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巨匠の試し書き 秘密の小部屋 n.1

ずっと昔に聞いたことがある。

古参の学芸員が言ってたんだ。

地下に繋がっているって。

フィレンツェにあるメディチ家礼拝堂は、その名の通りメディチ家の礼拝堂があり、メディチ家一族が埋葬されているところでもある。

簡素な石造の建物からは想像もつかないほど、内部は色で埋め尽くされおり、礼拝堂に一歩足を踏み入れた者は、その色面積の大きさ、モニュメントの大きさに圧倒され、あんぐりと口をあけたまま、しばらく目に映る光景に立ち尽くしてしまう。

さらにその先には、新聖具室がある。白とグレーの2色を基調にしたシンプルな室内には、若くして命を落とした、メディチ家の二人の人物を弔うモニュメントが置かれている。内装とモニュメントを担当したのは、ルネッサンスの巨匠ミケランジェロである。

フィレンツェには、中世時代からルネッサンス時代にかけて製作された教会、邸宅、モニュメント、絵画、彫刻など、小さな街に、ぎゅっと凝縮されている。ウフィッツィ美術館やアカデミア美術館と比べると、メディチ家礼拝堂は、そこまで目立つ観光スポットではないかもしれない。

それでも嬉しいことに来場者は年々増加している。にも関わらず、出入り口はたったひとつ。新聖具室においては、非常事態が発生したときの非常口も設けていない。

どこかに作らなければならない。

うーむ。と考えているとき冒頭の言葉が頭に浮かんだ。

地下に繋がっているって。

もし本当に地下があるなら、そこを改装して新しい出入り口を作れば、非常口としても利用できるかもしれない。

誰も見たものはいない、その地下は本当にあるのだろうか。

半信半疑で新聖具室に行き、主祭壇の左右にある小部屋を覗いてみた。ぎっしりと家具や物が詰まっており、完全に物置状態だ。とても地下に繋がっているようには思えない。

気を取り直し、スタッフに物を撤去させるように命じる。換気のない小部屋で、もうもうと立つ埃と格闘しながら、ひとつひとつ取り除いていくと、少しづつ床面が見えてきた。

うん?

小部屋の床はすべてテラコッタ製のはずなのに、家具を置いている床面から木製のような茶色が顔を出している。

フィレンツェは5年間のみイタリアの首都になる。当時は王政でサヴォイア家が国王となった。赤地に白十時のサヴォイア家の大きな木製の家紋なども置いてあった。

重い調度品をスタッフがようやく撤去すると、木製の床が現れた。

うわ!なんだこれは!
いつからここにあったんだろう。

スタッフ達も集まってくる。

時代を感じさせる甘色の木は、床ではなく扉のようである。

宝探しをして発見したような高揚感にどきどきする。

取手があるので、それを引いてみた。

次回につづく。


    
久しぶりの投稿です。
立ち寄ってくださり、ありがとうございます。

23年冬から、メディチ家礼拝堂に残されている、ミケランジェロが描いた地下小部屋が試験的に一般公開されました。狭い空間で、美術館には必須の非常口もないことから、完全予約制で、一度に入れるのは5人だったと記憶しています。

入場券の販売が開始された直後は、まだ余裕があったので悠長に構えていたら、報道された翌日から世界中から予約が殺到し、あっという間に完売。第二回目の予約販売をいち早く聞きつけたので、2月の販売開始の時点で5月の切符を購入することができました。現在7月31日まで公開予定で、それ以降の販売は案内されていません。

狭い階段を降りた先には、力のあるダイナミックな筆跡で横長の壁に大きくデッサンされており、その迫力に圧倒されました。係員が付いて案内しますが、わたしが訪問したときの担当者がとても詳しく説明してくれたので、より深掘りしたくなり、係員が勧めてくれた書籍を購入し、それが、今回の物語の参考書になっています。

秘密の小部屋を発見したパオロ氏は、この書籍の作者です。

2回目は、世紀を経てようやく壁のデッサンが発見されるシーンです。

ぜひ次回もお立ち寄りください!

作者:Paolo Dal Poggetto

最後までお読みくださり、ありがとうございます!!




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