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白い砂と黒い煙 | ホワイトサンズ国立公園 【ニューメキシコ州】

どこまでも続くまっすぐな道路。
何もない景色が広がるが、道路脇の送電線だけはどこまでも伴走を続けてくれていた。

目的地はホワイトサンズ国立公園。
絶景ポイントと聞いて行ってみたかった場所の一つだ。

絶景に出会うその前に


この国立公園はチワワ砂漠の北端、ニューメキシコ州南部にある。
メキシコとの国境とも近く、軍の重要施設であるホワイトサンズミサイル実験場もあるため途中の道路には検問施設があった。
セキュリティチェックおよび不法移民の取り締まりのためだろう。

陸路で国境を越えるには厳重な検問施設を通過しなければならないため、正式に入国している人、車両はすでにチェックを受けているはずだ。
それでも不法移民を取り締まるには十分ではないらしい。
荒野を徒歩で入国する者、荷物に紛れて入国するものなど、ブローカーを通じた不法入国はアメリカの深刻な社会問題の一つとして、少し前にNHKでも特番で取り上げられていた

テキサスやニューメキシコの国境付近ではしばしばこの検問が待ち構えており、既にこれまでも数回、この検問通過体験をした。
何一つ隠しているわけでもないし、むしろ我々はこの検問により守られている市民の側なのだろうけれど、こういう場は正直恐ろしい。

パスポートやI Dなどの提示はもちろんのこと、場合によっては車内もしっかり確認される。

しかしこの時は、日本のパスポートを提示しただけで
「ナショナルパークに行くの?オケ、楽しんで」とフレンドリーな言葉で通してくれた。
もちろんですっ!

広くまっすぐな道が続く
ナショナルパークの看板が見えてきた
わずかに白い砂を含む景色
まるで積雪後のようだ

純白の絶景に出会う


まずはビジターセンターに立ち寄る。
車から降りるとカッと照りつける日差しが眩しい。
ニューメキシコ州でよくみられるアドベadobeという特徴的な土壁の建物がここでも迎えてくれた。

上部が丸みを帯び、杭のような突起物が飛び出しているのがアドベの特徴


たくましさを感じるサボテンの花


アパッチ・プルームの花

センター内にはこの砂漠に関する展示とお土産コーナーが設置されていた。

この白い砂は石膏だそうだ。
長い長い年月を経て地殻変動と気候変動により、非常に限られたこのエリアだけが純白の砂漠となった。
琵琶湖よりも狭いこの白い世界の住人であるネズミ、トカゲ、コオロギなどの野生動物の中には体色を白く変化させた種もいるという。運が良ければ出会えるらしい。
また、砂漠の中をトレッキングすることも可能であるが、くれぐれも十分な水分を確保した上で行動するようにと指導もあった。

2億7500万年前ここは海の底だった
約580平方キロメートル、琵琶湖よりも少し狭いくらいの広さ

いよいよ純白の世界へ

砂漠地帯の内部までへはさらに車を走らせる。奥地へ進むほどにに景色は混じり気のない純白の世界に変化していく。

砂丘の一角では多くの家族連れがソリ滑りを楽しんでいた。
ホワイトサンズではトレッキングもできるが、このそり遊びが目玉のアクティビティとなっている。
まるで雪山のような光景だが、ここは砂漠。
ギラギラと照りつける日差しは容赦ない。

大人も子供も砂丘を満喫
まるで月面のような光景
日差しよけのシェルターが点在している
風によって作られた凹凸がアートのようで美しい
キラキラと輝く砂の粒

しばし幻想的な世界に浸る。

そんな感動の絶景体験であった。おしまい。

・・・と今回の旅日記を終わりにしたいところだが、続きがもう少しある。

こんなところで黒煙?!


