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10歳のわたしと3DSのお姉さん

学校に行かなくなって、親同士の仲が良いというだけで一緒に遊んでいた同級生たちにもいまいち心を開けない当時10歳のわたしの世界はネットに繋いだ3DSがすべてだった。
平日の昼間に親が買い物やランチに行くとこれ幸いと2つ折りのゲーム機を開き、どうぶつの森のリアルタイムチャットで似たような状態の友達と遊んだり、後にTwitterにハマるきっかけとなるニンテンドー専用の掲示板に張り付いていた。

前述した通り不登校で子ども同士の友人関係といったものを経験したことがなかったり、たまに学校に行ったり同級生の家に呼ばれることがあっても行動圏は常に母親の目に届く範囲に限定されていたわたしにとって、親が選んだ訳ではない友達と遊んだり、自分の意見を言える環境が新鮮でただただ楽しかった。
(この状態が異常だと気付くのはそれからかなり時間が経ってからで、自分の中で折り合いがついたらnoteにしたい)

ネットの常識は勿論、リアルでもまともな人間関係を築いたことがなかったので、所謂"キッズ"と呼ばれる行動も失敗も沢山やった。
今思い出せば全部黒歴史なんだけど、ゲーム内や運営がしっかりしている掲示板の中でやらかしていたお陰か、大きなデジタルタトゥーを付けずに済んだ。
それと比べると、今の小学生はいきなりTikTokやYouTubeから入る分黒歴史のリスクや危険が大きそうだと思う。

当時はどうぶつの森と掲示板ばかりやっていたけど、掲示板の方で知り合ったお姉さんがいた。
どうぶつの森はゲームだけど、メインの遊び(村を作る・アイテムを集める等)に完全に飽きてからは、その瞬間ゲームにアクセスしているランダムで集められたユーザーとの雑談のみが目的となっていた。
ひらがなしか打てないチャットで雑談したり、その場でフレンドコードを交換してまた話す約束をするのが楽しかった。
一方で掲示板はどうぶつの森とは違い、書き込む時間を選ばない代わりに同じ人と何度もやり取りをすることができた。
そんな機能が仲良くなってもフレンドにならないままネットワークエラーで解散になったり、アクセス時間が被らない限りまた話すことができないどうぶつの森と比べて魅力的に思えて、自然に掲示板をメインに使うようになった。

本題のお姉さんは掲示板のどうぶつの森がテーマのコミュニティの常連で、ゲームの元々の仕様はもちろんバグやチートなどの話題にも明るかった。
フォロワーも沢山いて、お姉さんが投稿すればすぐにコメント欄は埋まり、ゲームだけでなく掲示板自体もかなり初期の頃からやっている古参ユーザーのようだった。
わたしはすぐにそのお姉さんの虜になり、お姉さんが投稿すればすぐにコメントしたし、もっと仲良くなりたくてお姉さんについてあれこれ聞いたり、既に界隈化していたコミュニティ内で空気の読めない発言をしていたと思う。

そんなわたしに対しお姉さんは、今思えば掲示板にいるキッズに慣れていたのだろうが、コメントへの返信はもちろん掲示板でしてはいけないことを教えてくれたり、相談に乗ったりしてくれていた。
わたしの他にもお姉さんに群がる常連ユーザーは沢山いて、恐らく大半がわたしと同世代か少し上くらいの小中学生だったはずだけど、お姉さんはいつでもみんなに平等に、分け隔てなく接していた。

ゲームに関する話題はもちろん、それとは関係のない囲いたちの個人的な悩みや相談に親身になって答えていたお姉さんだったけど、お姉さんについての情報を掲示板内で語ることは全く無かった。
そもそも掲示板のルールとしてゲームに関係のない話題はしてはいけないというガイドラインはあったけど、お姉さんはお姉さん自身が秘密主義というか、過去の投稿も含めてわたし以外がお姉さんの素性について聞いていた時も"成人している一般人"ということしか答えていなかった。
掲示板のアバターやプレイしているゲームの内容、テキストの口調などからなんとなく社会人の女性であること以外の情報はわからず、掲示板の規約で禁止されているという理由でゲームのフレンド登録も拒まれ、リアルが忙しかったのかお姉さんが掲示板にあまり書き込みをしなくなってしまったので自然と疎遠になったまま、最初は寂しかったもののわたしは3DSよりTwitterにハマりお姉さんのことを思い出すことも少なくなった。

状況が変わったのはそれから2年後で、わたしは12歳の小学6年生になっていた。
3DSを開くことも少なくなりお姉さんのことはすっかり忘れ、居場所もTwitterに完全に移していたが、ネットニュースで突然わたしとお姉さんが知り合った掲示板が閉鎖されることが報じられた。
久々に掲示板を開くと、もう2年近く新規投稿がなかったお姉さんの書き込みがあった。
本来なら掲示板で知り合った人と他のSNSで繋がることは禁止されていて、それを破ればアカウントが2週間凍結されたりと結構重い措置が取られていたが、掲示板の閉鎖が決まり運営もやる気がないのか、久々に開いた掲示板は他SNSのIDを貼り放題で荒れていた。
お姉さんの新着投稿には既に見覚えのあるユーザーたちがいくつかのコメントを残していたのでわたしも便乗して何か書き込もうとしたところ、あれだけ秘密主義だったお姉さんがTwitterを始める旨のコメントを残していて驚いた。
当時は3DSもTwitterも同じ名前でやっていたので、慌ててTwitterのフォロワー欄を確認するとお姉さんと思われる名前の初期アイコンのアカウントにフォローされていた。

掲示板を一旦閉じ、お姉さんのアカウントにDMを送ってみると、すぐに返信は返ってきたが、掲示板が閉鎖されるのでTwitterを始めたけれど使い方がわからないという旨の説明を聞き違和感を感じた。
お姉さんはてっきり別の名前で既にTwitterをやっていたとばかり思っていた。
違和感はすぐに確信に変わり、Twitterを始めたばかりのお姉さんはTLに流れてくるバズツイにこれまで掲示板でやってきたようなアドバイス口調でリプを残しまくっていた。
掲示板では囲いの質問や相談に答えて人気を集めていたお姉さんだったけど、Twitterで見ず知らずのアカウントに同じことをするのはただのクソリプおじさんとしか思えなかった。
極め付けはツイートの写真にお姉さん自身の手が写っていてそれが明らかに男性の手だったことと、DMで居住地域を明かされ会わないかと誘われたことだった。

お姉さんは掲示板で自身に関することは一切明かさなかったし、後から思えば性別に関して明言したことは無かった。
だけどアバターやコメントの口調、私という一人称からみんながみんな女性だと信じきっていて、中には女性特有の悩みを相談していた女子中学生もいた。
その瞬間に10歳の頃のわたしの幻想は壊れ、インターネットの怖さが少しだけわかった気がした。

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