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土曜日の児童相談所

2021年4月某日

当時15歳のわたしは北新宿の児童相談所内にある一時保護所に収容されていた。
入所してまもない頃は非日常で異常で特別に感じたこの場所での生活も、1ヶ月弱繰り返せば日常化して退屈になる。
日中は教員免許を持った先生が来て授業をしたり体育館でランニングをしたり、担当の児童福祉司が面会に来たりと何らかの日課がある平日と比べると、世間は休日で保護所に出勤する職員の数も少ない土日はわたしたち入所児童にとっては退屈でつまらない週末だった。
あと何回、ここで週末を過ごすのか。
そもそも、ここを出たらどこで、どのような生活が待っているのか。
そんなことを考えていた、とある土曜日の話。


7:00

生活場所の電気全てが一斉に点灯すると同時に飛び起きる。
地域によって違いがあるらしいけど、わたしが入っていた一時保護所は特に休日だからといって起床・就寝時間が変わる訳ではなかった。
常ストレスがかかっているせいか毎秒緊張していたので、眠気に苦しむことなく布団を畳んで4人部屋の居室を出る。

7:15

電気が付いた7時からの15分間で、寝具を片付け着替え、トイレ、洗顔、着席をすませる。
7時以前に布団を出ると怒られるし時間を過ぎても怒られるので鬼だと思う。
一時保護所では空き時間のほとんどの時間に読書をすることになっているが、朝の時間帯は漫画も読める。コナンが全巻揃っていたり、ちゃおが発売日に来たりと無駄に品揃えが良かった。

8:00

着席後は順番に検温をしたり、1日の予定を確認して大体8時くらいに朝食を食べる。
前日の夕食は18時で既に12時間以上が経過し毎朝お腹が空いていたから、ピンクの配膳車に乗ってやってくる朝食が待ち遠しかった。

9:00

普段は漢字や計算ドリルなどをコピーしたプリントを各々勉強する時間だが、休日の児童相談所にはそれがなかった。
その代わりに工作や映画鑑賞など、普段とは少し違うお楽しみ的な活動が行われていた。
わたしは中学までほとんど通ったことがなく学習習慣はなかったけど、ディズニー映画を見るよりも黙々とプリントを進める方が好きだったため、休日の午前中は退屈な時間だった。

12:00

平日と変わらず、昼食は正午を過ぎた頃に食べる。
児童相談所では毎食の食事を給食と呼んでいて、1ヶ月ごとに作られる献立表が壁に貼ってある。
多分給食当番ができない関係で既にお皿に盛り付けた状態で生活スペースに届けられるけど、おかわり分も用意されているし病院食というより学校の給食にイメージが近かった。

13:00

平日なら午後も1時間半ほど学習時間があるけれど、休日は各部屋ごとに映画のDVDを選んで観る時間になっていた。
ジブリ、ディズニー、コナン、聲の形、君の名は etc…
元々品揃えが薄かったこともあって、児童相談所生活も後半になると見たい映画をほとんど見尽くしてしまっていた。
タイトルわかんないけど内容覚えてるディズニー映画がいくつもある…。

15:00

児童相談所での掃除は、土曜日だろうが祝日だろうがこどもの日だろうが関係なくやらされる。
地域によって多少差はあるものの、ほとんどの児童相談所で掃除の時間がつらかったという話は後に施設に入ってからたくさん聞いた。
入所児童は各自掃除の担当場所が決まっていて、掃除が終わると先生に点検をお願いする。
その際に床掃除なら埃1つ落ちていると許されないし、風呂掃除なら浴槽に水滴が一滴でも残っていたらやり直しだった。
小さい雑巾1枚じゃ足を伸ばして3人入れる浴槽を全て拭き切れるわけないのだが、絞ったり自分のハンカチをこっそり使ったりして凌いでいた。

16:00

平日も休日も、16時以降は自由な時間が多い。
自由、といっても限られたスペースの中で、外出とかはもちろんできず、ネットもゲームもなく、本かパズルかお絵描きか選ぶ"自由"がある、くらいなんだけど。
わたしの場合入所した時点で何ヶ月かかるかわからなかったので、コナン全巻読破しようとしたり漫画一冊丸々模写しようとした。
結果両方達成する前に退所できることが決まったけど……。

3月のライオン(多分)の模写


自由帳の中でだけ"自由"だった

18:00

18時になると、遊んでいたものを片付けて夕食の準備をする。
当時はコロナだったため本来あるはずの食堂ではなく、生活スペース内の自分の机で食事を食べていた。
食事の前後で自分の机を拭くために布巾を借りるとき、ひとりひとり並んで先生の前で「布巾借ります!」と宣言しなきゃいけないルールがあって刑務所みたいで怖かった。
トイレに行く時も同様で、入る時と出た時に申告しなければいけない。
習慣になれば言い忘れることはないんだけど、施設を見学した帰りに行ったスシローのトイレの前で「トイレ入ります!」と言ってしまい恥ずかしい思いをした。

19:00

食事が終わるとその日宿直の先生が出勤してきて、講話と呼ばれる話をする。
講話、といっても大したことはないんだけど、テレビでニュースを見ることを禁止されているわたしたちにとって外の世界の情報を知る機会は児童福祉司との外出かこの時間の先生の話からのみだったから真剣に聞いていた。

19:30

宿直の先生のありがたい話が終わった後には日記を書く。
日記も掃除と同様で、土曜日だろうが祝日だろうがこどもの日だろうが関係なく書かされていた。
わたしにとって日記の記入は児童相談所生活でのささやかな楽しみだったので、この時間は楽しかった。
↓児童相談所の日記の話

20:00

日記を書き終えてから消灯までは自由時間で、16時以降にできたような読書やお絵描き、各部屋にあるテレビでニュース番組以外のテレビも観ることができる。
なぜニュース番組を観てはいけないのか先生に聞いたところ、自分のことが(事件としての報道で)出てくる子がいるからと返されて怖くなった。

20:55

遅番の先生が21時に退勤する関係か、21時5分前に消灯になる。
児童相談所によっては休日はもっと消灯時間が遅い場所もあるらしいけど、わたしが入ったところは平日も休日も関係がなかった。
高校生でもこの時間は早過ぎると思ったけど、毎日繰り返したら慣れた。
起床が7時で早い分、多めに寝られるのは案外助かることに気が付いた。


以上、土曜日の児童相談所の生活でした。いかがでしたか?(ヤケクソ)
時系列順にすると案外イメージしやすそうなことに気がついたので、元気な時に平日バージョンも書きたいね。

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