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日記帳のエッセイスト

2021年春。
当時15歳だったわたしが収容されていた、北新宿の奥地にある児童相談所では、毎晩夜7時に始まるその日当直の先生によるありがたいお話が終わった後に日記を書く決まりになっていた。

「オッニョさんの今晩の日記が楽しみです!」
初めて見たときは入所中の中学生かと思ったくらいには童顔で化粧っ気がない、でも一人称はしっかり"先生"の女性保育士にある日日記を配られるタイミングでこう言われた。

表紙に花の写真が描かれた緑色の日記帳に書く内容は、その日の出来事に限定しなくても良いとのことだった。
むしろ悩んでいること、これからしたいことなど、あなたの気持ちを聞かせてくださいといったコミュニケーションを目的としているようだった。行動観察。
だけど文章を書くことが好きだった上、それ以外の時間にプライベート(保護された理由やこれからの進路とかその他とにかく全ての自分のバックグラウンドの総称をそう呼んでいた)に関することを話したり書いたりしてはいけない規則のある一時保護所では、この日記帳はありがたい制度だった。
先生に見られるとか赤で修正を入れられる(これはちょっと癪だったけど)とかはどうでもよくて、とにかく書いていたかったから。

非日常も繰り返せば日常になってしまうし、なんなら巷で日常と呼ばれている暮らしより生活がワンパターンなので書き残すような出来事もなくなってくる。
だけど日記帳の中でなら、過去も未来も飾るのも汚すのも自分の裁量で決められる。着る服も寝る時間も変えられたって、自分は変わらないことを再確認できる!

アーク・オッニョさんの次回作にご期待ください。

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