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【#52】材料力学の強化書 〜降伏条件と降伏曲面について(2)〜

今回のトップ画像は、大韓民国(韓国)の首都のソウルにある歴史的建造物のひとつ「中和殿」の外観です。国家の重要な儀式を行う場所として知られており、中でも正殿である太和殿は歴史的に重要な場所だそうです。

さて、材料力学の話に戻りましょうか。

前回は材料の降伏条件について確認しました。降伏条件として代表的な「トレスカの降伏条件」「ミーゼスの降伏条件」について説明しました。

今回から多軸応力状態の塑性変形の開始(降伏)を決める「降伏曲面」について見ていきます。降伏の開始から加工硬化に至るまで、塑性変形に伴う降伏曲面の変化を一緒に確認していきましょう。

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降伏条件 〜復習〜

材料が降伏する応力を決定する式を「降伏条件」と言います。例えば、x方向の単軸引張問題における降伏条件は、降伏応力を$${\sigma_y}$$とすると、

$${\sigma_x=\sigma_y}$$

と表すことができます。つまり、塑性変形を起こしている材料とは、常に降伏条件を満たす応力状態であるということです。

実際の変形は単軸応力状態ではなく、多軸応力状態で生じるため、降伏条件は多軸応力に対する関数として定義します。

$${f(\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3)=\sigma_y}$$

この式を「降伏関数」と言います。3つの主応力の関数として表現します。 上記のようにイコール(=)を満たした応力状態が降伏になります。

・弾性領域:$${f(\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3)<\sigma_y}$$
・塑性領域:$${f(\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3)>\sigma_y}$$

降伏関数が応力空間に描く曲面のことを「降伏曲面」と言います。

降伏曲面(平面応力状態)

トレスカの降伏条件は次の通りです(kは臨界せん断応力です)。

$${\sigma_y=\sigma_{max}-\sigma_{min}=2k}$$

また、ミーゼスの降伏条件は次の通りです。

$${\sigma_y=\sqrt{\frac{1}{2}[(\sigma_1-\sigma_2)^2+(\sigma_2-\sigma_3)^2+(\sigma_3-\sigma_1)^2]}}$$

説明を簡単にするために、2次元の平面応力状態を仮定します(ふたつの主応力が存在するものとします)。

トレスカの降伏条件に従うとき、次の6つの状態が想定されます。これを応力空間で整理したものが上図になります。

・$${\sigma_1>0>\sigma_2}$$:$${\sigma_1-\sigma_2=\sigma_y}$$
・$${\sigma_2>0>\sigma_1}$$:$${\sigma_2-\sigma_1=\sigma_y}$$
・$${\sigma_1>\sigma_2>0}$$:$${\sigma_1=\sigma_y}$$
・$${\sigma_2>\sigma_1>0}$$:$${\sigma_2=\sigma_y}$$
・$${0>\sigma_2>\sigma_1}$$:$${\sigma_1=-\sigma_y}$$
・$${0>\sigma_1>\sigma_2}$$:$${\sigma_2=-\sigma_y}$$

次にミーゼスの降伏条件に従うとき、平面応力状態では次のようになります。

$${{\sigma_1}^2-\sigma_1\sigma_2+{\sigma_2}^2={\sigma_y}^2}$$

これは主応力軸を原点まわりに45°回転した楕円を表します(計算過程は下記の通りです)。

単軸応力状態では両者の状況は一致しますが、多軸応力状態では乖離が発生していることが分かります。

近年ではこの降伏曲面を明らかにするために、様々な実験(引張・圧縮試験)の結果が報告されています。ミーゼスの降伏条件の方がトレスカの降伏条件に比べて妥当であることが明らかになってきています。

降伏曲面と硬化則

降伏曲面は負荷および除荷に伴い、応力空間中を移動します。これは応力ーひずみ線図における降伏後の加工硬化に対応します。

移動方法としては主にふたつあります。降伏曲面が等方向に拡大する「等方硬化則」と、降伏曲面の形状は変化しないで降伏曲面の中心が応力空間上を移動する「移動硬化則」です。

等方硬化則は引張側と圧縮側の加工硬化を表現することができます。最も簡単な表現方法ですが、バウシンガー効果は再現できません。

先程の2次元の平面応力状態において、等方硬化則を考慮した降伏関数は、ミーゼスの降伏条件に対して次のように表現できます。

 $${f(\sigma_1,\sigma_2)=\sqrt{{\sigma_1}^2-\sigma_1\sigma_2+{\sigma_2}^2}-\sigma_y(\epsilon_p)=0}$$

ここで、$${\sigma_y(\epsilon_p)}$$は降伏曲面が塑性ひずみの進行に伴い変化(膨張)することを表しています。

移動硬化則は内容は複雑ですが、バウシンガー効果を再現できます。先程と同じく2次元の平面応力状態において、移動硬化則を考慮した降伏関数は、次のように表現できます。

$${f(\sigma_1-\sigma_{10},\sigma_2-\sigma_{20})=0}$$

つまり、$${\sigma_{10}}$$と$${\sigma_{20}}$$が降伏曲面の中心の移動量を決めます。これには塑性ひずみに依存する考え方と応力差分に依存する考え方の2種類があります。

おわりに

今回は降伏曲面の考え方について確認しました。塑性変形に伴い降伏曲面が変化するということは、塑性変形の経路(履歴)に従って変形挙動は変化することを示しています。

降伏曲面は塑性変形を理解する上では重要な考え方になります。降伏局面の変化は等方硬化則と移動硬化則を合わせたものとして表現されます。そのため、このふたつを理解して頂ければ、大抵の材料には通用します。

興味ある方は是非とも別途で参考書を開いてみて、塑性変形の更なる理解を深めて頂ければと思います。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。実際は非定期ですが、毎日更新する気持ちで取り組んでいます。あなたの人生の新たな1ページに添えるように頑張ります。何卒よろしくお願いいたします。

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