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5arts|北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美(東京都庭園美術館)

朝香宮が造らせたアール・デコ様式の邸宅だった「東京都庭園美術館」。
アール・ヌーヴォーからアール・デコの時代に活躍したフランスのガラス工芸家「ルネ・ラリック」。
そのラリックやエミール・ガレといったアール・ヌーヴォー期の代表作を多く有する「北澤美術館コレクション」。
この三位一体が味わえる展覧会です。

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ガラスや宝飾品の展示では、暗い空間で作品に照明を当て、透明感やまばゆさを強調することが多いのですが(そして眼球をやられるのですが)、
本展では、元邸宅というプライベートな空間の柔らかな自然光のなかで、作品と(心理的に)親密な距離感で向き合うことができます。

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ラリック(1860-1945)は工業化が進む近代、ふたつの装飾様式を跨いで活躍しました。さっくりとした認識で

アール・ヌーヴォー(19世紀末~20世紀初頭):有機的、自然モチーフ、曲線、柔らかさ
アール・デコ(1910年代半ば~1930年代):無機的、幾何学的モチーフ、直線、スピード

という感じ。

前者ではエナメルや貴石を用いたジュエリーを、後者ではガラスのアクセサリーやインテリアを制作していました。
ラリックの魅力は、さまざまな技法で多彩なガラスの表情を引き出したことと、写実的な描写で生命力あふれるモチーフ遣いにあります。 

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例えば、後付けの着色でディテールを際立たせる「パチネ」の技法を使うと、冷たく硬いはずのガラスに、布地のような温かさや柔らかさを演出できます。

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また、モチーフを文様としてではなく写実的に描写することで、生々しさが生まれ、工芸作品を芸術として鑑賞可能にしました。トンボのモチーフはアール・ヌーヴォー時代からしばしば用いられ、そちらもまさにトンボ!なのです。
このリアリティのある描写があるからこそ、代表作《トンボの精》のようなキメラにも生命が宿るのです。そいつポルトガルにいるんですよ。。。遠いなぁ。。。

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私の大好きな作品《つむじ風》。着色されているのは黒い部分のみで、彫りの深さと細かい凹凸のある表面で乱反射を起こすことで、金属のような輝きと冷たく硬質な印象を与えます。デザインは娘のシュザンヌが手掛けています。

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透明や乳白色のガラスだけでなく、こんなカラフルな作品も。シンプルな器形に総柄を施したプレス成型の作品です。

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模様は様式的でクラシカルな印象ですが、一部が横に張り出した、歯車やロケットの羽のような形はアール・デコ感がありますね。

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1910年頃から1930年代前半にかけて流行した車を飾るアクセサリー、カーマスコット。最近は見かけませんが、車の鼻先に金属製の自動車メーカーのマークがぴょこんとついている、あれです。
ラリックのものは下に照明を仕込んで光らせる仕様のものもあります。
これらは愛知県のトヨタ博物館にも所蔵されているんです。ここもいつか行きたい……!

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新館へは、ガラス壁の美しい渡り廊下を通っていきます。晴れた日はとても暖かい温室廊下です。
以前、編集をしていました「ART NEWS TOKYO」(2016年7-9号)の撮影でも使わせていただきました。夏帆ちゃんごっこができます(笑)

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新館の展示はこんな感じ。
皇室が購入した作品や、佐賀の鍋島藩の子孫が所有していたカーマスコットなど、日本との関わりを示す品々が展示されていました。鍋島藩は抜けのあるデザインと柔らかい色彩が特徴的な鍋島焼をつくっていたところで、さすがセンスの良さを感じます。
奥には1925年にパリで開催された、現代産業装飾芸術国際博覧会(通称アール・デコ博)の絵葉書や映像をみることができます。15mものガラスの噴水塔を制作するなど、ラリックが全世界の注目を浴びた催しです。

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なぜこんなに饒舌になっているかというと、卒論の題材がラリックだったからです。まぁ、出来はアレだったのですが。。。

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