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~読むアロマ~「香君」上橋菜穂子

物語の世界観を香り(精油)で表現する「読むアロマ」。
「読むアロマ」は、思わず手に取ってしまう美しい装丁のように、イメージを香りでデザインしたもの。物語と、精油が持つ香りや働き、様々なエピソードをつなげて、オリジナルのアロマブレンドを作ります。

新旧、ジャンル問わず、好きな物語、気になる話をランダムにピックアップして、作った香りのご紹介です。


装丁もきれい



2023年1回目のnoteは「~読むアロマ~香君」です。

ずっとずっと気になっていた物語。
大好きな上橋菜穂子作品でテーマが「香り」となれば、読まずにいられるわけがない!(笑)
ワールドにどっぷりつかりたくて、一気に読める機会を狙い、このお正月休みに念願がかないました。

上橋作品の魅力

とにかく、人も街も自然もすべてが生き生きとしていて、まるで実在のどこかの国の昔話を聞いてるような気持ちになるんです。

歴史学者の磯田道史先生の歴史解説のような、最近ハマってる「歴史を面白く学ぶ」COTEN RADIOを聞いているような。


主役も脇も登場人物ひとりひとりが丁寧に描かれていて、出てくる食べ物は鼻先に湯気を感じられるくらいおいしそう~。

加えて、様々な謎解きや政治的かけひきなども満載で、エンタメ要素も抜群!一気に読ませてしまう力にあふれているのです。

それはきっと、文化人類学者の世界を観るミクロとマクロの視点と、ストーリーテラーの才が創り出す唯一無二の世界。

ジブリのナウシカやシータたちに通ずる、賢さと深い優しさ、それを支える芯の強さを持つ主人公たちの姿に勇気づけられた読者がきっとたくさんいるはずです。


「香り」の概念をくつがえす

そしてこの「香君」です。
アロマセラピストとして植物から抽出される「精油」、「嗅覚」「匂い」の役割やすごさについてはもちろん知っていました。
でも、これほどまでにすごいとは!

だって、香りを表現するのに「いい香り」とか「臭い」とかじゃなくて
「にぎやか」とか「安心する」や「怖い」という言葉が使われるんですよ。
香りは植物にとっての声という、植物の目線で香りが語られたとき、違う世界が立ち上がってきてもう愕然。

物言わぬ、根をはった場所から動くことのない「静」のイメージの植物が、ゆたかでにぎやかなコミュニケーションを「香り」でするという事が、学術書ではなく、物語で語られることでストンと肚落ちしました。

「匂い」についてもそう。
並外れた嗅覚をもつ主人公のアイシャは、植物の「香りの声」だけでなく、人の匂いの香跡からもたくさんの情報を得ます。

その人物の、「心理状態」「痕跡」「存在」
「匂い」という言葉には気配や雰囲気という意味があり、身体的に感情や記憶と深くつながることからもその情報の質と量がうかがえます。

時間や空間を超えちゃう「匂いの情報」
人がみな等しく嗅覚が今の1000倍?10000倍?くらいになったらスマホ並みの新機能を身体にもつことになるのでは?!(笑)

香りを感じるとき、目を閉じたり、暗闇のほうがより際立つというのも印象的。「見えない方が観える」ことの意味も深い深い。


物語が新しい扉を開く

この物語は、前述したように、ある意味私にとっては「植物と香り」「香りと言葉」など、植物や自然についての最高におもしろいテキストのようでもありました。

植物たちの世界について興味がありつつ、積んでいた本たちを俄然読んでみたくなったのです!


積まれていた本たち


そして物語、ファンタジーがもたらすものについて。

一見すると関係がないように思えるイメージやファンタジーを扱うからこそ、悩みやこころの本質に迫れるのです。(中略)ファンタジーだからこそ、こころの深みや真実を見せてくれるのです。

100de名著『モモ』/河合俊雄(NHK出版)


臨床心理学者の河合俊雄先生が、心理療法の現場で夢や箱庭などのイメージ、ファンタジー表現を大切にすることにつなげて『モモ』解説したものです。

「香君」を読み終えて、印象に残ったシーンや言葉などをひろっていくと、「今のわたし」が物語を通してたくさん見えてきました。

そのなかのひとつ、オリエ(香君)がやろうとしたことを語った部分。

オリエがつくった「場」の中で、自らの立場を再確認し、自らの意思で未来を選ぶ。そういう道をオリエは作りたかったのだ

香君(下)/上橋菜穂子著(文芸春秋社)


そう、そうなんです。わたしが言葉×香りとで「場」を作りたい理由も同じなんです!

設定や環境が全然ちがってもハートに届く言葉がある。だから本を読み、動いた気持ちを言葉にし、それを香りにしたい。
きっとそれは人を幸せにするエネルギーになってくれるから。

物語は読んだ人ひとりひとりのための「気づきの扉」を用意してくれてるんですね。


読むアロマ「香君」ブレンド

・ローズマリー・シネオール
・メリッサ


今回の「読むアロマ」は香りがテーマなだけに、物語のキーになる青香草の香りをイメージして作ってみました!

~青香草~
普通の人には「匂いがない」と感じ、異郷からきた者たちだけが分かる。青い花をつけ、涼やかな、青い光のような香り。独特のすっとする、一度嗅いだら決してわすれられない。別名を「涙の花」といい、答えを求める者、求道者「リタラン」が肌身離さず身につけている。美しき香君オリエを思わせる香り。そしてオアレ稲の眠りを覚ます・・・


読みながら思いついたのはローズマリー。そのスッとする香りや、青~青紫の花をつける姿、「海のしずく」という名の由来、記憶のハーブなど、民間薬として使われてきた長い歴史を持つこともイメージにぴったり。

そして、「青香草の香りがそのまま女人になったような」オリエの気品と優しさをあらわすメリッサを。昔から生命力を強化する万能薬として知られ、香りはミツバチが好むことから「ミツバチ」を意味する名がついたほど。

たった2種類のブレンドですが、清々しさと角のとれたやわらぎを含み、明るさと落ち着きをもたらします。

アイシャが嗅いだら何というのかな?聞いてみたいような、ちょっと怖いような(笑)

この香りの花が咲く泉のそばに行ってみたい。
物語の世界とシンクロする、そんなブレンドになりました。


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