見出し画像

アートケアだより 2024年9月号

●夏の成長

長い夏休みが明けると、ぐんと成長した姿を見せるお子さんが少なからずいます。
自分の時間が持てるからでしょうかねぇ。でも保育園や学童に行っている子は生活時間があまり変わらないと思います。いつもより少しのんびりできるのかな? 
夏独特の開放感、夏休みだからできる冒険、思い出になるような経験。いろんなことが相まってのことなのでしょう。
表現の面でも、夏休み終盤や夏休み明けのワークで、子どもたちはポンと成長した姿を見せてくれます。

●デ・キリコの世界観に共感する6年生

6年生のKannaちゃんは、夏休みに「キリコ展」に行ったそうです。図録を買うほどの熱心さ。

Kannaちゃん「キリコは、私の好きな世界観に近くて。なんていうか、哀愁、みたいなものが感じられて好きなんです」
冨田「哀愁!ホントそうだね。あと、時が止まったような静けさとか、時が止まっているようでいて永遠、みたいな感じもある」
Kannaちゃん「うんうん、ありますね」

Kannaちゃん「今日、描いた『マヌカン』は、顔に表情が描かれていないんだけど表情が伝わってくるというか、そういうふうに描いてみたいなって思って描きました」
冨田「なるほどー。前に展覧会で『見た人に、どんな感情が生まれるか自由に想像してほしい』という色の抽象画を出したよね。Kannaちゃんのテーマの1つなのかもしれないね」

Kannaちゃんとお話すると、思考を言葉にする豊かさに感じ入ります。
そして単に「何を描こう」「上手に描こう」ではなく、作家の意図、観る人の受け取り方、描かれているものの向こうに見えてくるものについて考えて描いている。

子どもたちと話すと、深く考えていることを伝えてくれて感心することが多々あります。その子ならでは、その年齢ならではの、豊かな思い。こちらもハッとすることが多いです。

Kannaちゃんは4年生の頃、「ティム・バートンの世界観が好き」と、彼へのオマージュのような少女像を描いていました。色々なアーティストに刺激を受けて、思索し、進化を続ける姿に頼もしさを覚えます。

長年、描き続けている「マイキャラクター」があり、そのニュアンスを今回の『マヌカン』にも入れています(左下の小さなマヌカン)。
そんなお茶目なところもKannaちゃんの魅力。

Kannaちゃん6年生 キリコ展の図録を見ながら
自分なりにアレンジして表現

●線を見つける イルカを描いた4年生

k.uちゃん4年生は、イルカがジャンプしている様子を描きたくて、一生懸命、鉛筆で下書きしています。
イルカの絵をキャンバスに描こうと計画していて、キャンバスに描く前に、画用紙に練習で描くことにしたそうです。
見本の写真を見ながら描くのですが、なかなかに苦戦。描いては消し、描いては消しを繰り返していました。

冨田「いったん、別の紙に練習しようか。まず、イルカの背中の辺りのカーブを、見本を見ながら、描かないで頭の中でなぞってみて
k.uちゃん「?!」
冨田「シュ〜、シュ〜って」
k.uちゃん 描線を想像する
冨田「どう?線が見えてきた?  じゃ、描いてみようか」
k.uちゃん描く
冨田「まだちょっと難しそうだね。そしたら、手元を見ないでカーブを描いてみよう
Uちゃん「え?!」
冨田「大丈夫、練習だから。やってみよう
k.uちゃん描く
冨田「そうそう、じゃぁ次は、見ながらカーブを描いてみて」
k.uちゃん描く。間違えたと感じて消しゴムで消し始める。
冨田「あ、間違えても消さないで線を残してみて。線を消しちゃうと、どこが違っていたかわからなくなっちゃうでしょう。線が残っていたら、どう変えればいいかがわかるよ。画家の人たちもたくさんデッサンして線を見つけているんだよ。練習だから、消さないでやってみよう」
k.uちゃん描く
冨田「そうそう、そこをカーブ!そうだね、もう1回」
k.uちゃん何度も描く
冨田「おお!だんだん線が描けてきた。じゃ、本番の紙に描いてみよう」
k.uちゃん本紙に描く
k.uちゃん「あ、違っちゃった」
冨田「大丈夫、微調整で済むよ。全部消すのではなく、ここを消して直してみよう」

イルカの流線型を模索
間違えても消しゴムで消さない

・・・というプロセスを経て、描いたのがこちら!
k.uちゃん、粘りました!

k.uちゃん4年生 
何度も描いて線を見つけました

冨田「いや~お疲れ様!そういえば、なんでイルカを描こうと思ったの?」
k.uちゃん「夏休みにイルカと泳いだから
冨田「えー!!うらやましい~!イルカってどんなだった?」
k.uちゃん「触ったら固かった」
冨田「そうなんだ~」

冨田「ここに影とかつけてみたい?」
k.uちゃん、うなずく
冨田「じゃあ、鉛筆でこんな感じで・・・あと色鉛筆で、色を重ね塗りしていくといいよ。たとえばこの色とこの色、この色を重ねてみる。他の紙に試してみると安心だね」
k.uちゃん、ずっと描く
冨田「これはもう下書きというより1つの作品になっているから、これはこれで鉛筆と色鉛筆で仕上げたらどうかな。キャンバスはこれとは違った塗り方になるから、雰囲気の違う作品が両方でき上がるよ」

できないなと思っていたことができるようになるって嬉しいですよね。粘ることができるメンタルがすごい。イルカへの愛もあるのかな。がんばって乗り越えたい気持ちが高まっていたタイミングだったのかな。
次回以降、キャンバスの作品も楽しみです。

夏の成長を経て、芸術の秋へ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?