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愛情飢餓

待ち合わせ場所は、東京郊外の小さな駅だった。
人との待ち合わせはいつもドキドキする。
それが初対面の人との場合、なおさらそうだ。

緊張で心臓が裂けそうになりながら、周りを見回す。
あの人じゃないか?そう思った瞬間、その相手と目が合い、声をかけられる。

「僕は普段そんなに喋らないんだけどね、無言だと怖いかなって思って。」
道を歩きながら"おにいさん"は、初対面の女子中学生に気を遣ったのかそう言って何かと話を振ってくれた。
何を話したのかは忘れた。

「おじゃまします」
おにいさんの家に着くと、わたしはそう言って玄関で靴を脱ぐ。
駅から少し離れたところにあるアパートの2階。
都内とは言っても郊外だからか、今までに行ったおにいさんの家の中では一番広い家だった。

おにいさんが座布団をすすめてくれたので、そこに体育座りをする。
膝を抱えて丸くなっていると落ち着くのだ。

ぽんぽん。おにいさんがわたしの頭を撫でた。
そのままぎゅっと抱きしめられる。
この瞬間、わたしは幸せを感じる。
幸せになったわたしは、おにいさんの腕の中で、溶けていく。

おにいさんが膝の上にわたしを座らせる。
そのまま唇を重ねる。
おにいさんの味がする。
「本当に抵抗しないんだね」
わたしを膝に乗せたまま、おにいさんはそう呟く。

こうやってインターネットのおにいさんと会って幸せをもらうようになるまで、わたしはずっと寂しかった。
でも、今はそんなわたしを撫でてくれる優しいおにいさんがいるから大丈夫。

おにいさんが毎日寝ている布団で添い寝をする。
おにいさんはわたしを抱きしめてすぐに寝てしまった。
不眠症のわたしは眠れず、抱きしめられているので身動きがとれない。
でも、おにいさんと一緒にいるとあったかくて幸せ。

幸せを感じながら、寝ているおにいさんを見つめる。
送ってもらった写真で見るより綺麗な顔だな…。
そう思いながら彼に抱きつく。

おにいさんが起きた。
おにいさんはこのときもわたしの頭を撫でてくれた。
いつのまにか外は夕方になっていた。

駅までおにいさんに送ってもらい、わたしは電車に乗り家に帰る。憂鬱。
このおにいさんはまた会ってくれるのかな。
わたしのことを気に入ってくれたかな。
すっかり今日のおにいさんを気に入ったわたしは、電車の中でそんなことを考える。

次はどんなおにいさんに出会えるかな。
こうしてわたしは、今日もTwitterを開く。

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