの記事を書くにあたり参考にした文献(一部)も後方に記載させていただきます。

参照:

CBT and Psychodynamic Psychotherapy A Comparison

The efficacy of psychodynamic psychotherapy.

CBT Versus Psychodynamic? No!

https://www.apa.org/topics/therapy/psychotherapy-approaches

Gehart. D. (2013). Theory and treatment planning in counseling and psychotherapy. Brook/Cole Cengage Learning. Belmont: CA.

Hass-Cohen. N., & Carr. R. (2008). Art therapy and clinical neuroscience. Jessica Kingsley Publishers. Philadelphia: PA

Malchiodi, C.A. (2007). The Art Therapy Sourcebook. 2nd. McGraw-Hall. New York: NY.
Perry Magniant, R.C.(2006). Art Therapy with Older Adults: A Sourcebook. Charles C Thomas Publisher, Ltd. SPringfield:IL.

Siegel, D. & Payne Bryson, T. (2012). The whole brain child: 12 Revolutionary Strategies to Nurture Your Child's Developing Mind. Random House, Inc. New York: NY.

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