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中村好文さんの住宅建築を見て・・・

能登地方の在来工法を生かした木の外観。正面の入り口はお住まい、側面がお店への入り口

住宅建築の巨匠である中村好文さんの著書はこれまで何冊も読み、雑誌記事もいくつか見てきたものの、実際の建物を見たことは一度もありませんでした。
一度この目で見てみたい!そんな思いから、昨年竣工した石川県中能登のパン屋さん「月とピエロ」の長屋さんにお願いし、店舗・工房兼ご自宅を見学させていただきました。

初めて見る中村好文さんの建物は想像していた以上に空間のつながりやディテールが素晴らしく、見学中は感動しっぱなし。見学後も、しばらく放心状態。

土地になじむ外観

外観は地域の伝統的木造外壁の技法も取り入れた木造建築で、新しい建物であるに関わらず、周りの環境に気持ちよく馴染んでいました。
建物の前に玄関とお店へのアプローチがある庭があり、お住まいは正面玄関から、お店は右側側面が入り口となる。建物前に4台ぐらい駐車できるスペースが。
建物は、パンを販売するお店・パンを作る工房、長屋さんのお住まいと3つの機能で分かれた空間に。最初、お店の入り口から入り、おいしいパンを買った後に、店内、工房、そしてお住まいを見せていただきました。

絵画のように見える窓

窓がまるで、壁にかけてある絵画のよう。
すでに中村好文さんの建築写真で見ていた時、そうは思っていたのだけど、本当にそうなのだと驚きました。
それぞれの窓を絶妙にフレーミングしているので、どの窓もそれぞれの景色が切り取られていて気持ち良く、まるでマジックのよう。
よく新築2階の窓が、隣の家の窓と重なっていてバツが悪いなんて事があるけど、中村好文さんの設計にそれはありません。
今回中村好文さんの提案で2階を生活空間の基本にすることで、普段の見える暮らしの切り取る風景が変わるという提案があったと聞き、なるほどと納得しました。

ちょっと座りたくなる絶妙な窓際

自然光の取り入れ方

窓効果はそれだけにとどまりません。
訪問した日は、雨天で暗いにもかかわらず、お住まいのどの部屋も自然光のみでした。
照明をつける必要がないのです。居室はもちろん、仕事場であるパン工房も絶妙な位置の天窓があり、適度な光量を得ていました。すべての生活空間は、まるでフェルメールの絵にある室内のように自然な光だけで満たされていたのです。
長屋さんがフランスまで行って直輸入した重厚で格調のあるパン用のオーブンやスイス製の木製の製粉器など愛おしい道具たち満載のパン工房。それが自然な光により、18世紀のまだ人工光がなかった時代の風格と歴史観を漂させている空間になっていました。
パンオーブン内を見るためのオーブン上に後付けしたフランス製の丸味のあるしっかりしたアームライトが極上のアクセントに。
どの部屋に案内されても、自然光による外の気配や時間や四季の移り変わりを存分に感じ体感できる贅沢な時間と空間がそこには存在していました。

自然光に包まれ、風格がただようパン工房

最小限でも十分な照明

もちろん夜のために必要な最低限の照明はついています。
それがまた、照明とスイッチの絶妙な位置と使い分けがされていて、単に明るいだけの日本の住空間とはまったく違うのです。必要な時に必要な場所に照明が使えるようにスイッチと照明が割り振りされていて、自然に手がいくキッチンのサービステーブル脇にスイッチが設置されているのには驚きました。
使い手が必要な時に必要な場所の灯りを使える。結果日中と同様に、空間に適度な陰影ができ心地よい住空間になるのだと思います。
これもまた、快適と豊かさの先にエコがあるということなのだと実感しました。

それぞれ必要な場所を照らすスイッチ。テーブルトップ断面の丸味や、木の取手にも注目


空間のつながり感と心地良い変化

驚いたことのもう一つは、各部屋の空間のつながり方。 それぞれの目的の室内は無駄のない適切な大きさであるが 引き戸を多く使い、開けることにより空間のつながりが 隣から隣へと抜けていく 。
長屋さんご夫婦のお二人が互いに異なることをしていても、つながりを感じられる空間の一体性がとても気持ち良いのです。

一階は、玄関からお風呂炊き出し口、特徴的な釜だき土のお風呂、トイレ・洗面・洗濯機が一体となった着替え室、廊下、周り階段、和室、廊下、工房、お店とつながっています。


回り階段を廻ることで、仕事との切り替えができる


2階は、回り階段を使い、暮らし空間へ。
寝室・クローゼット室、廊下、物干しを兼ねる吹き抜け、小ぶりな書斎コーナー、リビング、キッチン、パントリー、とくらしの所作が続いていく。
それぞれの目的に合わせた巧みな空間構成により、空間、造形、光の変化が心地よいのです。
そしてどの部屋や廊下や階段のそこかしこに、たくさんのちょっとした工夫や造形があり、もう楽しい、うれしい、そんなディテールが満載!

