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I'm not alone.②到着編

 前回はこちら。


 長野道・筑北PAにて7時頃起床、ちょっと走って姨捨SAで朝食。
 前夜に食べた、山賊焼きの乗ったピリ辛ラーメンの気配が体内に色濃く残っていたため、朝は軽めに。

 売店で『雷鳥の里』のパッケージに描かれた雷鳥のカラビナを発見。
 先述のとおり『雷鳥の里』という菓子が好物なのはむろんだが、雷鳥そのものも好きだし、パッケージの絵柄もすごく好みだったから、めちゃくちゃ良いものを見つけたとテンションが急上昇。目にするなりレジに持ってった。

左がお菓子、右がカラビナ。

 毎朝恒例の「おはツイ」をし、時刻は8時―待ち合わせの場所は、そこから30分程度。
 いつき氏に到着予定時刻を連絡する。

 なにぶんSNSで知り合った、初対面の人である。
 あんまり朝早くから押し掛けるのもいかがなものか…という懸念がないではなかったが、滅多に会えるでもなし、なるべくであれば多くの時間を共にしたい。
 先日やりとりをする中でおそるおそる「できれば早めに落ち合いたいのですが…」と打診すると「自分もそのつもりでいた」との快諾をいただいた。
 ありがたみが深い。

 高速道路を降り、目的地までの所要時間が徐々に減っていくにつれ、どうしても、人と初めて会うことへの緊張が高まる。相変わらず車内には怪談がそれなりの音量で響き渡っているが、内容が全然アタマに入ってこなくなる。

 SNSにいる方でこれまでも数人、自分から声を掛けて実際にお会いすることはあったけど、この世にひとりとして同じ人がいない限り、こういった機会に「慣れ」というのは存在しない概念である。少なくとも俺にとっては。

 道を少し間違えてしまったため、連絡した時間より10分ほど遅れて到着すると、あらかじめ聞いていた特徴の車が既に停まっている。
 俺が車を降りると向こうも気付き、ここに初対面を果たす。8時40分。
 互いに少しはにかみながら挨拶を交わし、手土産を交換する。

 そのまましばし立ち話。
 千曲川に面した公園で、ひらけた空は晴れ渡り、初冬の風が少し冷たい。
 相手と言葉を交わすことで、それまでの緊張が、少しづつ安堵へと姿を変えつつあった、その時―

 「即身仏に興味はおありですか?」と、いつき氏。
 「あるにきまってるじゃないですか…」と即答しつつ、俺は急速に湧き起こる感動を禁じ得ない。
 この人は、俺の行きたいところを知っている。

 詳細はのちに譲るが、即身仏を見ることのできる場所が新潟にあり、以前から気にはなっていたが、その興味を共有できる同行者もおらず、かといってひとりで行くのも―と躊躇っていたそうだ。
 その気持ち、めっちゃわかる。

 「アートモバイルさんと行くために、とっておいた場所なんですよ…」と冗談めかして言うその男に、俺は自分と同質の気配を感じ取らずにはいられなかった。

 この日の旅程はすべて、現地民であるいつき氏に一任してあったため、あえて俺は下調べを一切せずに出掛けていった。
 豊かな自然、雄大な山々に囲まれ、また善光寺や上田城跡など歴史を感じさせる見所も多彩な長野である。
 さて、どんなところへ連れていってくれるのやら…と、めくったカードが、まさかの「即身仏」。
 だいたい長野じゃねえし。新潟だし

 風光明媚なその場所で、「即身仏ですか…実にけっこうですねぇ…」と仄暗い笑みを浮かべる男たちの旅がいま、はじまる。

*

 ではそろそろ行きますかとなった段で、俺はとあることに気付く。
 千曲川を背にして立つと、「戸倉上山田温泉」という温泉街―並び立つ観光旅館の類が視界に入る。
 そのすぐ背後に迫る山の山肌に「♨泉温田山上倉戸」という文字。

※写真を撮り忘れてしまったので、他所様の記事を引用させてもらいます。この記事のトップにある写真が件のそれ。

 右から読む必要があることだとか、字の配置されている高さや字間がまばらであるとか―その様相に、俺の”面白センサー”みたいなものが微妙に反応する。
 また、その山の上には何やら寺院のような建物も見える。
 「登ってみましょうか?」といういつき氏の提案にうなずき、彼の愛車に同乗させてもらうと、その公園をあとにした。


 次回へつづく。

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