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アートは常に平和を希求する。

書きたい欲求

私がnoteを書くときには,展覧会や美術作品に関連して,アートファンではない人にもうまく伝わるように,できるだけ平易な言葉で,できるだけ身近な話題に引き寄せて表現するように心がけています。そうすることで,少しでも美術館やギャラリーに足を運ぶ人を増やし,アートを生活の中に取り込む暮らしが広められたらいいな,と。

人に何かを伝えるためには,文章構成力と情熱,その両方が必要ですよね。特にこの「情熱」というものは,なかなかコントロールが難しい。定期的なペースで書こうと思っても,定期的に「書きたい!」という情熱が起こるわけではないですからねぇ。アンテナを研ぎ澄まし,時には刺激となるもの,刺激となることに触れる機会を作り,自分の感情を揺さぶる。そうすることで,「書かねば!」という意欲が出てきます。

草間彌生さんの「ハレンチ」な活動の意味

そして今回は,ドキュメンタリー映画『草間彌生♾INFINITY』を観て,大いに感情が揺さぶられ,書きたくなりました。

1960年代後半,ニューヨークで制作活動をしていた草間彌生さんは,精力的に「ハプニング」(街頭でのゲリラ的なパフォーマンス)を行なっていました。草間さんが仕掛けるパフォーマンスの多くは,自分自身やスタッフ,通行人・観客が裸にペインティングするようなものだったため,アートというよりも「事件」的に捉えられ,日本においては「国辱もの」「ハレンチの女王」などと言われ,バッシングされていたそうです。小学校だか中学校だかの卒業名簿から抹消すべきというような話まであったとか。

ベトナム戦争によりアメリカの若者が徴兵される時代。草間さんが「裸の肉体」を使ってアートパフォーマンスをした理由として,映画の中では,徴兵でいとも簡単に人が戦争の道具として使われ,死んでいくことに対し,肉体すなわち生命の尊さ,美しさをアピールしたい,という側面があったそうです。

アートが求めるもの

アートというのは,時に「ハレンチ」で,時に過激な表現で,世間を騒がせることもあります。しかし,どんなに過激な表現であっても,実際に武器を持って人を傷つけるようなことはしません。戦争を煽るようなこともしません。武器を持たず,戦争による恐怖,苦痛を描き,理想の情景を描き,追い求めます。つまり,アートはその存在理由からして「平和を希求するもの」なのだと思うのです。

生きていると,たくさんの諍いが起こり,怒りが起こります。それを一人ひとりが様々な工夫で鎮めながら,思考が異なる人同士が,同じ空間に住んでいます。

しかし,私たち人間は,ややもすると同じ考えの者同士が群れをなし,他を排除しようとする思考に陥りがちです。それが争いを生み出し,戦争にまで発展する場合があります。アートは,そんな集団思考に陥らないよう,「人間の生」に立ち返ることを思い出させる,ひとつの装置なのかもしれません。

そしてファッションに

草間さんは「VOGUE JAPAN」のインタビュー(2014年)で次のように語っています。

「毎日,自殺したいと願うほど追い詰められて。自殺を思いとどまらせてくれたのは,絵を描いたり,作品をつくったりすることだった。それは私の生涯を通して,ずっと同じです。芸術への愛を見出して,私は今日まで生きてこられたんです。」

草間さんはファッションで売れるために水玉模様を流行らせた訳ではなく,自ら「生きる」ために生み出したのです。カラフルな色の水玉の繰り返し,そのデザインこそが,自らの「生」を追い求めた結果だったのです。そんな草間さんの「生のエネルギー」を表現した水玉のデザインが,アートとなり,今やファッションとなっているんですね。生の象徴とも言える水玉模様の”Kusamaファッション”が流行すること自体,「平和」の表れのような気がします。

「私のこどもの頃は戦争があったけど、今も世界でテロや戦争、人間に対するたくさんの憎しみや傷跡が絶えません。私は、芸術の力、愛の力をもって、世界中に平和と愛の素晴らしさを届けたい。だから愛を込めて、一生懸命描くの。もっともっと描き続けます」(前出「VOGUE JAPAN」インタビューより)

草間さんにとっては作品を作り続けることこそが生きること,90歳となる今でも精力的に描き続けているようです。

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草間彌生さんの作品は今ではいろいろな場所にありますが,福岡市美術館の「エスプラナード」と呼ばれる,外から2階入口に繋がる階段の途中にはこちらの《南瓜》が設置されています。この作品は香川県直島に設置されているものと同じもので,草間さんが初めて制作した屋外彫刻作品として有名ですね。

それと,長期休館中『モダンアート再訪』と題して福岡市美術館コレクション展を開催した際にこのように広報画像としても使われていた,こちらの《夏》という作品も,現在,福岡市美術館のコレクション展示室に展示中ですので,ぜひどうぞ。

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こんなふうに「平和」について考えている最中,アフガニスタンで人道支援活動をしている中村哲さんの訃報が報じられました。中村哲さんの生き様は,福岡に住む私たちにとって,誇りでした。草間彌生さんをはじめとするアーティストと同じく「人間の生」を第一に,自分の人生を捧げた方でした。ご冥福をお祈りします。


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