2階階段上り口の壁にある折りたたみ式姿見。最高のライティング位置で、姿を確認できる


動線を巡ることにより、それぞれの機能がたくみにしつらえられ、かつ気持ち良いつながり感、仕切り感、開放性がたくみに混ざり合った空間になっていて、楽しく、気持ちよい、絶妙なバランスの一体感のある 空間になっていました。

琉球畳の和室小部屋。ちょっとした書斎にもなるよう、床下に足が入れられる

全体構成は機能的に振り分けられ適度な仕切り感があり空間が単調にならない適度なリズムを感じる。
仕切りになる棚の高さが圧迫のない高さに抑えられ、上方の空間が抜けたり、隣の仕切り壁に障子が仕掛けられ、開ける締めるで空間の趣、抜け感、光の加減が変わるようにしつらえている。


少しおこもり感のある、でも開放感もあるこぶりな書斎


ディテール効果

そこここの絶妙な丸味が、なんとも気持ち良い。キッチン周りや丸い柱、周り階段のディテールなど、手や体が触れる部分にちょっとした丸味のある造作がされ、基本はすっきりした直線的な機能的室内空間に潤いや楽しさ、安心感を与えてくれます。
キッチンの引き出しなどのつまみはオリジナルの木製つまみで、かわいらしいアクセントになっていて、つまみたくなる。お店のトイレやお風呂着替え室に使用してある、真鍮の取手、ストッパー等の金具も優美でかわいらしく、かつ動かして楽しい。
お店の巾木は、なんと銅板。パン工房に納められた巨大なオーブンからの熱を無駄にせず、床暖房に有効に使う仕組みになっている。銅板巾木とペアの床暖房用木製吹き出し口が美しい。
パン工房は大きく二つの部屋に分かれ引き戸で仕切られているのですが、境目の引き戸の下レールがない設計で、引き戸をあけたとき床の段差がまったくなく部屋が続いていました。足の裏側がスムーズに動かせ、仕事で移動するにも、清掃にもとても使いやすい配慮がされています。
使う側のすべての行動を細かく考え抜き、いかに普段気持ちよく使えるかが配慮されている空間でした。

パン工房二つの部屋の境目は、引き戸を開けると能登ヒバの床は一体になっている

店内の床・壁の仕上げ材

店内の壁材は米松の素直で端正な表情と細やかなスリットが適度なリズムをつけていました。
居室の床は地元材の能登ヒバで構成され、足にやさしく気持ちがよい。

お店の壁面材である米杉の美しい構成

これからのことも考えて

リビングの納戸の上の飾り棚。実は将来エアコンが必要な時、穴があけられ、設置できるようにとの配慮だそう。分電盤も納戸の中壁際に収まっていました。

この凹み今は、飾り棚。必要であえればエアコンの吹き出し口に!

プロの凄さとユーザー目線

私はエコ研究集大成のライフスタイルとして、食とエネルギーをテーマとしたエコハウスを作ろうと考えています。
そして最初、自分で基本プラン図面を描いて、地元の工務店にお願いしようと考えていました。私は工業デザイナーで図面は描けるので、基本プランは書けるだろうと考えていたのですが甘い考えでした。
所詮私は建築家でないので、動線の基本プランはなんとか描けるものの、どうしても気の利いた開口部が描けない。
実際に建築が建った時に室内空間として気持ちのよい窓になっているのか?
分からないのです。
元々開口部は広く、明るいのが好きではあるものの、窓が大きく多ければ良いわけでもない。窓が多すぎれば、室内における調度品などの限定が多くなり、周辺環境の取り入れ方にも影響する。
快適な暮らしのためには、絶妙な開口部と空間構成がいるのだと悟ったのです。

私は、これまでも多くの個人住宅の資料を読んできましたが、今回の挫折も踏まえて行き着いた境地が、中村好文さんの設計なのです。
設計段階で、出来上がった時に、こんな窓や光になるのかが推測できる力。
そして生活者目線で、なにが本当に必要なのかを熟考する力。
さらには幸せに暮らせるために、中村好文さんのくらし目線が細かいところまで行き届いているのがすごいと感じます。

最後に施主であるお二人からの言葉

本当にこの家に住めて幸せです。
暮らしも仕事も元気に毎日くらせます。
ありがたい。しあわせです。

なんとデザイナー冥利、建築家冥利の使い主からのお言葉なのでしょう。
私も心からそう言える家をつくりたいです。









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