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閉鎖病棟にスマホを持ち込んだ話

「Twitter…したすぎるぜ」
重度ネット依存のわたし(当時中2)は、児童精神科病棟の女子エリアでそう呟く。
わたしの隣には、無免許バイクで補導されそのまま精神科送りにされ早1年経つマシロちゃんがいる。
学年的には中3、小学校でダブっているため年齢的には2歳上の彼女とは1回目の入院で意気投合し、わたしが退院してから今回の2回目の入院までの間も連絡を取り合い、マシロちゃんが外泊で一時帰宅をすればその度にゲーセンやカラオケで遊ぶ仲だった。

「どうにかスマホ持ち込んでくれない?」
わたしはマシロちゃんにそう持ちかける。
入院歴1年を超えている彼女は外泊も比較的気軽にでき、その隙にどうにかスマホを病棟内に持ち込んで貸してもらおうという魂胆だった。
「荷物検査どうするんよ。ここの看護師私にだけ厳しくて靴の中とかまで見られるんだけど…」
そう、ここは閉鎖病棟なので、禁止物品を持ち込んでいないかどうかの荷物検査がある。それをどう乗り越えるかだった。
「ローター持ち込んでたじゃん、アレ通ったならいけるって」
「ローターはいけてもスマホはやばいって」
「いやローターもやばいだろ」
「性欲溜まるんだよ」
JCの会話である。

「こういうのは?」
わたしは1つ提案する。
まず、外泊から病院へ戻るときマシロちゃんはスマホを持って戻ってくる。
そのとき、病棟に上がる前にスマホを1階のトイレの裏に隠しておく。
その後、わたしが単独散歩に出て、スマホを回収する。
(外泊から戻ってすぐのマシロちゃんが散歩に出ると怪しまれる上、散歩後にも軽い荷物検査はあるので)
そして、比較的荷物検査が軽いわたしが病棟に戻り、無事閉鎖病棟でスマホを使用できる。

「すごいよ!さすが天才だよ!」
感激するマシロちゃん。
わたしは病棟内で"天才"と呼ばれている。理由は…わたしより頭が良い人がいないから。
これはわたしが特別頭が良いという訳でもなく、みんな(わたし含む)の頭が悪すぎるだけということに、わたしは数年後まで気づかないのだが…
とにかくみんなも、わたしも、わたしのことを"天才"だと思っていた。

週明け、作戦は早速実行された。
マシロちゃんが病棟から戻ってくると、看護師にバレないよう目で合図がくる。わたしは単独散歩に出た。
トイレにはスマホと大容量のモバイルバッテリーがあった。
病室のコンセントを使うと、何らかの方法でスマホ所持がバレてしまうかもしれないので、充電はモバイルバッテリーですることにしたのだ。
それを回収し、早く戻りすぎると怪しいのでその辺を適当に散歩し、病棟へ戻る。
作戦はあっさり成功した。

病棟にはマシロちゃん以外にも仲が良い子がいる(今度その話も書きたいな)
が、スマホのことはわたしとマシロちゃんの秘密にすることになった。
誰がチクるかわからないからだ。
「隠語を決めよう」
病棟内でスマホの話をしていると危ないので、別の名前で呼ぶことをわたしは提案した。
「スマホは…うまい棒でいいか」
「モバイルバッテリーは…からあげにしよう!」
なぜうまい棒とからあげになったのかは自分たちもわからないが、名前が決まった。
それからというもの、わたしとマシロちゃんは
「うまい棒貸して」
「うまい棒残り10本だから、からあげ食べて」(スマホの充電が残り10%だから、モバイルバッテリーで充電して、という意味)
という謎の会話を始めた。(つづく…?)

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