弱さと強さ『ぼくと満月』1万回再生に感謝を込めて(12)

アニメーションについて悩んでいる時、友人からとあるアーティストを紹介されました。
それは「ハチ」という当時は活動が止まっていた(後にハチとして新たに楽曲を発表し、現在でもボカロPとしての活動は続いています)ボカロPで、アニメーションのMVをたくさん残しているとのことでした。
彼は今「米津玄師」という名前でも活動していて、そちらの名前の方が多くの人にはイメージしやすいかと思います。
米津玄師としてデビューするまでの3年間彼がボカロPとして活動していた名義が「ハチ」です。

米津玄師はその時既に知っていたし多分どこかでハチの名前も聞いていたとは思うのですが、ボーカロイドというカテゴリをあまりちゃんと聴いていなかった僕はかなり新鮮な感覚でその名前を聞き、作品に入っていったことだと思います。
その時期かなり集中的に楽曲を聴き、MV作品も片っ端から観ていきました。

次々に観ていった中でも特に出会えたことに感謝したのはハチ名義の『結ンデ開イテ羅刹ト骸』と、米津玄師名義の『vivi』という2曲で、『ぼくと満月』のMVを制作する上でのアイディアの元となった作品です。

まず『結ンデ開イテ羅刹ト骸』は2009年ハチとしての作品。
当時絵を描くためのソフトやアプリが今ほど進化していない中、彼はPCソフト「ペイント」を使って”マウスで”このMV作品の絵を全て描き上げたそうです。
このソフトを使ったことのある人はわかるかと思いますが、このソフトでマウスを使って絵を描くということはとても難しい。
そうして描かれた複数枚の絵をスライドショーの形で構成されMVが出来上がっています。
この作品によって「個人でもアニメーションは作れる」ということと、後に『vivi』でも触れますがこの2作品のアニメーションの形式上「絵さえあればMVになる」ということを知り、多くの資金とアニメーションのための特別な機材がなくても、不特定多数の人の琴線に触れるような作品を作ることは可能だということを知りました。

そして2012年米津玄師名義でデビューした年に発表された『vivi』のMV。
この作品も絵のスライドショーで構成されていますが、『結ンデ開イテ羅刹ト骸』よりももっと描かれている絵が洗練されている印象を受けました。
使われているイラストソフトが違うというのもありますが、米津玄師自身の画力向上によるところがきっと大きい。
『vivi』までの3年間でこれだけ進化しているということに感動すると同時に、これほど短期間でなくとも”僕ももっと絵が上達できるかもしれない”と可能性を感じたことを覚えています。
さらに面白いと思ったのは、同じ絵のシーンでも少しずつ線の違った絵をフラッシュさせることによって動いているかのような視覚的効果を生んでいることが分かったことでした。
無理をして精密にキャラクターを動かそうとしなくてもスライドされる絵が良ければ、そして工夫をすれば十分に動きが見えるし、MV作品として成り立つということです。
ちなみにこの形は『ぼくと満月』の歌詞の部分で直接生かされています。
そしてヌルヌルと動くアニメーションに比べると動きが出にくいこのスライドショーの構成は逆に多くの空白を生み、それだけに米津玄師という謎や含み多き作品を引き立たせていて、それはそのままクロモというアーティストや作品にも合うのではないかということを直感しました。

最初はヌルヌル(僕この表現好きかもしれません 笑)動くアニメーションが作れないことからの突破口…と言えば聞こえはいいですが、ある意味妥協案としてのスライドショーでした。
でも色々な人にヒアリングをし、自分で考えて調べてさらにプレゼンを重ねて見つけた結果、一番合うのもこの形じゃないかと思うようになり、僕は楽曲の絵コンテのようなものを自分なりに作った結果”絵描きの方に描いていただいた20枚ほどの絵をスライドショーにする”というアイディアでMV制作をすることにしました。

さあこの時点でまだまともな絵が描けるわけもない僕がどうやってこのあと進んでいったのか、次回の記事に進みます。(あと3回くらいで終わりたい…無理か)

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