砂丘を目の前に感嘆の声をあげていた時、頭上を戦闘機が通過していった。
ここは軍事基地とも近い。まぁ、戦闘機くらいは飛んでいても不思議ではない。
しかし何も国立公園上空をこんな低空で飛ばなくてもいいのに、と頭の隅でぼんやりと考えていた。

それから間も無くしてとてつもなく大きな爆発音が耳に入ってきた。
すんごい落としたけど、今のなに?!
と驚きはしたが、やはり頭の片隅ではここはミサイル発射実験場も近いし、演習発射でもしているんだろうな、物騒だけどきっとここではいつものことなのだろう、と冷静に受け流している自分もいた。
こういうのを正常性バイアスというのだろうか。

ぼんやりぼんやり頭の片隅でそんなことを思いながら、ふと顔をあげると砂丘の向こうに立ちのぼる黒煙が目に入る。

はっ?!黒煙!!!!!

周囲からは特に悲鳴などが聞こえたわけではなかったが、車で来た道を戻る。

つい先程まで多くの家族連れで賑わっていたソリ遊びエリアにはカラフルなソリと脱ぎ捨てられたままの靴が残され、人の姿はない。
何かが起こったのは間違いない。

完全に放棄されている・・・

いくつかの丘を過ぎたところに警察や軍の車両が集まっていた。
爆音からほんの10分ほどしか経っていないというのに、かなりの数だ。

よせばいいのに、夫はその一角に車を停め「ちょっとみてくる」と言い砂丘を駆け上がっていった。

周囲では関係者が目撃者に聞き込みをしており、目撃者の一人が煙とは逆の方角を指し示し何やら情報提供していた。
私のところにも二人組の男性がやってきて、何か見たか、写真などは残していないかと尋ねてきた。
戦闘機が墜落したらしい。

 ’やばい、煙の写真撮っちゃったよ、軍の機密情報だったらどうしよう・・・
 ’面倒臭いことに巻き込まれたりしたら嫌だな・・・
 ’最悪スマホ没収されたりしないよね・・・
 ’いや、ここは正直にさっき撮った写真を提出しよう、その場で消去すれば許されるよね・・・

一瞬の間に頭の中では壮大なストーリーが展開していく。思い出して欲しい、だってここはロズウェルからも近い場所なのだから。

恐る恐るスマホの写真を差し出すと、
「煙だけならいいや!」
と警察官はあっさりと立ち去っていった。

 ’あ、あ、そうですかぁ〜

拍子抜けするほどの塩対応に、自分の大げさな妄想が恥ずかしくなる。

丘から降りてきた夫によると、どうやらパイロットはパラシュートで脱出し砂漠内に着地したらしい。目撃者の一人がパラシュートが落ちていくのを見たらしく情報提供を行なっていたとのことだった。
機体もパイロットのパラシュートも丘の上からは目視できず、機体が墜落した方角とパラシュートが落下した方角それぞれへ捜索部隊が向かっていったそうだ。

物々しい雰囲気でこれ以上その場にいる様子でもなく、早々に国立公園を後にした。
途中公園内外でさらに何台もの特殊車両とすれ違った。

帰路、アラモゴードを抜け峠の上からホワイトサンズを振り返る。
ごく一角だけ白い砂が広がっているのが見えた。


後の報道によると今回のこの一件は、F14戦闘機の墜落でパイロットは無事であるとのことだった。園内にいた一般人も巻き込まれてはいないようだ。

結果的には観光客がいた場所からは離れた場所に墜落したわけだが、国立公園の敷地内であったことには変わりない。一歩間違えば大惨事だったかと思うとゾッとする。

美しい自然のままの光景が保護されている場所であるはずが、人も自然も破壊する軍事実験の重要拠点でもあるという矛盾。
それはホワイトサンズに限ったことではない。
楽園のような純白の砂丘の向こうに浮かび上がった真っ黒い煙はそんな矛盾を抱えた世界を象徴するかのようだった。

そんな矛盾を見つめる機会ともなった絶景体験だった。

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